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35年前、日本中の耳に刺さった“明るすぎる失恋ソング” 浮気相手だった女が描く“恋の終わりの美学”

  • 2025.7.13

「35年前、あなたは誰に何のプレゼントを渡していましたか?」

1990年2月14日。多くの人が“想いを伝える日”として浮かれるバレンタインに、真逆のラブソングが放たれた。

バブル崩壊がはじまっていたとはいえ、まだまだ人々の価値観は“勢い”や“派手さ”を好んでいた。そんな中、キュートなガールズボイスと小気味よいビートで突きつけられたのは、「さよならしてあげるわ」という強烈な別れの宣言だった。

JITTERIN’JINN『プレゼント』(作詞・作曲:破矢ジンタ)。

一聴するとキャッチーで軽快。だが、耳を傾けるほどに滲む感情の棘。この曲がなぜ35年経った今も“強くて可愛い女の子”の象徴のように語られるのか、その理由をあらためて見ていこう。

“振られる”んじゃない、“振ってやる”側の美学

伝説の人気音楽番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(TBS)で6代目イカ天キングとなり注目を浴びたバンド・JITTERIN’JINN。彼らは1989年にシングル『エヴリデイ』(作詞・作曲:破矢ジンタ)でCDデビューを果たす。

『プレゼント』は、そんなJITTERIN’JINNが1990年2月14日にリリースした2枚目のシングルのタイトル曲。タイトルに反して、そこにあるのは優しさでも、純愛でもない。むしろ痛快なまでに突き放した、別れの“置き手紙”的な一曲だ。

曲のはじまりは、少し儚げなオルゴールの音。そこから、小刻みなギターのカッティングとともにトイピアノがメロディを奏でる。

ボーカル・春川玲子の歌がはじまると、恋人と思しき相手からのプレゼントが次々並べられていく。「キリンがさかだちしたピアス」のような少し気になるアイテムのほか、当時の若者たちのカルチャーを反映したようなアイテムが続く。

しかし、サビに入ると一変する。その彼には別に恋人がいることがわかり、彼女は「さよなら」を告げるのだ。リズムは明るく、ボーカルは朗らか。でもその中に込められたのは、「あなたのことは好き。でも、もう終わりにしよう」という鋭くも清々しい諦め

女性側がストレートに恋愛を終わらせる歌詞。それをこの軽やかなサウンドで表現したことで、より多くのリスナーの耳に刺さったのだろう。

バブルが崩れていく中で響いた、“感情のリアル”

当時、日本はバブルが崩壊していく最中だった。しかし、まだまだ恋愛は贅沢でロマンチックであることが良しとされていた時代に、『プレゼント』はまるでその価値観に楔を打ち込むような存在だった

彼女がいる男に惹かれ、でも結局は諦める。恋の勝者でも敗者でもなく、自分の感情にケジメをつけて立ち去るーーそんな女性像は、甘く囁く恋愛ソングとは明らかに一線を画していた。

人々が“本音”や“現実”に向き合い始めた空気の中で、『プレゼント』のような曲が共感を呼んだのは、自然な流れだったのかもしれない。

なぜ“明るすぎる失恋ソング”『プレゼント』は今も語られるのか?

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※Google Geminiにて作成(イメージ)

明るい曲調で“別れ”を歌うギャップの妙と、そこに宿る潔さ。悲しい恋をテーマにしていながら、湿っぽさが一切ない。むしろ爽やかで、聴いていてスカッとする。その痛快さが、多くの女性リスナーにとって「わたしもこうありたい」と思わせるものだった。

この“明るい失恋ソング”のスタイルは、後年のアーティストたちにも引き継がれ、失恋=悲劇ではなく、自分を取り戻すスタートとして描くスタイルを定着させていったと言ってもいいかもしれない。

“強くて可愛い”の原点

JITTERIN’JINNはその後も『にちようび』や、後にWhiteberryがカバーしリバイバルヒットした『夏祭り』など立て続けにヒット曲を生み出していく。芯のある音楽性と、独自の世界観で熱心なファンを獲得していった。

『プレゼント』は、その中でもひときわ印象的な作品。表面的にはポップでも、中身はずっと深くて強い。令和の今でも、音楽フェスやラジオ、昭和・平成レトロブームの文脈の中でこの曲が語られるのは、シンプルな言葉で「女の子が自分で決めて、自分で終わらせる恋」を描いたアンセムだからだ。

時代は変わっても、あの“プレゼント”は有効期限なし

35年経った今でも、『プレゼント』を聴くと、なぜか背筋がしゃんと伸びる。「うまくいかなかった恋」すら、自分の手で終わらせる潔さ。

それは、恋に限らず、どんな別れにも効く“自己肯定の処方箋”のような曲かもしれない。

JITTERIN’JINNが1990年のバレンタインに届けたこの曲は、甘さではなく、覚悟を包んだ“最後の贈り物”だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。