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7年前に見せた“危うい純粋さ”が今は“大人の魅力”へ 平成の終わりに“禁断の恋”を描いた名俳優のデビュー作

  • 2025.10.1
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水上恒司 (C)SANKEI

“禁断の恋”――ドラマのキャッチコピーとして使い古された、ある種のジャンルと言える中で、平成の終わりに名作と呼ばれる作品が誕生した。それが、有村架純が主演を務めたドラマ『中学聖日記』である。

片田舎にある中学校に赴任した女性教師・末永聖(有村架純)は、やがて婚約者・川合勝太郎(町田啓太)がいながらも、10歳年下の教え子の中学生・黒岩晶(水上恒司)に心惹かれてゆく。

晶としても、水上恒司自身としても成長していった『中学聖日記』

本作の特徴は、水上恒司にとって芸能界デビューを飾った記念すべき作品だということ。『中学聖日記』が放送されたのは2018年10月、今からちょうど7年前。岡田健史の芸名で、彼がまだ19歳の頃だった。1年にわたり行われたオーディションの中で「純粋で良い意味で洗練されていない、今どきの子にはなかなか無い魅力があった」という理由から起用が決定したという水上。思春期ど真ん中の反抗的で、危うく、それでいて時に魅惑的な晶を、今観てもデビュー作品とは思えない完成度で演じている。初々しさが詰まっていながらも、すでに俳優としての魅力を放っているのだ。

聖との距離が近づいたら頬が緩み、突き放されると残念そうに分かりやすく落ち込む。1分、1秒毎、積乱雲のように乱高下する晶の感情、機微をその表情から読み取れるほどに、目一杯演じている。『中学聖日記』の象徴とも言える、綺麗な夕焼けを無邪気に写真に収めるシーンには中学生の真っ直ぐな純真さを、一方で聖と車内で2人っきりになった際には危険な雰囲気を漂わせる。その揺れ動く心情、中学生特有の“分からなさ”を水上は見事に演じきっている。

驚くのは全11話の中で、晶としても、水上自身としても、成長していくことだ。物語は中学生を経て、高校生、そして社会人へと移り変わっていく。聖と晶が惹かれあっていく代わりに、失った代償は大きかった。しかし、ラストに聖は自分自身の正解を見つけ、ある決心をする――。大人になるにつれ、晶の危うさは徐々に薄れていき、大人としての色気や頼もしさを纏っていく。最終回の観覧車で、聖に「幸せになってほしい」と告げる晶やラストの夕景を望む場所でのシーンなど、第1話の中学生だった晶と本当に同一人物なのかと目を疑うレベルだ。それは水上もまた撮影期間の中で、役と向き合うことによって俳優として成長していったということなのだろう。

『九龍ジェネリックロマンス』ではワイルドな魅力を放っている

『中学聖日記』から7年。26歳となった水上は、『MIU404』やNHK大河ドラマ『青天を衝け』、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』といった人気作への出演、主演の一人を担った映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の大ヒットを経て、現在は吉岡里帆とのW主演映画『九龍ジェネリックロマンス』が公開中。『中学聖日記』の爽やかな印象から一変して、ヒゲにタバコといったワイルドなさらなる大人の魅力を放っている。

10月3日には映画『火喰鳥を、喰う』、同月6日からはドラマプレミア23『シナントロープ』、さらに12月には映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』と、3つの主演作が続々と公開になる水上。その俳優としての成長、進化はまだまだ止まらなさそうだ。


ライター:渡辺彰浩
1988年生まれ。福島県出身。リアルサウンド編集部を経て独立。荒木飛呂彦、藤井健太郎、乃木坂46など多岐にわたるインタビューを担当。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、ドラマ『岸辺露伴は動かない』展、『LIVE AZUMA』ではオフィシャルライターを務める。