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「今クールでいちばん面白い」青春ドラマを超えた“寓話的な演出”の最終話、文学を枠にからめた名作の誕生【月10】

  • 2025.9.29

最終話を迎えた『僕達はまだその星の校則を知らない』。スクールロイヤー・白鳥(磯村勇斗)が、教師の山田(平岩紙)の弁護人となり、学校と争う異例の裁判が描かれた。結果として両者は歩み寄り、和解に向かう。しかし、この最終話が残した余韻は、単なる解決ではない。むしろ、言葉を交わすことの尊さや、まだ知らない未来をどう生きるかという問いかけだった。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

法廷は教室になり、教室は法廷になる

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月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』最終話より(C)カンテレ・フジテレビ

本作最大の見せ場は、やはり生徒たちが証人として立ち、法廷で声を上げるシーンだろう。本来、裁判は争いの場であり、大人の言葉が飛び交う場所だ。しかし、このドラマではそこに生徒たちが並び、教師や理事長と同じ立場で語り合う。教室でのディスカッションが、そのまま法廷にスライドしたかのような場面だった。

山田先生が、担任や顧問を外されてしまったことが悲しい……その率直な証言は、弁護や尋問といった形式を超えて、まっすぐに大人たちへと届く。原告と被告に分かれた場でありながら、彼らの言葉は対立を深めるのではなく、これからどうすればいいのかを、ともに考えるきっかけとなった。

法廷でありながら、教室のように学び合う。教室でありながら、法廷のように言葉の責任を問う。二つの空間が重なり合うなか、大人と生徒が等しく言葉を響かせ合う瞬間が生まれた。これはまさに、青春ドラマを超えた寓話的な演出だったといえる。SNS上でも最終話の展開について「文学を粋に絡めた名作誕生」「かなりよかった」「今クールでいちばん面白いドラマ」と好評だ。

もがき、ぶつかり合い、“まだ知らない”を生きる

最終話の法廷シーンは、本作タイトルにも通じる“まだ知らない”ことを抱きしめる姿そのものだったのかもしれない。そこは法廷と教室が重なり合う場所で、“未熟さを希望に変える”というメッセージが立ち上がってくるような空間だった。

白鳥が語った「僕達はまだ、この星で上手く生きていく術を何も知らない」という言葉は、最終話の核心だった。普通なら“まだ知らない”は未熟さや欠点を意味する。しかしこのドラマは、そこにこそ希望を見いだす。

知らないからこそ、もがき、言葉にし、ぶつかり合う。大人であれ生徒であれ、誰もが“まだ知らない”存在として生きている。その事実を否定するのではなく抱きしめようとする姿勢が、このドラマのタイトルの回収でもあった。

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月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』最終話より(C)カンテレ・フジテレビ

天文台での、唐突なプロポーズシーンも印象的だった。思わず珠々(堀田真由)が「まだ一回しかデートをしていないのに」と漏らしてしまった、白鳥の不器用な告白は、笑いと感動を同時に呼んだ。

健治と珠々の再会、そして突拍子もないプロポーズもまた、“まだ知らない”未来を受け入れる象徴だ。たとえ経験が足りなくても、踏み出すことで新しい世界が開けていく。その姿は、人生全般に通じる普遍的なメッセージを帯びていた。

“まだ知らない”ことが私たちの幸い

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月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』最終話より(C)カンテレ・フジテレビ

『僕達はまだその星の校則を知らない』は一見すると学園ものだが、最終話で提示されたテーマは“人がどう生きるか”という普遍的な問いに近い。学校はただの箱ではなく、生徒・教師・保護者が集まって呼吸する“生き物”であることが示され、そこに暮らす一人ひとりの言葉が未来を形作っていく。

法廷でのやり取りは、争いではなく対話として描かれた。その在り方は、学校という場の理想形を示すかのようでもある。そして最後に、白鳥と珠々が倒れ込んだプロポーズの場面は、“まだ知らない未来”への一歩を肯定するラストシーンだった。

青春ドラマとしての胸の高鳴りと、大人の視点からの批評性。その両方を併せ持つからこそ、この作品は単なる恋愛ドラマや学園ものに留まらない。世代を超えて受け止められる、深い余韻を残していった。

あえて最終話をひとことで表すなら、それは“未完を生きる”ということかもしれない。私たちはまだ知らないことだらけで、ときに迷い、傷つき、争う。しかしその未熟さがあるからこそ、言葉を交わし、少しずつ理解に近づける。

法廷と教室が重なり合う場所で、大人も生徒も同じように学び合う姿は、人生そのものの縮図だった。知らないまま歩み出す勇気を肯定し、“まだ知らない”ことを幸いとして抱きしめること。そこにこそ、このドラマが残した最大のメッセージがある。

『僕達はまだその星の校則を知らない』は、未熟であることを希望に変える青春ドラマであり、同時に人生論としても響く作品だった。最終話の余韻は、視聴者に“まだ知らない未来”を生きる勇気を静かに与えてくれる。


カンテレ制作・フジテレビ系列 月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』毎週月曜よる10時〜

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_