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独占インタビュー。イーロン・マスクの娘でトランスジェンダーのヴィヴィアン・ジェナ・ウィルソン【プライド月間 2025】

  • 2025.6.5
Teen Vogue Special Edition Cover with Vivian Wilson

ヴィヴィアン・ジェナ・ウィルソンは、多くの点で、どこにでもいる今どきの21歳の女性だ。ロサンゼルス育ちで、トークアプリのディスコード上での友達とのやり取りに、毎日数時間を費やしている。よく本を読み、「ル・ポールのドラァグ・レース」やチャペル・ローンが大好きだ。そして遅刻常習犯でもある─今回のZoomでのインタビューにも、予定の開始時刻から丸々2時間遅れて現れた。

彼女は父親との間に確執を抱えている。これも20代の若者にはありがちな話だ。だが、父親が世界一の大富豪というのは、そうそうある話ではない。しかもこの父親はここ数年、着々と権力の基盤を固め、自らが買収したソーシャルメディア・プラットフォームに盛んに投稿し、突然、アメリカの連邦政府でも最高クラスの有力者になった人物だ─そう、ヴィヴィアンは(自身がそれを望んでいるかはともかくとして)、イーロン・マスクの娘なのだ。

ヴィヴィアンが世間に知られるようになったのは、父親ゆえだが、これはいわゆる「ネポベイビー(七光りの2世スター)」的な理由からではない(最初に説明しておくと、ヴィヴィアンは2020年にトランスジェンダーであることをカミングアウトして以降、父親から金銭的援助を受けていない。というわけで、送金アプリのVenmo経由で、「数千ドルを送金してほしい」と頼んでも無駄だ──彼女によれば、実際にこうしたリクエストが送られてきたこともあるという)。

2020年以降、彼女はマスクとのつながりを断つべく動いてきた。2022年には法律上の氏名を変えるための正式な申立書を提出し、「いかなる方法や形でも、生物学上の父親と関わり合いになること」を望まない意思を明確にした。彼女はそれまで、マスクについて公の場で話すことはなかったが、父親と距離を置くために法的手段に出たことで、結果的に世間から注目を集めることになった。

「私、口では負けないから」と、今回のインタビューで、ヴィヴィアンは明かした。彼女が既存のメディア向けに発言するのは、これが通算で2回目だ。「新型コロナ(のロックダウン)の間、入り浸っていたのが、何かというと大騒ぎして、お互いの気持ちをああでもないこうでもないと推測し合っているクィアな人たちのオンラインコミュニティだった。そういうところにいると、即レスの作法なんて自然と身につくんだ。面白いことを書き込んだり、気の利いたコミカルな返しをするやり方だって……ほかのクィアのティーンエイジャーと言い争いになったりもするし。そうやって機転やウィットを身につけていったわけ」。父親と同様に、ネットに入り浸りのヴィヴィアンだが、父親とは違い、どうやらこのツールを非常にうまく使いこなしているようだ。

マスクは子だくさんで知られ、わかっているだけでも4人の女性との間に、20年間で14人の子どもをもうけている。ヴィヴィアンを含む6人は、元妻のジャスティン・ウィルソンとの間の子だ(うち1人は、幼いころに亡くなっている)。さらに自身が興した企業、ニューラリンク幹部のシヴォン・ジリスとの間に4人、ミュージシャンのグライムスとの間に3人の子どもがいる。今年の2月14日には保守系インフルエンサーのアシュリー・セント・クレアが、マスクにとって13人目になる子どもを出産していたことを明らかにした(ただし原文記事の執筆時点で、マスクはこの子を認知していない)。さらにそれから2週間後の2月28日には、ジリスとの間に14人目の子どもが生まれたことがわかっている。

「父親であること」は、宇宙開発企業、スペースXの創業者兼CEOであり、X(旧Twitter)を買収したマスクにとって、パブリックイメージの中核を占める要素だ。マスクは出生率の低下に警鐘を鳴らし、社会にマイナスの影響を与えると繰り返し主張してきた。マスクは現在、トランプ政権の政府効率化省(DOGE)の実質的なトップとして、連邦政府職員の大量解雇に踏み切り、国にとって必要不可欠な政府機関の支出の大幅削減を主導している。こうした活動に関する、連邦議会との意見交換やオーバル・オフィス(大統領執務室)での記者会見にも、「X Æ A-Xii」と名付けた4歳の息子(通称「リルX」)を同伴している。

