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「もしかして…」「5回観ても分からん」“伏線だらけの脚本”に物議を醸した名映画…「劇場で8回くらい観た」リピーター殺到の逸作

  • 2025.7.27

映画やドラマの中には、脚本に張り巡らされた巧みな伏線によって、解釈が分かれる作品があります。今回は、そんな中から"物議を醸した名作"を5本セレクトしました。本記事ではその第1弾として、映画『ラストマイル』(東宝)をご紹介します。巨大物流センターでの連続爆破事件。その混乱の中で突きつけられた、究極の選択とは?――。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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(C)SANKEI
  • 作品名(配給):映画『ラストマイル』(東宝)
  • 上映日:2024年08月23日
  • 出演: 満島 ひかり(舟渡エレナ 役)

ブラックフライデー前夜、世界的ショッピングサイトの巨大物流センターで、ひとつの荷物が爆発。
それは、日本中を震撼させる連続爆破事件の幕開けでした。

事件の解決に乗り出すのは、新センター長の舟渡エレナ(満島ひかり)と、同センターのチームマネージャー・梨本孔(岡田将生)。ふたりに課せられたのは、「物流を止めずに犯人を突き止める」という前代未聞のミッションでした。なぜなら、現代社会の生命線である物流が止まれば、経済が一気に崩壊しかねないからです。

タイムリミットが刻一刻と迫る中、次々と爆弾が仕掛けられていきます。止めることのできない社会の歯車の中で、エレナと梨本は衝撃の事実に直面します。

それは、命か、経済か──。
現代社会そのものを揺るがす、究極の選択でした。

映画の主題歌に仕込まれていた前作の“偽名”

本作の公開後、SNSでは『ラストマイル』とドラマ『MIU404』の繋がりを指摘する声が相次ぎ、大きな話題となりました。

「もしかして、この時からラストマイル考えてた?」「4年前からの伏線…?」このような投稿に象徴されるように、多くの視聴者が『MIU404』最終回で久住(菅田将暉)が名乗った偽名「トラッシュ(=がらくた)」という言葉が、時を経て本作の主題歌、米津玄師さんの「がらくた」へと繋がっていることに気づき、衝撃を受けたのです。

本作は、脚本・野木亜紀子さんと監督・塚原あゆ子さんが手掛ける“シェアード・ユニバース”作品。アンナチュラル』を起点に『MIU404』、そして本作『ラストマイル』へと続いています。これらの作品は直接的な続編ではないものの、登場人物や組織、そして印象的なセリフがゆるやかにリンクしています。

この繋がりが当初から意図された伏線だったのか、制作陣は明言していません。しかし、『MIU404』で放たれた一見何気ないセリフが、数年の時を経て映画の主題歌として結実した事実は、この物語世界が持つ緻密さと奥行きを印象づけました。

数式の“暗号”が示す生命の尊厳

映画『ラストマイル』に登場するロッカーの暗号、「2.7m/s → 0(→の下に70kg)」。これは、倉庫内で稼働するベルトコンベアの仕様 ― 秒速2.7メートルで動き、最大70キロの荷物が載せられる ― を示しています。そして、この数式は、ある重大な事件の伏線でもありました。

さらに、二重に描かれた「0」は、倉庫の稼働率0%を意味する一方で、「すべてを止めたい」「リセットしたい」という「叫び」とも解釈されています。

この暗号を残した山崎はこの数式に、「一人ひとりの命が、ただの“数字”として処理されていく現代社会」への怒りを込めました。それは、感染症対策や効率化された物流システムの名のもと、人間までもが「最適化」の対象となっていくことへの痛烈な抗議だったのです。

過酷な労働環境で心身を病んでいた山崎は、ベルトコンベアを自らの体で止めることで、効率至上主義の社内構造に抗議しようとします。彼にとってそれは、“命を懸けたストライキ”でした。

実際、3階相当の高さからベルトコンベアに飛び降りた山崎…。しかし、機械は一瞬止まりましたが、彼を地面に降ろすと何事もなかったかのように再び動き出します――。

それはまるで「人が壊れても社会は止まらない」と告げているかのようでした。

ひとつの数式が、人の命の重さと苦悩を雄弁に物語る──。
映画『ラストマイル』は、“数字の裏に隠された、魂の叫び”を私たちに突きつけたのです。

「これでよかったのか?」無言のまなざしに込められた想い

映画『ラストマイル』の最後、梨本孔(岡田将生)のカットが印象的に挿入されています。

物流を止めるという前代未聞のストライキを支持した後、彼が立ち尽くすその表情には、安堵や達成感とは異なる、複雑な感情が滲んでいます。事件を通じて、効率優先の企業人だった孔は人命や働く人の尊厳へと向き合うようになりました。それでもなお、ラストの視線には「本当にこれで良かったのか」と自問するような迷いや葛藤が色濃く浮かんでいるように見えます。

SNSには、「5回観ても分からん」「もっと腑に落ちる答えがあるはず」との声もありました。この「もっと腑に落ちる答えがあるはず」と感じさせる点こそ、本作の巧みさなのかもしれません。映画はあえて明確な答えを示さず、孔の表情にすべてを託すことで、「この社会のあり方を、あなたはどう思いますか」と、観客一人ひとりに問いかけているのではないでしょうか?

リピートと考察を誘う映画の魅力

映画『ラストマイル』の公開後、SNSは「中村倫也さんが出ててびっくりした!」という驚きの声で溢れかえりました。事前告知が一切ないままのサプライズ出演は、多くの観客を歓喜せました。しかし、観客を何度も劇場へと足を運ばせた理由はそれだけではありません。

本作は映像やセリフの端々に伏線が張り巡らされ、鑑賞を重ねるほどに新たな発見がある巧みな構成になっています。この「もう一度観たい」と思わせる引力は、再鑑賞者向けのプレゼントキャンペーンによってさらに加速し、「劇場で8回くらい観た」「ラストマイル!5回目!観てきた」と多くのリピーターを生み出しました。

このように緻密な伏線やサプライズで観客を魅了する一方、本作が投げかける社会への問いやラストシーンの解釈は、SNS上で活発な議論を巻き起こしています。

巧みなエンターテインメント性と、考察をうながす深いテーマ性。その両輪で走り抜ける映画『ラストマイル』は、単なるヒット作に留まらず、「物議を醸した名作」として人々の記憶に刻まれていくことでしょう。


※記事は執筆時点の情報です