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7年前からはじまった…!NHK大河ドラマで3回も“主人公の妻”を演じた美人女優 “離縁を突きつけた”名場面

  • 2025.10.1

2018年に放送されたNHK大河ドラマ『西郷どん』は、薩摩が生んだ明治維新の立役者・西郷隆盛(鈴木亮平)を主役に据えた物語だ。この作品を、あえて女性の視点から見てみたらどうなるか? 西郷を取り巻く女性たちの選択や眼差しに光を当ててみたい。キーパーソンとなるのは、西郷の最初の妻ふたり、須賀(橋本愛)と愛加那(二階堂ふみ)だ。彼女たちは夫を支えるだけではなく、去ることを選んで西郷の人生を決定づけた。英雄の背後には、去りながら支えた女性たちの物語が確かに息づいていた。

離縁で未来を託した最初の妻

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橋本愛(C)SANKEI

西郷の最初の妻・須賀(橋本愛)は、登場時から一筋縄ではいかない女性として描かれていた。愛想がなく、つっけんどんで、少しキツい性格を自覚しつつも、しきたりに馴染み、夫を支えようと努力する姿があった。

しかし、姑の死や家計の苦しさなど不運が重なり、不吉な嫁だと噂される立場に追い込まれてしまう。

そんな須賀が選んだのは、離縁という道だった。ただの別れではない。彼女は実家に戻る前に金を用立て、西郷が江戸へ出るための資金として残していったのだ。夫婦の別れを通じて未来を託す。その選択は、西郷が後に幕末の舞台で頭角を現すための大きな一歩になった。須賀の決断は、支えることの裏返しとして、去る選択をしたことを示している。

橋本愛は、この難しい役どころを見事に演じきった。表向きは冷たく不器用な妻でありながら、その奥には夫を思う情が確かにある。その二重性を、目線や声色のニュアンスで巧みに表現していた。

とくに離縁を突きつける場面では、感情を押し殺しながらもにじむ未練と覚悟が、画面を通して伝わってきた。橋本の持つ硬質な雰囲気が、須賀という人物像に深みを与えたのである。ちなみに橋本はその後、大河ドラマ『青天を衝け』ならびに『べらぼう』でも、主人公の正妻役を演じている。

島に残りながら夫を送り出した妻

奄美大島での島流し生活(通称:島編)において出会ったのが、西郷にとっての二人目の妻・愛加那(二階堂ふみ)である。

島の娘として自然に根ざした生活を送る彼女は、西郷に安らぎをもたらした。ふたりの子どもを授かり、一見すれば穏やかな家庭が築かれるように思えた。しかし、歴史は彼をふたたび薩摩へ呼び戻す。

西郷が薩摩へ戻る直前、愛加那は第二子を身ごもっていた。彼女にとって、西郷を島に留めておきたい気持ちは人一倍強かったはずだ。それでも彼女は、西郷を縛ることはしなかった。夫を島に引き止めるのではなく、未来の日本を背負う人物として送り出す。その選択は、須賀と同じく“去ることで支える”妻の姿であった。

二階堂ふみの演じる愛加那は、島の風土と一体化したような自然体の強さを感じさせた。華美ではなく、素朴で芯のある女性。夫を見送る眼差しには、愛情と喪失感が同時に宿り、観る者の胸を締めつけた。愛する人を送り出す切なさと、未来を託す決意。その両方を二階堂は繊細に表現し、愛加那の存在を鮮烈なものにした。

女の決断が描いたもう一つの維新

須賀と愛加那、ふたりの妻に共通しているのは“去る”ことで西郷を支えたという点である。自分の幸せよりも彼の未来を優先し、自らの手を離すことで背中を押した。もしどちらかが彼を引き止めていたら、西郷は維新の表舞台に立つことなく、歴史は大きく変わっていたかもしれない。

『西郷どん』は、英雄の裏にある女性たちの選択を浮かび上がらせた。去ることは、決して冷たい裏切りではない。むしろ、彼女たちの愛情と覚悟の表れだった。

『西郷どん』は、西郷隆盛を“敬天愛人”の人として描いた大河であると同時に、彼を支え、ときに去ることで未来を託した女性たちの物語でもあった。須賀と愛加那の姿は、英雄譚の背後で静かに積み重ねられたもう一つの維新である。

その存在を立体的に描き出したのは、橋本愛と二階堂ふみの演技だった。冷たさと献身を同居させた須賀、自然体の強さと切なさを背負った愛加那。ふたりの女優の力演があってこそ、『西郷どん』は“女の視点で描く大河”という側面も浮立たせて見せたのだ。

英雄は、決して一人ではない。彼を去りながら支えた女性たちの物語が、私たちにいまも深い余韻を残している。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧・Twitter):@yuu_uu_