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30年前、日本中が勇気をもらった“未完成の応援歌” 子どもから大人まで口ずさんだ“青春の息吹”

  • 2025.8.30

「30年前の1995年、どんな音が街を彩っていたか覚えてる?」

バブル崩壊から数年が経ち、不安と閉塞感が漂っていた時代。けれど若者たちは、新しいカルチャーを求め、未来に向けて歩き出そうとしていた。

音楽はそんな心を支える道しるべでもあり、テレビやラジオから流れるサウンドが背中を押してくれた。そんな空気の中で届けられた曲がある。

TOKIO『ハートを磨くっきゃない』(作詞:芹沢類・作曲:芹澤廣明)ーー1995年6月21日発売

彼らにとって4枚目のシングルであり、アニメ『飛べ!イサミ』(NHK)のオープニングテーマとして多くの人の耳に届いた。

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※Google Geminiにて作成(イメージ)

等身大のバンドサウンドが放つ輝き

1994年に『LOVE YOU ONLY』でデビューしたTOKIOは、アイドルグループの枠組みの中では数少ない“演奏するバンド”として登場した。先駆けには彼らの先輩である男闘呼組がいるが、TOKIOはよりポップで親しみやすいサウンドを武器に、多くのファンを惹きつけていった。

メンバー自身が楽器を手にし、ステージで自ら演奏する姿は、当時の音楽シーンに新鮮な風を吹き込んだ。アイドル的な華やかさとバンドサウンド、その両立こそがTOKIOならではのスタイルであり、『ハートを磨くっきゃない』もその挑戦の延長線上にあった。

アニメと響き合ったポジティブなメッセージ

この曲をより広く浸透させたのが、NHK教育テレビで放送されたアニメ『飛べ!イサミ』だ。そのストーリーと「自分を磨き、前へ進む」という楽曲のメッセージは自然に重なり、毎週の放送を通じて全国の子どもたちに刻まれた。

テレビの前で流れるイントロを聞けば、視聴者は自然と胸を高鳴らせていたに違いない。

芹澤廣明が描いた“青春の系譜”

作曲を担当した芹澤廣明は、チェッカーズの大ヒット曲を数多く生んだ作曲家でもある。

『ギザギザハートの子守唄』や『ジュリアに傷心』といった楽曲で、80年代の若者の揺れる心をポップスへと昇華させた名匠だ。

そんな彼が90年代半ばのTOKIOに提供した『ハートを磨くっきゃない』は、ある意味で“青春の系譜”をつなぐ1曲だった。

この曲もまた、未熟だからこそ輝く真っ直ぐさを鳴らしている。時代もジャンルも異なるが、「青春の息吹を音にする」という点では共通しているのだ。

疾走感と若さが光るサウンド

楽曲の最大の魅力は、イントロから広がる突き抜けるような疾走感にある。軽快なリズムと覚えやすいメロディ、サビに向かって一気に加速する構成は、聴く人に“よし、やってやろう”と自然に思わせる力を秘めていた。

ボーカルを務めた長瀬智也の声は、まだ若々しく荒削りな部分も残っていた。しかし、その未完成さがかえって説得力を与えた。等身大の青年が全力で叫んでいるからこそ、リスナーの心をまっすぐに揺さぶったのである。

30年経っても色あせないエネルギー

今聴き返すと、この曲には90年代半ばの空気感がそのまま閉じ込められている。

経済も社会も揺らぐ中で、人々が求めていたのは深刻さではなく、未来へ進むための力だった。アニメを通じて子どもたちに届き、バンドのサウンドとして大人たちにも広がった、世代を超えて響いた応援歌である。

30年経った今でも、イントロを耳にすれば自然と背筋が伸び、前を向ける。音楽が時代を超えて残り続ける理由を、改めて思い出させてくれる一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。