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35年前、日本中が踊り出した“究極のおふざけソング” 90年代の空気を映し出した“不滅の名曲”

  • 2025.7.15

「35年前の今頃、どんな曲を口ずさんでいたか覚えてる?」

1990年、テレビから流れてきた1曲が、耳に残って離れなくなった。

どこかコミカルで明るいイントロが鳴り響いたかと思えば、何の前触れもなく、にぎやかで意味不明な言葉が踊り出す。テンポは速く、メロディは陽気すぎて、どこか脱力感があるのに、なぜか耳が離せない。

B.B.クィーンズ『おどるポンポコリン』(作詞:さくらももこ・作曲:織田哲郎)

初めて聴いたときは「なんだこれは?」と戸惑った人も多かったはず。それでも気がつけば、日本中がこの曲を口ずさんでいた。

“おふざけ”に見せかけて、実は綿密ーー楽曲としての巧妙さと完成度

『おどるポンポコリン』は1990年4月4日、B.B.クィーンズのデビューシングルとしてリリースされた。アニメ『ちびまる子ちゃん』の初代エンディングテーマとして制作された楽曲であり、番組の世界観に寄り添うかたちで企画されたものだ。

その魅力は、一見すると“ふざけた”印象の中にある。だが耳を澄ませば、そこには綿密に組み上げられたポップソングの構造が潜んでいる。

細かく詰まった譜割、次々と展開していくメロディ、楽器の合いの手やコーラスの配置。すべてがテンポよく、遊び心たっぷりに組み合わされていて、おもちゃ箱をひっくり返したような多幸感を生み出していた。

とりわけ印象的なのは、「いえー!」というフェイクや「ボワッと〜」と響く謎の合いの手。本来はライブやR&Bで多用されるような声のアドリブが、ここでは完全に楽曲の一部として計算されている。

ふざけてるようで、ふざけきれていない。その絶妙なバランスこそが、多くの人の心に残った理由なのかもしれない。

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(C)SANKEI

歌っていたのは“ふざけた名義”の、本気のプロたち

この曲を歌っていたB.B.クィーンズは、見た目こそ陽気でふざけたユニットのようだったが、その実態は、実力派ミュージシャンが結集した本格的な音楽プロジェクトだった。

ボーカルの坪倉唯子は、この曲では少し鼻にかかった高めのトーンで軽やかに歌っているが、本来はハスキーで厚みのある声も自在に操る、表現力豊かなシンガーだ。

一方の近藤房之助は、長年ブルースの現場で活動してきた本格派。あの渋く深い声が、子ども向けのように見える楽曲に、大人のニュアンスと余白を持ち込んでいた。

タイプの異なる2人が並ぶこの組み合わせは、当時としては異色。だがその意外性こそが、楽曲に独特の厚みと不思議な説得力を与えていた。

音楽的には一切の妥協がない。それでも、重すぎず、どこか肩の力が抜けたように聴こえるのが、B.B.クィーンズの凄みだった。

さらに、グループのコーラス隊として参加していたB.B.クィーンズ・シスターズは、後にMi-Ke(宇徳敬子・村上遙・渡邊真美)として1991年に『想い出の九十九里浜』(作詞:長戸大幸・作曲:織田哲郎)でデビュー。昭和歌謡をオマージュした楽曲でヒットを飛ばし、リバイバル路線の先駆けとしても高い評価を受けた。

“ふざけてるようで、底が知れない”ーーそれがB.B.クィーンズというグループの本質だったのかもしれない。

奇抜な衣装と“踊れる曲”ーー視覚でも記憶に残ったパフォーマンス

テレビ番組に登場したB.B.クィーンズは、視覚的にもインパクトが強烈だった。

原色だらけの衣装に、コミカルな柄合わせ、妙に浮かれた髪型やサングラス。まるでキャラクターのような出で立ちで、音楽番組の中でも一際異彩を放っていた。

加えて、この曲には印象的な振り付けがあった。子どもでも真似できるシンプルな動きがつけられていたことで、学校や家庭の中にも浸透。

「歌って」「踊れて」「笑える」この曲は、視覚と聴覚の両面で、世代を超えて記憶に残る存在になった。

“ちびまる子ちゃん”との相乗効果が生んだ特別な空気

『おどるポンポコリン』が国民的ヒットとなった背景には、もちろんアニメ『ちびまる子ちゃん』の存在を忘れてはならない。

1990年に放送を開始したばかりのこのアニメは、どこか懐かしくて、ゆるやかな時間が流れる日常を描きながら、瞬く間に多くの家庭に浸透していった。そしてそのエンディングに流れたのが、この曲だった。

作詞を手がけたのは、原作漫画の作者でもあるさくらももこ本人。大人も子どもも思わず笑ってしまうような言葉選びと、ちょっぴり不条理なテンション感は、まさに彼女独特の“脱力ユーモア”の結晶だった。

歌詞と映像が完全に呼応することで、音楽は単なるBGMではなく、“まる子の世界そのもの”として視聴者の記憶に深く刻まれていった。

明るくて、ちょっととぼけたメロディと、まる子たちの“なんでもない日常”がぴったり重なり、いつの間にか“日曜の夕方”そのものを象徴する風景になっていった。

『おどるポンポコリン』によってアニメの印象は強く残り、逆にアニメの人気がこの曲の支持を押し上げた。作品と音楽がお互いの魅力を引き出し合いながら育っていった、そのバランスこそが、長く愛される理由だったのかもしれない。

ふざけてるのに、完成度が高い“究極のおふざけソング”ーーそれが“ポンポコリン”

『おどるポンポコリン』は、ポップソングでも、アニソンでも、コミックソングでもある。けれど、どれか一つの言葉では説明しきれない。

ふざけているのに、本気でうまい。くだらないのに、何度聴いても飽きない。

それは、音楽・キャラクター・アニメ・テレビという要素がすべてひとつになった“1990年の空気”そのものだったのかもしれない。

35年経った今でも、あの曲はあのまま。不滅の名曲は、テレビの向こうで、笑い声といっしょに流れ続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。