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現代人が抱える“隠れ疲労”の正体と、正しい回復習慣【忙しい人の休養学 vol.1】

  • 2025.7.17

行き過ぎたタイパ社会が招く、充電不足な日々

現代、とりわけ東京のような都市で暮らす私たちの毎日は、何かに常に追われ、スピードを求められる日々だ。例外なく、私もそのひとり。早朝から複数の案件を並行して進め、気づけば夕方。眠気覚ましのラテを片手にパソコンに向かい、忙しさのあまり昼食を抜く日も珍しくない。空腹はデスクの引き出しに常備しているチョコレートでごまかし、仕事を終えると今度は会食、ときには二次会まで。帰宅するころには夜の1時を過ぎ、ソファに倒れ込みながら「メイクを落とさなきゃ」と思いつつ、スマートフォンでSNSをぼんやり眺めて一日を終える。真に疲れているときは、心身が極限まで水を含んだ泥のように重くなり、"かろうじて人の形を保っている"かのような感覚になる。もしかすると、都市で働く私たちはあまりにも"疲れすぎている"のかもしれない。

事実、日本人は疲れている。休養の専門家である片野秀樹先生はこう解説する。「日本リカバリー協会の調査による最新データでは、全体の約8割の人が"疲れている"と回答しています。近年のデータの推移を見ると、疲れている人が年々増加している状況です」

Woman lying down on bed

そもそも、疲労、あるいは休養とはなんなのだろうか。「一般社団法人 日本疲労学会によると『疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である』と定義されています」(片野先生)

先生の分析によると、現代人の疲労の理由はこうだ。「かつては今ほどにデバイスが発達しておらず、人々の仕事のスピード感はもっとゆっくりとしたものでした。営業職を例にあげるなら、オフィスで行き先をホワイトボードに記入したら、一日かけて客先を数件まわり、途中、電車での移動中にうたた寝をしたり、あるいは喫茶店に寄って軽く一服したり……。今よりも仕事の合間に『余白』があったといえるでしょう。私たちの体は『余白』の時間があると、無意識にバランスをとり、"休養"をとって活力を取り戻すようにできています。

以前は、普段の睡眠で疲労をリセットできていました。翻って現代では、常にPCやスマホを持ち、移動中も仕事から離れる暇がありません。世の中の"タイパ化"に伴い、一見、ムダがなくなって効率化されたように見えますが、実は合間に"休養"をとることができなくなって、常に"休養"が不足。結果、疲労がリセットできず、多くの人が疲労状態にあるのが現状です。現代社会では休養が不足し、もはや漫然と活動して夜眠るだけではリカバリーが追いついていません。スマートフォンでいうなら、50%くらいの充電で一日をスタートしているようなものです」(片野先生)

取れない疲労の正体、“副腎疲労”とは?

栄養のプロである篠原岳先生は、不足している栄養が多すぎると指摘する。「鉄分、亜鉛、タンパク質やマグネシウム、ビタミンB群などが足りない方が多いですね。また、タンパク質不足が深刻です。注意すべきは低血糖。人間の体は血糖値が下がることに危機を感じるようにできていて、車でいうところの"ガス欠"を避ける仕組みがあります。

本来であれば、適切な食事で血糖値を維持できるのですが、若い世代を中心に、食事の内容が不充分な方が多いのが実情です。栄養が不足して低血糖になってしまうと、アドレナリンというホルモンが使われ、血糖値が維持されます。すると、交感神経が活性化して、体が"戦闘モード"に。この状態が慢性的に続くと、『副腎』という内分泌臓器からコルチゾールというホルモンが分泌されます。体が常にストレスにさらされた状態が続くと、この『副腎』が頑張り続けることになり、結果、『副腎疲労』と呼ばれる状態になり、不調を引き起こしてしまうのです」(篠原先生)

副腎が疲労すると、朝起きられない、だるい、イライラや不安感が続くといった、"疲労感"に近い症状を伴う不定愁訴が出現。病気でこそないが、私たちが感じている"疲労感"の正体が、この「副腎疲労」である可能性は大いにありうるのだ。

取り返しがつかなくなる前に、こまめな休息を

Relaxed woman sleeping in bed at night.

そして、最もわかりやすい休養である睡眠も、忙しい人こそ見直しが必要なよう。少し前に遡るが、2021年にOECD(経済協力開発機構)が先進国を中心とした世界33カ国を対象にした調査で、日本人は最も睡眠時間が少ないという結果が出て話題になった。

睡眠の専門家である井坂奈央先生は、睡眠時間もさることながら、その質も注視してほしいとアドバイス。「睡眠誤認という現象があり、たとえ本人に熟眠感があっても、実際は睡眠の質が低かったり、また充分な睡眠がとれていない場合があります。専用のデバイスやアプリで日々睡眠の測定をして、客観的な変化を知ることは、質を高めるための一助に」(井坂先生)

また、疲労には段階があるのだという。「1日〜数日で回復する急性疲労、疲労感が1週間〜数カ月続く亜急性疲労、半年以上続く慢性疲労、そして、その先に慢性疲労症候群という病気があります。都度回復しないと、次第に悪化し、さらに疲労してしまう負のスパイラルに陥って、最終的には病気になってしまうのです。一度にまとめて休むのではなく、日頃からこまめに休養を取り、回復することが重要です」(井坂先生)"寝溜め"ができないように、休養も、そう都合よくコントロールできるものではないらしい。もはや休養を"スケジュールの一部"とみなし、To doに入れておかねばならないのである。

話を聞いたのは……

HIDEKI KATANO

片野秀樹。博士(医学)、日本リカバリー協会代表理事。大学、理化学研究所を経て、現在は同協会にて研究員や講師を務める“休養の専門家”。休養に関する社会問題解決やリテラシー向上に取り組む。著書に『休養学:あなたを疲れから救う』など。

TAKESHI SHINOHARA

篠原岳。医学博士、東京原宿クリニック院長。内科、呼吸器内科、分子栄養療法を専門とする。自身の経験をもとに、西洋医学と栄養療法に加え、キネシオロジーなどのホリスティックなアプローチを実践。患者に寄り添う診療で、不調の根本解決に尽力。

NAO ISAKA

井坂奈央。医学博士、Dクリニック東京ウェルネス 睡眠・SAS外来 睡眠センター長。日本睡眠学専門医。耳鼻咽喉科分野でのキャリアを経て、睡眠分野の診療を行う。診療科の枠を超えた睡眠分野の問題解決を担い、現代人の睡眠事情に精通する。

Text: Kiriko Sano Editor: Misaki Kawatsu

※『VOGUE JAPAN』2025年8月号「アクティブに攻めて、効率的に休む 忙しい人の休養学」転載記事。

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