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35年前、日本中の心を照らした“まっすぐすぎる応援歌” 売上200万枚超の“平成初期を象徴する名曲”

  • 2025.7.14

「35年前の今頃、どんな曲が街中で流れていたか覚えてる?」

1990年といえば、昭和が終わり、平成という新しい時代が本格的に動き出した年。

テレビではアニメ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)がこの年に放送開始となり、高視聴率を記録。バラエティではのちに長寿番組となる『世界まる見え!テレビ特捜部』(日本テレビ系)や、伝説のクイズ番組『マジカル頭脳パワー!!』(日本テレビ系)、若手芸人たちの勢いが爆発した『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(フジテレビ系)など、時代を映す番組が次々とスタートした。

一方、社会はバブル景気の絶頂をすでに越えはじめ、「明日はもっと良くなる」とは言い切れない、静かな不安もまた漂い始めていた。不確かな時代の入口で、テレビは人々に笑いと驚きを届け続けていた。

そんな1990年の9月1日、多くの人の心を照らしたある曲が発売された。

KAN『愛は勝つ』(作詞・作曲:KAN)

この曲はなぜ、ここまで多くの人の背中を押し続ける存在となったのか。今一度、その魅力と社会的インパクトを振り返ってみよう。

“応援歌”を超えた国民的ソング

『愛は勝つ』はKANにとって8枚目のシングル。元々はアルバム『野球選手が夢だった。』(1990年7月25日発売)の1曲としてリリース。じわじわと口コミとラジオのパワープレイを通じて支持を集め、シングルカットされた。

中でも、前年から放送開始となった芸人・山田邦子の冠バラエティ番組『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(フジテレビ系)の番組内で繰り返し流れたことを覚えている人は多いだろう。番組内で山田邦子が「最後にチキンカツ〜♪」と替え歌を披露すると、子どもたちは翌日には学校中で歌っていた。そして、やがて誰もが知る国民的ソングへと成長していく。

この曲の魅力は、シンプルながら心に響くメロディ、力強くもどこか優しさのあるKANの歌声。そして、迷いや困難の中にいる人に向けて、「信じて歩み続ければ、きっと報われる」という“まっすぐすぎるほどのストレートなメッセージ”だ。聴けば聴くほど心に染みていく。

ラジオ、テレビ、そして街角と、様々なところで流れるKANの歌声が、人々の胸を打った。「応援歌」という枠を超え、“生活の中にある歌”として社会現象とも言える存在になっていく。

なぜ『愛は勝つ』は心に刺さったのか?

1990年、日本社会はすでにバブルの終焉へと向かっていた。資産神話が揺らぎ始め、「努力すれば報われる」という単純な価値観に疑問が差し込む空気もあった中で、『愛は勝つ』が響かせたのは、希望の肯定だった。

「愛は勝つ」ーーそれは、何かに打ち勝つ強さではなく、“諦めない優しさ”の強さだったとも言える。

力強さというよりは、静かに、それでもはっきりと「信じる心」を肯定する姿勢。それが多くの人の胸に、安心や勇気を与えたのではないだろうか。

この曲の支持層は幅広く、子どもから高齢者まで世代を超えて浸透。その普遍性の源には、時代や立場を問わず共有できる“信念”がテーマになっていたことがある。

メッセージは、35年経った今も生きている

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第33回日本レコード大賞(ポップス・ロック部門)で歌うKAN (C)SANKEI

『愛は勝つ』は発売の翌年には『第33回日本レコード大賞』ポップス・ロック部門で大賞を受賞。KANは、同曲をひっさげて『第42回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たす。後にダブルミリオンを達成し、まさに「平成初期を象徴する1曲」として記憶されている。

しかしこの曲の本質は、「売れたからすごい」ではない。

“日常における応援”として、無理なく生活に溶け込んだ”という点にこそある。

卒業式、運動会、受験、病気、恋愛、就職……人生の岐路で、そっと背中を押してくれたこの歌は、「一時代のヒット」を超えた“心の定番曲”になった

今もなお「昔の曲だけど、この歌に励まされた」と、テレビの企画やYouTubeなどを通じて、若い世代にも“再発見”されている。

35年経っても、“愛は負けていない”

KANというアーティストは世間が持つ素朴なイメージと反して、様々なコスプレを披露したりと見る人によって表情を変える“独特なセンス”を持つ。しかし、そんな彼から生み出される楽曲は、変に着飾らず、じんわりと静かに心へと染みていく。

そして『愛は勝つ』が放つメッセージは、35年経った今もなおまっすぐで、少しの揺らぎも見せていない。時代は変わり、価値観も複雑になった現代においても「信じる心が報われる」という思いは、以前よりも強い力を持って響くのかもしれない。

音楽ができることは限られている。

それでも、ある一曲が人の心に明かりを灯すという事実を、この歌は証明してくれた。

『愛は勝つ』ーーそれは、過去のヒット曲ではなく、“今も鳴り続けている勇気のうた”なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。