ヴィヴィアンが氏名変更の申立書を提出してから2年後(そして特筆すべき点として、マスクが公式に2024年の大統領選でトランプ支持を表明してから9日後)、マスクはマノスフィア(女性嫌悪、反フェミニズムを掲げる男性優位主義のオンライン空間)のインフルエンサー、ジョーダン・ピーターソンとのインタビューで、ヴィヴィアンについて語った。この際、マスクは繰り返しデッドネーミング(自らの意思で出生時の名前を捨て、改名したトランスジェンダーなどの人を、本人の同意を得ずに前の名前で呼ぶ行為)を行い、わが子が「“ウォーク(目覚めた)・マインド・ウイルス”によって殺された」と主張した。

このインタビューでマスクが語ったヴィヴィアン像は、2023年に刊行された伝記本『イーロン・マスク』の描写を踏襲したものだ。ヴィヴィアンによれば、この本の中で、著者のウォルター・アイザックソンは、彼女を怒りっぽく反抗的な子どもとして描いていたという。「反資本主義の過激思想にかぶれて、思慮に欠ける判断で父親を困らせた」というのだ。

そこでヴィヴィアンは、初めて公の場で声をあげた。Xのライバルにあたるソーシャルメディア、Threadsへの連続投稿で、彼女はX上のマスクのある投稿を取り上げ、その内容を「何もかもフェイク」だと主張した。さらにマスクに対しても、「注目を集め、正当性を主張することに必死」だと断じて、現実を直視するよう告げた。

これ以来、彼女はソーシャルメディアで積極的に発言を続けてきた。ThreadsやInstagram、XのライバルサービスであるBlueskyに投稿し、TikTokのショート動画では数百万ビューを獲得している。これらのプラットフォームでのフォロワーの数も、総計100万人に届く勢いだ。その一方で、既存メディアでの発言には積極的ではなく、今回のインタビューまでに応じたインタビューは、米NBCニュースでの1回のみだ。これは前述のマスクが自身に言及したインタビューを受けて、彼女側の視点から事情を語る内容だった。

親に頼ることなく、自分で道を切り開きたい

Teen Vogue Special Edition Cover with Vivian Wilson

ヴィヴィアンの父親であるマスクは、確かに大きな存在感を放っている。特に今は、彼が強大な政治権力を手にしているだけになおさらだ。その強権ぶりは、一部の裁判官が法律で許された範囲を超えていると判断するほどの域に達している。そんな父親とは距離を置いているとはいえ、彼女はアメリカ政治の歴史に残る現在の不安定な情勢について、独自の見解を示すことができる立場にある。

だが彼女には「世界一の大富豪である父親と決別した娘」というだけではない、豊かな個性がある。実際、今は父親について考えることはほとんどないという。「私は自分の心の中のそのスペースを、誰にも与えていない」と、彼女は語る。「私の心の中で自由にしていていいのは、ドラァグ・クイーンだけ」というのだ。

親に頼ることなく、今は自ら創り出したプラットフォームをもとに、未来に向かって進んでいると、ヴィヴィアンは言う。今はアメリカ国外で暮らし、学校でさまざまな言語を学んでいる。すでにフランス語、スペイン語、日本語を学んでいて、注目を集めるまでは翻訳者になりたいと考えていた。

だが一躍有名になったことで、今はほかの道に進むことも考えているという。ライブ配信プラットフォーム、Twitchでのストリーミングや、モデルの仕事も新たな候補として浮上している。「私は有名なことを利用してお金を儲けたことはない。その代わり、たくさんの人の頭の中にタダで居候しているけれど」と彼女は皮肉を交えて語る。「Twitchのストリーミングはすごく楽しそう……。『これ以上Twitchの配信者なんていらない』って思われてる感もあるけど、ぜひやってみたい」

メディアへの露出に関して、彼女にはもう一つ、魅力を感じている分野がある。「リアリティ番組に出るのが究極の夢。もちろん、どうしようもなくくだらないのはわかっているけど」と言って、彼女は笑う。「何でもドラマティックにとらえたがるクィアとして、リアリティ番組にはものすごく惹かれるものを感じる」のだという。

母、ジャスティンは娘をこう評する。「ヴィヴィアンは常に『自分が何者であるか』『どうあるべきか』について、確固とした感覚を持っていました。大きく、激しく、ワイルドで、重層的で、まさにマジックなんです」

ヴィヴィアンが可能性に満ちた、充実した生活を送っていること自体が、ジェンダーアファーミング・ケア(本人が指向するジェンダー・アイデンティティに従った医療的・心理的ケア)に若者の命を救う力があることを、改めて裏付けている。

