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22年経っても“刻まれている”名作「強烈にきた」「トラウマレベル」今でも“語り継がれる”2003年のSPドラマ

  • 2025.10.1

2003年放送のスペシャルドラマ『さとうきび畑の唄』は、森山良子の楽曲を基に沖縄戦を描いた反戦ドラマだ。激しい地上戦で県民の約4人に1人が犠牲となった沖縄を舞台に、家族の絆と命の尊さを訴える。遊川和彦の脚本と豪華キャスト陣が、今も色あせないメッセージを放っている。

今年は沖縄戦から80年の年という節目の年でもあり、『宝島』『木の上の軍隊』など沖縄を題材にした映画が公開されている。戦争体験を語る人は年々少なくなり、世界では今も戦争が続いているにも関わらず、日常の中でそれを“自分ごと”として捉えにくい時代になっている。本作のように、映像や音楽を通じて、戦争の悲惨さや、人々の強さを鮮やかに伝えてくれる作品こそ、多くの人に観られるべき作品だろう。

放送から22年経った現在でも、視聴者からは「強烈にきた」「トラウマレベルで覚えてる…」「これを観て沖縄戦を知った」「本当に名作だから観てほしい」といった声が寄せられている。そして現在、配信サービスなどで視聴が可能だ。本作の見どころや作品に込められたメッセージを考察していく。

一家が迎える過酷な運命

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明石家さんま (C)SANKEI

沖縄・那覇で小さな写真館を営む平山幸一(明石家さんま)は、妻・美知子(黒木瞳)と5人の子どもたちの笑顔を何よりも大切にする父親だった。美知子は6人目を身ごもり、長男・勇(坂口憲二)は大学の後輩・紀子(仲間由紀恵)との結婚を決意する。平山家には穏やかな幸福が広がっていた。

しかしその頃、日本は第2次世界大戦へと突き進んでいく。結婚したばかりの勇に召集令状が届き、彼は戦地へ向かうことになる。紀子は平山家に加わり、美知子と共に家族を支えながら勇の帰還を祈り続ける。だが戦況は日に日に厳しくなり、長女・美枝(上戸彩)、次男・昇(勝地涼)までもが戦場へ行く決意を固める。そしてついに、幸一自身のもとにも招集が下る。家族と過ごす最後の夜、幸一は出征を控えた子どもたちに命の尊さを語り聞かせるのだった。
その数日後、疎開先の小学校で教師として働く紀子のもとに、勇の戦死を知らせる報が届く…。

非国民と呼ばれても貫いた家族への愛

父親役を務める明石家さんま。普段の軽妙な芸風からは想像できないほど、真摯で人間味あふれる演技を見せている。家族を思いながら戦争に翻弄される父親像を、ユーモアと悲哀を織り交ぜて体現している点が印象的だ。

幸一は、「国のために死ぬことより、自分の命を守ることを選んでほしい」と子供たちに言い聞かせていた。それは軍国主義の当時では、“非国民”として非難される考え方だ。入隊を決めた昇や学徒看護婦として国に尽くす道を選んだ美枝は、父の考えに反発する。しかし、両親が心から子供たちの幸せと健康を願っていることを知り、涙を浮かべる。戦争の渦中にあっても、親の愛情は揺るがないことを示す印象的な場面だ。

仲間由紀恵が体現する沖縄の声

さらに、仲間由紀恵は沖縄の女性たちが背負った苦悩を鮮烈に体現している。小学校の教員だった紀子は、勇の訃報を受けた直後、子供たちに命の大切さを語りかける。「戦争では何も解決しない」「みんなは生きて、戦争のない国を作ってください」と必死に訴える姿は、幸一の信念と同じく、当時は許されなかった反戦の意志の表明であり、作品全体を貫く大きなメッセージとなっている。

また、防空壕に子どもたちと身を潜めていた紀子が、泣き止まない赤ん坊に苛立った兵士から口を塞がれそうになった場面も強烈だ。紀子は「あなたたちは、沖縄を守るために来たんじゃないんですか」と強く問いただし、住民を虐待し、スパイ容疑で追い詰める兵士たちの行為を糾弾する。この場面は、沖縄戦で実際に起きた日本軍による住民殺害の史実を踏まえたものであり、沖縄が日本国内で置かれてきた複雑な立場を鮮明に浮かび上がらせる。

戦争終結後、沖縄はサンフランシスコ講和条約の発足により日本から切り離され、1972年の本土復帰までアメリカの統治下に置かれた。その間、基地建設や軍備配備が進められ、住民は自らの意思とは無関係に生活を制約されることとなった。

繋がれる命

幸一の妻を演じるのは黒木瞳。母として、妻として、時に静かに、時に強く家族を支える姿を繊細に表現している。黒木の柔らかなまなざしや表情の機微は、家族の心を結びつける温かさと、言葉にできない恐怖を同時に映し出し、観客の胸に深い余韻を残す。

上戸彩は、若さゆえの純粋さと葛藤を抱える娘世代を演じている。当時の戦争教育によって日本が敗戦するはずはないと信じていた若き少女が現実の悲惨さを体感し、次第に考え方を変えていく姿は観客に深い印象を残す。

さらに、黒木瞳と上戸彩は一人二役を担い、戦時中に生まれた末娘とその孫の役をそれぞれ演じる。現代パートでは祖母から孫へと戦争体験が語り継がれ、物語は“命のリレー”としての深みを増している。豪華キャスト陣の演技が重なり合うことで、作品は単なる歴史ドラマではなく「生きた証言」としての力を帯びているのだ。

平和への願いと現代への問いかけ

『さとうきび畑の唄』が描くのは、戦争の恐怖そのものだけではない。平和な日常を願いながらも抗えずに戦争に巻き込まれた人々の姿を通して、「平和を守るとはどういうことか」を現代に問いかけている。家族や命の尊さは、戦時だけでなく、今を生きる私たちにとっても決して色褪せないテーマだ。

本作は、沖縄戦を通して“命どぅ宝(命こそ宝)”という価値観を浮き彫りにした感動作であり、戦争を知らない世代にこそ観てほしいドラマだ。観終えたとき、多くの人が“命どぅ宝”という言葉の重みを心に刻むことになるだろう。


ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand