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万博に見る循環型建築の未来【MY VIEW|永山祐子】

  • 2025.6.24
Photo_ Victor Picon ©Cartier
Photo: Victor Picon ©Cartier

現在開催中の大阪・関西万博では「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」と「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』で設計を担当しました。2館に共通しているのは“リユース”の実践という点ですが、実はこの挑戦の始まりは2021年に開催のドバイ万博までさかのぼります。ドバイ万博はサステナビリティ(持続可能性)が課題の一つであったにもかかわらず、コロナ禍で開催が一年延期になり“リユース”の実現は脇に置かれている状況でした。日本館の設計者として自分が何か次につながるようなことをしたいという思いもあり、日本の伝統的な木工技術である組子を外装デザインに応用した“KUMIKO ファサード”では、設計の段階から再利用を念頭に置き、解体・再組み立てが容易な構造を採用したんです。

2020年 ドバイ国際博覧会 日本館
2020年 ドバイ国際博覧会 日本館

ただ、国を移動しての建材のリユースには、さまざまな困難が伴いました。国の予算では撤去費用までしかカバーされていないので、費用や協力者を自分で探す必要に迫られたのです。そんなとき、リユースを前提とした解体と梱包に手を挙げてくれたのが日本館を施工した大林組で、入札に参加しファサード部材の所有権を獲得してくださいました。また、ドバイから大阪までの運搬と大阪港の倉庫での保管は中東方面に強い運送会社サンキュウ・トランスポートが協力してくれました。そんな2社の協力があってこそ実現できたのが、ドバイ万博日本館のファサードのリユース建材を採用した、「When women thrive, humanity thrives〜ともに生き、ともに輝く未来へ〜」をテーマに掲げる「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」です。当初はSDGsの万博とまで言われていた大阪・関西万博の中で、SDGs17の目標のうち5番目「ジェンダー平等を実現しよう」と12番「つくる責任 つかう責任(サステナブル)」という2つの重要課題に正面から取り組むパビリオンとなっています。そして、サステナブルに関わる課題について、新しい挑戦を見せるべき万博という場でリユースの実践を示したいという思いを共有し、国を移動してのパビリオンの建材リユースという前例のない大事業を実現させることができました。また、ドバイ万博のときとは異なる点は、“マザーアース(母なる地球)”をテーマの一つに据えたことです。大阪近郊の森から移植した木々が自然と調和した環境を生み出していますが、会期後には植栽を元の森へ戻す予定となっています。

「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」は、α世代の子どもたちに向けた体験型建築を目指して企画されました。「解き放て。こころと からだと じぶんと せかい。」というコンセプトには、技術者でありジャズ・ピアニストでもあるパビリオン館長・小川理子さんが、幼少期に1970年の大阪万博に行って将来の夢を決めたという経験や思いが込められているのですが、自分も二人の子を育てる母親として深く共感しました。

5月に刊行された『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』の表紙を飾るのは、「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」。
永山作品集_表まわり_書影書き出し5月に刊行された『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』の表紙を飾るのは、「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」。

子どもは変化し続ける変容体、有機的な存在なので、幾何学的な形状を主とするウーマンズ パビ リオンとは対照的に、細胞が集まったような、全体としては何の形かわからないような建築にした いと思ったんです。そこで、スチールパイプを曲げたリング状のモチーフを約1400個組み合わせたアーチ構造や、赤や青など玉虫色に反射する3色のオーガンジー素材を組み合わせて、軽やかな外観を構成し、建築自体が「循環」や「つながり」を体現するようにしました。設計当時小学生だった息子に提案用のパースを見せて率直な感想を尋ねたら、「ワクワクする」と言ってくれたので、 この提案でいけそうだと思いました。ドバイ万博日本館での試行錯誤を生かして、ウーマンズ パビリオンの部材はすべてQRコードで一元管理し、どこでどのように使われているかを3Dデータと連携して記録しているので、解体や再組み立てが容易になっています。実際に、2027年横浜で開催予定の花博での再利用がすでに決定し、すでに設計が進められています。ノモの国も同様にリユースの検討を進めています。

万博などイベントのための建築物は、かつては会期終了後に壊されてしまう運命にありましたが、私たちの取り組みではドバイから大阪へ動いてきたし、将来には大阪から横浜へと動こうとしてい ます。建築は一度建てたら終わりではなく、仕組みの進化によって動いていくことができるし、場 所や形を変えながら新たな価値を生み出すことができる。この実践を総称して“動く建築”と呼ん でいるのですが、私にとっては新しいクリエイティブな形としてとても刺激的で、大いに魅力を感 じています。

Profile

永山祐子

建築家。青木淳建築計画事務所を経て2002年に永山祐子建築設計を設立。東急歌舞伎町タワーなど多彩なプロジェクトを手がける。大阪・関西万博の2つのパビリオンなどを紹介する『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』を上梓。

Text: Yuko Nagayama as told to Akiko Tomita Editor: Yaka Matsumoto

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