子どものころ、ヴィヴィアンはジェンダーにまつわる体の違和感、さらにこれに付随して生じることが多い、メンタルヘルスの問題に悩んでいた。今も、自身のような若者を標的とした反トランスジェンダー法制定の波に恐怖を覚えている。アメリカでは、トランスジェンダーの若者が右派から悪魔のごとく憎まれ、しかも民主党陣営からも守られることなく放置されている。政権を奪還した直後にトランプが発した大統領令の一つは、19歳以下の若者にジェンダーアファーミング・ケアを行う医療機関に対し、連邦政府の資金提供を禁じるものだった。ただし、複数の連邦裁判事が、この大統領令の即時発効を差し止める判断を示している。

ヴィヴィアンはトランスジェンダーの問題について、声をあげなくてはという思いに駆られている。「トランスであることは本人の選択の問題ではない(=生まれつきのものだ)ということを、みんなわかっていないように感じる」と彼女は危機感をあらわにする。「もちろん、現政権に影響を受けているのはトランスの人たちだけではない。正式な許可証を得ていない移民や、有色人種など、社会の周縁にいる人たちもそう。この方面で、もっと理解を深めてもらおうと、頑張っている。この問題について、現政権は何でもぶっ壊す金属球みたいなものだから」

ヴィヴィアンは先日、留学先の東京からオンライン取材に応じた。このインタビューでも、ネット上と同じように、彼女ははちきれんばかりの才気を発揮した。長時間にわたったインタビューの間、彼女は肩をはるかに越える長さのブロンドの髪をなびかせ、足を組んで寮の部屋の床に座り込んでいた。話題は、トランスジェンダー関係のゴシップ、ネット偏重の言論の功罪、自身の奇妙な拡大家族、そして「マンガじみた邪悪」と評する新政権への意見など、多岐にわたった。

(原文編集部注:以下のインタビューは読みやすくするために多少の編集と要約が行われています)

カミングアウトの経緯

Teen Vogue Special Edition Cover with Vivian Wilson

──カミングアウトの経緯について教えてください。

ヴィヴィアン・ジェナ・ウィルソン それはある日の夜、午後11時だった。その時点ですでに、自分がトランスだという確信はあった。数カ月前から気づいていたけれど、そのタイミングで、「こんなの、もう耐えられない」と感極まってしまったんだ。ちょうど思春期の体の変化が本格的に始まったころで、それまでの自分が崩壊しかけていた。授業中にパニックになることもしょっちゅうで、1日をやりすごすことすら不可能になっていた。朝は起きたくないし、何もしたくない。「このままベッドから一歩も動きたくない」というような気分で。「こんなの、もう続けられない。これ以上自分を偽っていたら、待っているのは破滅だ」と悟ったわけ。

私は母に伝える(2日)前に、Instagramのストーリーに(カミングアウトの)投稿をした。誰でも読めるモードでね。それは後悔している。もしもう一度同じことをやるなら、真っ先に母に告げると思う。母はこのことを最初に知る資格があるから。でも、このときはその順番でカミングアウトした。まず、「私はトランスです。代名詞はShe/her」って書き込んで。

そして、投稿した写真の左下には、それとはまったく関係ない、「あなたはピータ派? それともゲイル派?」っていうテキストを入れたの。これは『ハンガー・ゲーム』にハマりまくっていた(時期だった)から。あれのブームはたしか、8年くらい続いたかな。映画の公開からは4年くらい経ってたけど。私、イタいやつだったから─というか、イタくなかったことなんて一度もないけど。

──で、どっち派なんですか?

私はピータ派。当たり前でしょ? ゲイルはカットニスの妹を殺したんだから。あり得ない!

──カミングアウトしたとき、お母さまの反応はどうでしたか?

(性自認に従うための)私の移行を全力で支えてくれた。母は超自然的な要素を取り入れたロマンス小説を書いていて、何冊か出版もされている。実は、“ネット中毒のイタいやつ”っていう、私の要素って、すべて母の小説がもとになっている。母は、私がカミングアウトしたときも、「ああ、だと思った」という感じで。ある意味、察していたんだろうな。ちゃんと伝えたときも、30秒だけ、少し驚いたふりをしてみせたけれど、すぐさま「ああ、そうなんだ。わかった」ってなっていたし。

──お父さまはどうですか?

