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脚本家・野木亜紀子が案内する、ゼロ年代「テレビドラマ」の歴史

  • 2025.6.12

案内人・野木亜紀子

トレンディ全盛からクドカンの時代に。新しい風が吹き、現代に通じる粒揃いのドラマが生まれた

端的に言えば、クドカンこと宮藤官九郎【B】さんの時代でしょう。『池袋ウエストゲートパーク(IWGP)』『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』……そして『流星の絆』に至るまで、多作かつ面白い作品しかありません。個人的には『マンハッタンラブストーリー』が大好きです。

【A】デジタル放送に対応したVHS規格のこと。「D」はデータの意味。容量や記録モードによって、1本最長56時間録画することができた。日本では1998年に発売され、2015年に販売が終了した。

【B】1990年から劇団〈大人計画〉に所属。作・演出を手がけつつ、テレビ番組の構成作家を務める。2000年に『池袋ウエストゲートパーク』、翌年には映画『GO』の脚本を手がけ、以後ラジオパーソナリティ、俳優、映画監督、ミュージシャンなどとして活躍する。

クドカン論はすでにたくさんあるので語ることはあまりないのですが……振り返れば1990年代前半までトレンディドラマ全盛でした。坂元裕二さん脚本の『東京ラブストーリー』や北川悦吏子さんの『ロングバケーション』なども生まれましたが、ドラマ作りの現場では「男性プロデューサーがラブストーリーを作る」という構図がほとんどでした。

しかし、2000年から始まる一連のクドカン作品は、元TBSの磯山晶さんという女性プロデューサーが、劇作家だった宮藤さんを引っ張り込んで作ったドラマで、恋愛が主軸ではなく、斬新かつ面白かった。良い悪いではなく、明らかに新風が吹いたのです。

同じ00年には中園ミホさん脚本の『やまとなでしこ』が放送されました。ラブストーリーですが、主人公は玉の輿(こし)を狙う貧乏な出自の女性。トレンディでバブリーな、90年代的な物語とは一線を画しました。

このようにドラマのスタイルが激変する中で、一言では語り難い深みのある作品が次々に登場しました。そのバラエティの豊かさもまた、ゼロ年代テレビドラマの魅力でしょう。

衝撃的だったのは、森下佳子さん脚本の『白夜行』【C】。

【C】初恋の少女を助けるために父を殺した少年と、少年を庇(かば)うために母の命を奪った少女が高校生になって再会、その後の転落を描く物語。原作にはない2人の逢瀬が織り込まれている。

東野圭吾さんの同名原作はほかにも映像化されていますが、個人的には森下さん版がベストです。まったく明るいところがない、全編いわゆる鬱ドラマで、今となってはよくこれをプライムタイムに放送していたなと思いますが、親の罪によって影として生きざるを得なかった子供たちの物語が確かな筆致で描かれた傑作です。

映画作品が多いベテランの一色伸幸さん脚本『彼女が死んじゃった。』も傑作でした。亡くなったある女性の死の真相を、携帯をヒントに探っていくという古典的な枠組みながら、笑って泣ける、何にも似ていない大人向けのドラマになっています。死の真相と言ってもサスペンスではなく人生ドラマなので、企画書にしにくいタイプ。だからこそ染みるし、何度観ても面白い。

恩田陸さん原作・宮村優子さん脚本の『六番目の小夜子』は、物語はもちろん中学生キャストも魅力。鈴木杏さん、山田孝之さん、栗山千明さん、松本まりかさんなどなどの学生時代を記録に残しています。

金城一紀さん脚本の『SP 警視庁警備部警護課第四係』は、アクションもののテレビドラマとしてエポックメイキングな存在。かつて『NIGHT HEAD』で名を馳せた、元祖トリッキー脚本家・飯田譲治さんの『あしたの、喜多善男』も外せません。主演の小日向文世さんをはじめとするキャスト、世界観も完璧。

トリッキー系だと、蒔田光治さん脚本、堤幸彦【D】さん演出の『TRICK』シリーズは“虚実を見抜く”という現代的なテーマをすでに持っていました。

【D】演出家、映画監督。主なテレビドラマに『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『TRICK』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』など。

現在では当たり前の、いわゆる日常ドラマの先駆けに木皿泉さん脚本の『すいか』があります。何者でもない女性たちの日々を描きました。彼女たちが暮らす下宿〈ハピネス三茶〉は、誰もが憧れたはず。

先駆けといえば、考察ドラマだった『アンフェア』も。途中、いわゆるトンデモ展開も多いのに、最終回の素晴らしさでチャラになるパワーがあり、続編ドラマや映画シリーズまで制作されました。

坂元裕二さんは07年の『わたしたちの教科書』が印象的。トレンディドラマのイメージを一変、坂元裕二・第二章とも言える時代の始まりです。

粒揃いのドラマが生まれたゼロ年代。挙げた作品の中には視聴率がとれなかったものもありますが、その意義と志は現在に受け継がれています。

2000

『ビューティフルライフ』(TBS系、脚本:北川悦吏子)が放送。『六番目の小夜子』(NHK、脚本:宮村優子*)が放送。『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系、脚本:宮藤官九郎*)が放送。『TRICK』(テレビ朝日系、脚本:蒔田光治ほか、演出:堤幸彦ほか)が放送。02年よりシリーズ化。新作スペシャル、劇場版も。『やまとなでしこ』(フジテレビ系、脚本:中園ミホ、相沢友子)が放送。

2001

『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』(TBS系、脚本:野島伸司)が放送。『水曜日の情事』(フジテレビ系、脚本:野沢尚)が放送。『スタアの恋』(フジテレビ系、脚本:中園ミホ、橋部敦子)が放送。

2002

『木更津キャッツアイ』(TBS系、脚本:宮藤官九郎)が放送。『アルジャーノンに花束を』(フジテレビ系、脚本:岡田惠和*)が放送。『HR(エイチアール)』(フジテレビ系、脚本:三谷幸喜)が放送。

2003

『僕の生きる道』(フジテレビ系、脚本:橋部敦子)が放送。翌年、06年と僕シリーズ3部作が放送。『すいか』(日本テレビ系、脚本:木皿泉、山田あかね)が放送。『マンハッタンラブストーリー』(TBS系、脚本:宮藤官九郎)が放送。

2004

『彼女が死んじゃった。』(日本テレビ系、脚本:一色伸幸*)が放送。

2005

『タイガー&ドラゴン』(TBS系、脚本:宮藤官九郎)が放送。

2006

『アンフェア』(フジテレビ系、脚本:佐藤嗣麻子*)が放送。『白夜行』(TBS系、脚本:森下佳子*)が放送。

2007

『わたしたちの教科書』(フジテレビ系、脚本:坂元裕二)が放送。連続テレビ小説『ちりとてちん』(NHK、脚本:藤本有紀)が放送。『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系、脚本:金城一紀)が放送。

2008

『あしたの、喜多善男』(フジテレビ系、脚本:飯田譲治*)が放送。『流星の絆』(TBS系、脚本:宮藤官九郎*)が放送。

年表中の*は原作がある作品。

profile

野木亜紀子

のぎ・あきこ/1974年東京都生まれ。ドキュメンタリー制作会社を経て脚本家に。テレビドラマの脚色に『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』、オリジナル作品に『アンナチュラル』、映画『ラストマイル』など。

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