1. トップ
  2. 25年前、日本中が衝撃で震えた“強烈すぎるデビュー曲” 50万枚超を売り上げた“闇を照らすバラード”

25年前、日本中が衝撃で震えた“強烈すぎるデビュー曲” 50万枚超を売り上げた“闇を照らすバラード”

  • 2025.8.29

「25年前の夏、あなたはどんな歌に救われていた?」

2000年の真夏。人々の生活は急速にデジタル化していった。携帯電話の普及でメール文化が生まれ、インターネットカフェが賑わいを見せる一方で、未来に対する不安や孤独も広がっていた。街には新しい時代のざわめきがあったが、その裏側には言葉にできない“影”のようなものが漂っていた。

そんな中、ひとりの女性シンガーが放った声が、その空気を切り裂くように響き渡った。

鬼束ちひろ『月光』(作詞・作曲:鬼束ちひろ)——2000年8月9日発売。

鬼束にとって2枚目のシングルは、テレビ朝日系ドラマ『トリック』の主題歌に起用され、発売直後から話題となった。

シングルは累計で50万枚を超えるセールスを記録し、瞬発的なヒットにとどまらず、長期にわたってチャートに留まり続けた。まさに“ロングヒット”として平成の音楽シーンにその名を刻んだ一曲だった。

鬼束ちひろという“孤高の衝撃”

当時まだ20歳になる直前という若き鬼束ちひろ。彼女の放つ歌声は、単なる新人アーティストの枠を超えていた。

澄んだ声に鋭い棘があり、壊れそうな儚さと力強い生命力が同居していた。聴く者の心の奥をえぐるように突き刺さり、同時にそっと抱きしめるようでもあった。「新人のデビュー曲」とは思えない重みと存在感。それが『月光』に宿っていた。

鬼束自身が作詞・作曲を手がけたことも特筆すべき点だ。セルフメイドの楽曲ゆえに、歌声とメロディ、言葉がすべて有機的につながり、聴く者の心に真っ直ぐ届いた。その一体感は、後の彼女の活動の方向性をも決定づけるものとなった。

undefined
鬼束ちひろ-2002年撮影 (C)SANKEI

静と爆発を描いた“音のドラマ”

『月光』の魅力は、まずその構成にある。ピアノの静かな旋律から始まり、ストリングスやリズムが加わり、曲が進むにつれてどんどんと感情が解き放たれていく。羽毛田丈史による編曲は、余白を大切にしたサウンド作りで、鬼束の歌声を際立たせた。静寂と爆発、抑制と解放。そのコントラストが、楽曲を“ただのバラード”以上の存在へと押し上げた。

また、歌詞は聴き手の感情を映し出す“鏡”のように機能した。闇や孤独を抱えながらも、どこかに光を求める感覚。その余白があるからこそ、聴く人の状況や心情によって、まったく違う意味合いを帯びる楽曲となった

異色ドラマ『トリック』との必然的な邂逅

『月光』が広く知られるきっかけとなったのは、ドラマ『トリック』の主題歌としての採用だった。仲間由紀恵と阿部寛のコンビによる異色のミステリー作品は、当時のドラマシーンでも異彩を放っていた。その不可思議で不条理な物語に、『月光』の緊張感と暗さが驚くほど調和した。

エンディングで流れるたびに視聴者の心に余韻を残し、ドラマの人気とともに楽曲の評価も高まっていった。後年に至るまで、“トリックといえば『月光』”と語られるほど、作品と楽曲は切っても切れない関係性を築いた。

“ロングヒット”を支えた時代の空気

2000年という時代背景も、この曲がロングヒットとなった理由のひとつだろう。ミレニアムを迎えた高揚感の一方で、不況や社会不安が若者を覆っていた時代。表面的な明るさとは裏腹に、心の奥に闇や不安を抱える人々が少なくなかった。

『月光』は、その闇を代弁し、同時に肯定する楽曲として受け止められた。だからこそ、多くの人々にとって特別な意味を持ち続けたのだ。

25年後も消えない“心の月光”

25年経った今でも、『月光』は色あせない。イントロのピアノが鳴った瞬間、当時の空気や、まだ見ぬ未来への不安と期待が一気によみがえる。カラオケやライブで歌い継がれるだけでなく、配信や動画サイトを通じて若い世代にも聴かれ続けている。

この曲は、ただのヒット曲ではない。人々の内面を映す“鏡”であり、時代の空気を閉じ込めた“記録”でもある

そして何より、闇を抱えた心に光を当てる“救い”として、今もなお聴く者を震わせ続ける。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。