母ほどは支えてはくれなかった。そもそも、あのころは何カ月も口もきいてなかったし。ただ、テストステロン抑制剤(やホルモン補充療法)のために、すごく嫌だけど、保護者の同意が必要で。

──あなたはお母さまとはいい関係なのですか?

はい。私が大学に入ってからの選択や、表に出て発言することについても、賛成してくれている。「私には止められないから、好きにすれば」っていう感じ。私の選択が母のストレスになったか? といえば、答えはイエス。でも最終的には受け入れてくれたから。

(原文編集部注:ヴィヴィアンの母は作家で、長編や短編の小説を発表している。2010年には『マリ・クレール』誌に“ジャスティン・マスク”名義のエッセイを掲載し、イーロン・マスクとの結婚生活崩壊のいきさつを明かしてネットで大いに話題を呼んだ。それによれば、二人の関係には当初から「危険信号」がともっていて、結婚式で慣例となっている新郎新婦のダンスの最中にも、「この関係では私がボスだ」と告げられたという)

──自分のことを有名人だと思いますか?

自分が有名だというのは好きじゃない。それは知名度に値するだけのことを、もっとやりたいと思うから。「これだけ注目を集めるのも当然だな」と思われるようなことがしたい。なぜなら……自分が有名になったのには理由があることを、ものすごく自覚しているから。私が有名なのは、これまでの(家族の)物語があるからだし。

──これほどの注目を浴びるのはどんな気分ですか?

何とも言えないな。まだ完全に飲み込めてはいないから。まだ100%とは言えなくて……こういうとき、何て言うのだっけ?

──消化する?

そう、“消化する”! 私はただ、ちょっとThreadsやBluesky(の投稿)を書いているだけだし。たまに動画も作っていて、それが時たま、そこそこのビューを稼いでいるけど。でもマーク・ザッカーバーグの投稿にコメントしたときは、いいね!の数で元の投稿に圧勝したんだ。あのときばかりは「私はネットの女王だ!」って思ったな。

──ソーシャルメディアとの関係をどう表現しますか?

私は“Threadsの女王”。それが私のブランディング。Blueskyのアカウントも持っているけど、“Blueskyの女王”だとThreadsほどの響きの良さはないかな。ソーシャルメディアとの関係は、まあまあ健全だと思う。TikTokのアカウントもあるけど、あそこの動画そのものはあまり観てない。もう何年も。日常生活でアクティブに使っているソーシャルメディアはBlueskyとThreadsだけ。あとはYouTube

──あなたは驚くほど投稿がうまいですよね。全部自分で、そのときに思いついたことをポストしているのですか? メディアチームを抱えていたりはしませんよね?

まさか、そんなのないし、もしチームがいたとしても、みんな1週間で辞めちゃうだろうな。私はスマホを手に取って、メッセージをタイプするだけ。で、それが時々ニュースになる、っていう。

──あなたの投稿の才能はどこから来ているのでしょう?

(笑いながら)“投稿の才能”って、ウケる! そんなのわかんない。そもそも、ソーシャルメディアの使い方がうまいとか、そこまで言っていいのかもわからないな。私は投稿をする。それが好かれることもあれば、そうでないこともある。私がターゲットにしているオーディエンスは私自身。自分が笑ったときに、「ひょっとするとほかの人も笑ってくれるかも」って思って投稿する。でも面白がってもらえなくても全然かまわない。

ただ、変えていかなくちゃいけないところもある。自分が育てたプラットフォームが大きくなるにつれて、「ああ、たくさんの人がこれを見るんだな」っていう気になってくる。だからそれを押しのける強さが必要なんだ。

──きょうだいが多い人には面白い人が多いという印象です。それは、子どものころからけんかをしてきたからではないですか?

私には4人のきょうだいがいる。私と(双子の片割れの)もう一人が一番上。でもけんかをするときは、口げんかでは収まらなかった。すごく……いや、4人きょうだいだった、と言うだけにしておくね。

──きょうだいとの関係は良好?

