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渋谷駅周辺の再開発に見る、都市の未来【MY VIEW|内藤廣】

  • 2025.7.23
「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘in渋谷」(渋谷ストリーム ホール 7月25日〜8月27日)では、渋谷駅周辺の再開発を俯瞰できる。写真は渋谷駅周辺模型。Photo_ ©内藤廣建築設計事務所
建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘in渋谷」(渋谷ストリーム ホール 7月25日〜8月27日)では、渋谷駅周辺の再開発を俯瞰できる。写真は渋谷駅周辺模型。Photo: ©内藤廣建築設計事務所

渋谷の再開発は「100年に一度」の規模だと言われていますが、鉄道と地域が一体となってこれほどの街づくりを行うのは、戦後日本において初の試みなんです。JR東日本、東京メトロ、東急電鉄の3社が絡み、日々300万人の乗降客がいる駅で、その機能を止めずに開発を続けているという意味では、「1000年に一度」と言っても大袈裟ではないくらい、世界に類を見ない事業だと思います。

発端は小泉内閣時代に都市再生政策の一環で、渋谷駅周辺が初の都市再生緊急整備地域に指定されたこと。まずは渋谷区がガイドラインを作らねば、ということになり、2006年に国土計画などが専門の土木工学者の森地茂さんを座長とする委員会(渋谷駅周辺地域の整備に関する調整協議会)が立ち上がり、都市計画の専門家として岸井隆幸さん、それから建築に詳しい者として僕が副座長として参加し、もう20年近くになります。

ガイドライン策定時に強く主張したのは、アーバン・コア(鉄道の駅を主体とする多層な都市基盤と街をつなぎ、人を誘導する低層部の縦動線)を設定して、それを表に引っ張り出すこと。それから(再開発における)デザインアーキテクトの参画という2点です。低層部の1〜3階って商業床でいちばんお金を生める場所なんですが、そこにアーバン・コアを出すことはきっとみんな(公共)のためになると思い、けっこう強引に進めました(笑)。そして渋谷においては、個々の再開発が個性的であるべきとの理由から、各事業者にそれぞれ隣のビルとはできれば異なるデザインにしてほしいと伝えてきました。

現区長も多様性を謳っていますが、さまざまな植物が多様性を持って生きられるビオトープのような街になればいいなという思いがあります。渋谷のそんなDNAが生かされていないと再開発も上手くいかないと感じています。現に、渋谷駅中心地区デザイン会議という委員会では、最初期から関わっていただいている渋谷道玄坂商店街振興組合理事長の大西(賢治)さんと、渋谷宮益町会会長の小林(幹育)さんというお二人の存在がとても大きい。都市計画や建築の専門家でこそないですが、長くこの街で生きてきた彼らの勘や上手く言葉にできない渋谷のDNAのようなものは確実にあって、お二人が「これは違う」と言えば違うんですよね。そして「これならまあいいかな」と言ってくれたものは不思議と上手くいくんです。

超高層を建てるなと言っても無理なんですよね。資本主義の圧力、いわばマネーゲームなので、建てられなければ再開発もない。あとは、その利益をどれだけ地域に還元できるかが勝負です。だから、小林さんや大西さんにはいつも、「地上プラスマイナス3階は自分たちのものだと主張してください」と言っています。超高層なんて危ういもので、ちょっと世の中が傾けば使えない塊になるかもしれない。ただ、ディベロッパー側にも常に伝えていますが、地べたのコミュニティに力があればそんなときに助けてくれる。地域を無視して開発だけドンとやったところは、どんな立派なビルを建てても滅びるでしょう。

どこかしら身を隠せるような場所がある街は魅力的な街なのかな、と個人的には思うのですが、渋谷もまさにそんな街ですよね。まっすぐじゃない道や、よく見ると古びたビルがひしめき合っている。どこか森のようなそんな渋谷のDNAを損なわずに再開発が進めば、極めて個性的な街ができ上がるんじゃないでしょうか。

欧米などでは車両を規制している都市もありますが、生真面目にやりすぎると大体は失敗するので、ほどほどに。これから人口も交通量も減り、車も進化していくはずなので、車は歩行者と共存できる、そういう存在になってくると思います。ハチ公前広場とスクランブル交差点をいじるのは2040年ごろになる予定ですが、そのころには複数のアーバン・コアをつなぐスカイデッキが完成し、宮益坂から道玄坂まで比較的平坦にトコトコと歩いていける、まあまあよい環境ができ上がっているはずです。

渋谷の再開発において譲れないものが何かと問われれば、やっぱりハチ公前広場......ハチ公ですね。今、超高層ビルを1棟建てると大体1500億円ぐらいのプロジェクトになります。ハチ公はブロンズのレプリカを作ってもたぶん200万円程度。でも、そのハチ公一匹には誰も勝てない。最強なんですよ。そこをリスペクトする気分がないと、(再開発は)失敗すると思う。でも、みんなそれはわかってるんですよね、犬が最強だっていうのは。あの一匹の犬に、いろんな歴史や物語が張り付いているんですよ。5年先も正直わからないような時代ではありますが、渋谷にハチ公が頑張っている間は、この街は大丈夫だと信じています。

Profile

内藤 廣

この夏、渋谷ストリーム ホールにて渋谷駅周辺の再開発を俯瞰できる「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘in渋谷」(7月25日〜8月27日)が開催。また自身が設計を手がけた紀尾井清堂では、「建築家・内藤廣 なんでも手帳と思考のスケッチin紀尾井清堂」(〜9月30日)も開催中だ。品川や新宿、名古屋などの街づくりにも参画。東京大学名誉教授、多摩美術大学学長も務める。

Text: Hiroshi Naito As told to Yaka Matsumoto Editor: Yaka Matsumoto

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