そこが問題なんだけど、異母きょうだいまで含めると、いったい今の時点で何人いるのか、自分でもわからなくて。まあそれは、面白いな、っていうくらいの話だけど。「二つの真実と一つのウソ」(自分に関するあまり知られていない真実を二つ、ウソを一つ示して、どれがウソかを当て合うゲーム)みたいで。シヴォン・ジリスの話(マスクにとって14人目となる子どもが生まれた件)を知ったのも、みんなと同じタイミングだったし。完全に寝耳に水だった。

グライムスが2人目を妊娠しているのを知ったのも、あるドラァグ・クイーンのThreadsへの投稿でだった。あのころ、グライムスとはかなりの間、音信不通で。というか、当時は誰とも連絡をとっていなかったし、今もそんな感じなんだ。

「ル・ポールのドラァグ・レース」のシーズン2と「ル・ポールのドラァグ・レース:オールスターズ」のシーズン2に出演していたタチアナが「ウソでしょ、グライムスがまたアホロートル(=ウーパールーパー、赤ん坊をたとえた表現)を産むなんて」って皮肉っぽくツイートしていて、それが「〜ドラァグ・レース」のサブレディット(=Threads)のフロントページに表示されていたので、それで知ったの。

(原文編集部注:ヴィヴィアンは、マスクとセント・クレアとの間に生まれた子どもについても、同じいきさつで知ったという。このときにはTikTokのショート動画に、「異母きょうだいができたことをレディット経由で知るたびに5セント硬貨を1枚もらえるとしたら、すでに2枚もらえている計算になる……たいした額じゃないけど、2回も起きるなんて変だよね?」と、皮肉を交えて書き込んでいる)

もっとドラマティックな話がいい?

──そこは、ご自身が触れたいと思う範囲でけっこうです。

あっち側の家族の話はあんまり追えてなくて。それは……追わないことにしているから。私の母もそう。もう離婚しているわけだし。向こうが何をしていても、どうでもいい。私の問題じゃないからね、わかるかな? X(前段に出てきた、マスクがよく同伴しているグライムスとの子ども)には一度会ったことがあるけど。あの子がまだすごく小さいころに。

──あなたの家族といえば、右派の人たちはソーシャルメディアへの投稿がものすごく下手だな、と感じてしまうのですが。

単純に、面白くないんだよね。面白くないと話にならないのに。カリスマ性で言うと、びしょ濡れのバスローブといい勝負、っていうくらい悲惨。まあ、彼らが面白い投稿ができないのは私のせいじゃないし。そんなに難しいことじゃないのにね。

──それでも、Xやメタのプラットフォームを見る限りでは、数の上では右派が圧倒的に優勢ですよね。ソーシャルメディアを埋め尽くしておきながら、あそこまで投稿が下手なのはどういうことだと思われますか?

それは私も疑問で。何でなのか知りたいと思ってる。あの人たちの、ソーシャルスキルが必要なことすべてにおいて、なぜあそこまでセンスがないのか、理解に苦しむ。せっかく発言しようと立ち上がったのに、ジョークの一つも言えなくて、ウィットがなくて、誰も笑わせられないなんて……面白いことを言うだけでいいのに!

──ご自身のソーシャルメディアでの発信は、アクティビズムだと考えていますか?

いいえ。私はただ、自分が感じていることを言っているだけだから。アクティビズムはそれでは収まらないものだと思う。ただし、トランスをめぐる問題については、話す義務があると感じる。未成年のうちに(性別の)移行をスタートさせた者として、こうした医療があまりに悪者扱いされている気がするから。トランスの未成年者に対する医療やケア、特に思春期に起きる体つきの変化を抑制する治療は、本当に、本当に大事なこと。その事実について、世の中の意識を高めていきたい。

とにかく、「なんの落ち度もない、こういう子どもたちやその周囲の支援者たちを悪魔のようにののしるのはやめろ」ってこと。周りの人も、心と体を一致させてあげようと、後押ししているだけなのに。トランスの未成年者は今、目を覆いたくなるような悪意ある攻撃のターゲットになっている。そして、トランスの若者を守り、できることは何でもするのが本当に大切。特に政治的な環境の変化で、トランスの人にますます敵意が向けられるようになっているだけに、そう思う。

──ソーシャルメディアが政治に与えている影響についてはどう思いますか?

変化がいい方向に向かっているかどうかはわからないな。クィアの人たちや社会の周縁にいる人たちのコミュニティが目に触れる機会は増えたけど、逆にオルトライト(オルタナ右翼)の台頭にも結びついているし、4chanみたいなコミュニティも生まれているわけで。今はあっという間に過激化するから、そこは心配しかない。

でもソーシャルメディアから得られる情報だって、すごく有益なものがある。もちろんすべてについてダブルチェックは必要だけど、関心を持ってもらうすごくいい手段にもなる。去年のパレスチナとガザの件は、そのいい例だと思う。この問題を最初に知ったのはソーシャルメディア経由だった、という人が多いから。これは本当に複雑な問題だと思う。

今の政治に関して思うこと

Teen Vogue Special Edition Cover with Vivian Wilson

──私たちは正しい方向に向かっていると思いますか?

政治に関して? そんなわけない。怖くて仕方ない。ニュースを読もうとスマホの画面を開くたびに、(現実から逃れたくて)思わず10分くらい壁を見つめてしまう。現政権が行っていることには本当にぞっとする。それは、トランスのコミュニティに対してだけじゃなくて、移民や有色人種のコミュニティをはじめ、社会の周縁にいる人たちのコミュニティが新政権から制度的に標的にされて、保護を奪われているっていうことに。マンガじみた邪悪、と言うしかない。

──あなたはご自身の政治信条についてネット上で非常に積極的に発言していますが、それだけでなく、父親のイーロン・マスクについても鋭く批判していますね。あなたの日常において、そうした批判行動の占めるスペースは大きいのでしょうか?

いいえ、そんなことないけど。本当に。私はただ、彼の話をニュースで見かけて、「うわー、ひどすぎ。これについて投稿して批判するべきかも」と思って、それを何度か実行に移しただけ。例のナチス式敬礼の件 (※)とか、マジで頭おかしいし。要するに、つまんないやつのことはつまんないって言うし、ナチス式敬礼であれば、そう呼ぶっていうこと。あれは誰が何と言おうと、ナチス式の敬礼だった。(マスクを煽った)あの場にいた人たちも同じくらい責任があるけれど、そういうことは話題になっていない。同席した人たちも非難されるべきなのに。

(※訳注:2025年1月、トランプの2度目の大統領就任を祝う集会でマスクがナチス式敬礼と思われるしぐさを行い、批判された件)

でもそれ以外は、あいつのことはまったく気にしていない。本当に。彼と関連づけて見られるのは本当に嫌。もうこれっぽっちも気にならない。ただ、ジョーダン・ピーターソンとのインタビューで彼に攻撃されたのに反撃したときは、私のこれまでの人生の中で、最高のカタルシスを得られた瞬間だった。あのときの私は、エネルギーが最高に高まっていた。長いこと、表に出て発言したい、という気持ちをつのらせていたから。以前にも、本(冒頭で触れたアイザックソンが記したイーロン・マスクの伝記本)で中傷(と言ってもいい扱い)を受けて、表に出したくない個人的な情報もさらされた。加えて、子ども時代からたまりにたまったものがあっただけに、ついに反撃の瞬間がやってきたとき、今までの人生で一番のカタルシスを感じたんだ。そのあとはもう、「何でも来い」っていう気分になったな。

(原文編集部注:編集部からのコメントの要請にマスクは応じなかった。ヴィヴィアンは、自身の個人情報が、ネット上で公開されていると主張している)

──怖くなったことはありませんか? 何しろ相手は世界一のお金持ちですし。

彼はいい歳のくせに大人になれない、みっともない大人子ども。なぜ私が彼を怖がるの? 「すごい権力を持っている」とか、そんなのまったく気にならない。なぜ私がこの男を怖がらなければならないの? 金持ちだから? まさか!─あ、足が震えてきた。うわぁ、ここ、ブーツの中の足がガタガタいってる! ともかく、誰がどれだけのカネを持っていても、私の知ったことじゃない。本当に、何にも気にならない。「Twitterを買収した? そう。よかったね」っていう、それだけ。人は恐怖心を糧に成長できる。私は自分の心の中のそのスペースを、誰にも与えていない。私の心の中で自由にしていていいのは、ドラァグ・クイーンだけ。

──2023年にウォルター・アイザックソンが出版した、あなたの父親の伝記本の中にある記述で、あなたは非常に深刻な問題を抱えていましたね。この本の中で、アイザックソンはあなたが捨てた出生時のファーストネームとミドルネームを織り交ぜて使っています。

あの本を書いていたとき、彼(アイザックソン)には思惑があった。それはイーロンをよく見せる、あるいは本当の彼よりも複雑な人物に見せること。その目的を成し遂げるために、トランスのティーンエイジャーを悪者扱いして、(親子の確執という)ストーリーに、どちらにも筋の通った言い分があるように見せかけようとする必要があったわけ」

(原文編集部注:アイザックソンは編集部からのコメントの要請に応じなかった)

──アイザックソンは前述の伝記本で、あなたの政治的な信条を「急進的マルクス主義」と表現しています。自分のことをマルクス主義者だと考えていますか?

私は左翼であって、マルクス主義者ではない。私の信条は、個人的に信じていることと、ごく普通の一般常識だと思っているものでできている。常識って言っても、2秒も考えればわかるようなことだけど。私は、ユニバーサル・ベーシックインカム(=すべての人に無条件で現金を支給する制度)や無料の医療はすべての人に与えられるべきものだと思っている。食べるものと雨風をしのぐ場所、飲み水は基本的人権に属すると、私は信じている。富の不平等はアメリカ、特に私たちの世代にとって最大の問題の一つだとも思う。労働者は働きに見合った適正な報酬を受け取るべきだと感じるし、全体の1%にも満たないメガ・ビリオネアたちに富が占有されるのはおかしいと思う。彼らの頭にあるのは、自分自身の利害だけ。そういうビリオネアに実際、何人か会ったことがあるけれど─あまりいい人とは言えないな。あの手の人に、いい人なんて誰もいないと思う。

──あなたがトランスジェンダーであることは、政治的な信条にも影響を与えているのでしょうか?

政治的見解のスペクトラムで、片方の側が「トランスの連中は男性で、女性のスペースに侵入している」と主張して、トランス向けの医療や権利を奪い、私たちをできる限り“見えない存在”にしようとしている。そして、もう片方の側がそれに「ノー」と言っている。これなら(政治信条に影響があるのは)当然でしょう? トランスだけど保守派という人がいたら、その人は自分の利益に反する側に票を投じていることになるし……。でもその一方で、私はまだ21歳で、常に変化し、進化している途中。もちろん、これからも決して保守派にはならないけれど、どんな人でも、政治的立場はある程度は変わるものじゃないかな。

──政治的な見解に関して、ご両親から影響は受けていますか?

あれだけの富、とにかく途方もない額の富を見て育ち、その一方でロサンゼルスに住んで、(この街を大いに悩ませている)ホームレスの問題や、貧富の差を目の当たりにしていたら……「これがフェアなんてこと、あり得る?」って疑いを抱くようになる。そして、当然、「そんなわけない」っていう結論に至る。路上に寝泊まりしている人がいる一方で、プライベートジェットやプライベートアイランドとか、そういうものを複数持てるような人がいる。そんな世界は存在すべきじゃないと思う。

──ご両親の政治的な立場は、これまで変化してきたのでしょうか。イーロンはずっと……こんな感じだったんですか?

その質問には答えません。ごめんなさい。でも(マスクが今のような見解を持つに至ったのは)私が理由ではないとは言える。「彼が右派に転じたのは、子どもがろくでもないトランスジェンダーだからだ」って、向こうにとってはすごく都合のいいストーリーだよね。でも、それは事実とは違う。(子どもがトランスであることは)そういう影響を与えるものではない。彼がさらに右寄りになったのは─そう、ここで私は“さらに”という言葉を使うし、記事にも絶対に“さらに”と入れておいてね─私が理由ではない。そんなことはあり得ない。

Xのプロフィールは、その人の現実での姿とイコールではないよね? みんな、本人が意識的に見せている、ごくわずかな部分を見て、「こういう人なんだ」というイメージを抱いているだけ。ネット上の発言はすべて、その人が心から信じていることなんだと思い込むなんて、バカげている。私は、彼(マスク)とは2020年以来、5年近く話をしていない。

トランスジェンダー女性に伝えたいこと

Teen Vogue Special Edition Cover with Vivian Wilson

──この歴史的な瞬間において、特にトランスジェンダー女性の人たちは、まるで社会の敵であるがごとく、槍玉にあげられているように感じます。トランスジェンダー女性としてだけでなく、誰もが知る有名人として、これだけ人目に触れていることを怖いと感じませんか?

トランス女性としてとても恐れているのは、権利が保障されているはずの医療へのアクセスが失われること。私の場合、あの年齢で(性別)移行のための医療ケアを受けていなかったら、何が起きていたかわからなかった。トランスであることは、本人の選択の問題ではない、という点をみんなわかっていないように感じて仕方がなくて─こんなことをあなたに言ってもしょうがないんだけど。

未成年のうちに(性別を)移行することは、自殺願望をおしとどめるために、私にとって医学的に不可欠な措置だった。トランスの若者がトランス向けの医療にアクセスする権利を守るのは、本当に大切なことだと思う。

(原文編集部注:世界最大のLGBTQの若者のための自殺予防・危機介入組織、トレバープロジェクトが行った2024年の調査によると、若者をターゲットにした反トランス法が成立した州では、自殺を試みる人の割合が増加していた。加えて、同プロジェクトが先日公開した2024年の調査データによると、ヴィヴィアンが生まれ育ったカリフォルニア州では、トランスおよびノンバイナリーの若者のうち39%が「2024年になって真剣に自殺を考えた」と回答し、実際に自殺を試みた者の割合も14%に達した。反対に、ジェンダーアファーミング・ケアやホルモン補充療法を受けているトランスジェンダーの若者では、メンタルヘルスの状態が改善し、うつ病の罹患率も下がることが、複数の研究で明らかになっている)

──トランスジェンダー女性に対して、アドバイスはありますか?

コントラポインツ(ContraPoints、政治やジェンダーをテーマとする動画を配信するユーチューバー)の発言を引用したいな。「気を強く持ってね、シスター。落ち込んでいたら、あのクソ野郎どもの思うつぼだから」。ほかの人から言われることに揺らいじゃダメ。トランスであることを恥じないで。ただでさえ今は、私たちがありのままの自分であることを恥ずかしく思わせようと手ぐすね引いているやつらがいるんだから。

トランスであることは、私の人格の中で、決して些細な要素ではない。私はトランス・コミュニティにとても大きな価値を置いている。クィア・コミュニティも価値あるものだと思う。トランスやクィアの歴史、クィア・カルチャー、そうしたものすべてを大切に思っているので、こうしたものから離れたくない。それが私の気持ち。

私は有名になる前から、本当に素晴らしいオンラインコミュニティに接してきた。今ではそれぞれ違うコミュニティを通じて知り合った、7人の友達がいるの。このメンバーで、小さなサークルを作ったの。今でも毎晩チャットしているけれど、それがもう何年も続いていて。ネットで知り合った人との友情は価値が低いと思い込んでいる人は本当に多いけど、私にとってはここでの友情が世界のすべてで……(泣き出す)。どうしてこんなに泣けるんだろう? 一番親しい人たちの中には、リアルで一度も会ったことがない人もいる。何百マイル、何千マイルも離れたところに住んでいるから。

──あなたは最近、どんなことに喜びを見出していますか?

今はしょっちゅう友達のことをチェックしたり、されたりしている。それと、興味があることをさらに深く調べたいと思っている。今できるのはそれくらいかな。今、すごく興味があるのはドラァグ。ドラァグ大好き。ドラァグっていうアートに心から憧れているし、いつかLAのシーンに自分でもぜひ参加したい。“ドラァグ・ページェントで優勝すること”は私のバケットリストの項目の一つなんだ。

──ドラァグに挑戦するなら、ハイパーフェムなクイーンになりますか? それとも、あえてドラァグ・キングに挑戦してみますか?

私はドラァグ・キングになるんじゃないかな。そっちのほうが面白そうだし。でもどっちもやりたくなる気がする。マジで、私がフェムボーイなドラァグ・キングをやったらどうなるかな? めちゃくちゃ楽しそう。

──ドラァグに挑戦したら演じたい、理想のテーマはありますか?

ええと、うん、私がやりたい最初のナンバーは……いや、これがありがちなのは自分でもわかってるんだけど、『プラダを着た悪魔』に出てくる、セルリアンについての有名なセリフ (※)をモチーフにしたい。ちょっとずつセルリアンな要素を出していって、今までずっと考えてきた、メリル・ストリープにまつわるファンタジーを現実にする、っていう。私、あの映画に取り憑かれているから。

──これは参りましたね。

待ってて、アナ・ウィンター

(※訳注:『プラダを着た悪魔』には、2本の青いベルトが「どちらも同じ色に見える」と言う主人公に、メリル・ストリープ演じる編集長のミランダ(アナ・ウィンターがモデルとも噂される)が「この色はセルリアン」と違いを説く、有名なセリフがある)

Photographer: Andy Jackson Text: Ella Yurman Photo Assistant: Chris Quyen Stylist: Shunji Sawai Styling Assistant: Hanako Nomura Makeup Artist: Kazuhiro Takenaka Hair: Kazuhiro Naka Manicurist: Kurumi Production: SHOKUPAN.INC EP: Debbie Pan Producer: Shunya Watanabe Production Coordinator: SAMMI LI Location Coordinator: Adriana Bosnjak Production Assistant: Marine Nabeshima, Ayaka Kojima Translation: Tomoko Nagasawa Adaptation Editor: Sakura Karugane

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