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静かな熱狂を生んだ NHK「しあわせは食べて寝て待て」は、なぜ “傑作ドラマ” になったのか?

  • 2025.5.31

NHKプラスで歴代ドラマ1位に(朝ドラ、大河除く)

主演を務めた桜井ユキさん(2024年6月12日、時事)
主演を務めた桜井ユキさん(2024年6月12日、時事)

ドラマファンの間で絶大な人気をほこった「しあわせは食べて寝て待て」(NHK総合)が、ついに最終回を迎えました。水凪トリさんの漫画が原作となり、桜井ユキさん主演で「ドラマ10」枠にて放送された同作。第1話はNHKプラスの視聴数(同時または見逃し配信)にて、連続テレビ小説と大河ドラマを除くドラマの中で歴代1位を獲得する人気に。2025年5月27日(火)に最終話を迎えて以降、SNSでは大絶賛のコメントが数多く書き込まれています。

民放ドラマと比べると、出演者も演出も派手ではない「しあわせは食べて寝て待て」が、なぜここまで熱狂的なファンを生み出したのでしょうか? 同ドラマの魅力は、何気ない日常を丁寧に静かに描いたストーリーにあります。

38歳で独身の麦巻さとこが主人公ですが、一見するとどこにでもいる普通の女性。ただ、さとこは一生付き合う病気の膠原病(こうげんびょう)にかかり、健康だけでなく仕事や将来設計など、いろいろなものを突然なくすことになります。それまでキャリアウーマンとして夢があったのに、会社を退職して週4日のパートでギリギリの生活を送ることに。治療の成果があって日常生活は送れるものの、無理をするとすぐに体が悲鳴を上げる状態です。

さとこに襲いかかった静かな絶望は、ドラマを通じて最終回まで描かれます。その様子が見たことないほどリアルで、いつの間にか視聴者はさとこの生活の一部になったような没入感を得られます。

そんなさとこは、収入が減ったことで家賃の安い団地へ引越し。その団地で、加賀まりこさん演じる大家・美山鈴と、宮沢氷魚さん演じる薬膳料理が得意な羽白司と出会い、物語が展開します。とは言っても、新しい出会いが起きてもさとこの病気が治るわけでもなく、ラブストーリーが始まる気配もありません。ただ、司と出会ったことでさとこは旬の食材を取り入れた薬膳料理に出会い、少しずつ人生が好転していくことになります。

ただ、人生が好転すると言っても、ありがちなドラマのようにさとこが薬膳料理の達人になったり、お店を開くわけではありません。お金がないさとこは、思ったように食材が買えないこともあり、「薬膳にもお金が掛かる」とつぶやくシーンも。前述した通りリアルに生活が描かれるドラマで、過剰な伏線や演出は一切なくストーリーが進んでいきます。

では、そのようなドラマがなぜ面白いのか? そこには、誰もが共感を得られる生活の場面が淡々と映し出されるからです。

病気になったさとこは、孤独や葛藤を感じながらも、決して取り乱すことなく生活を続けます。ドラマなら、過剰な演出をしがちですが、「しあわせは食べて寝て待て」では、さとこは自分の運命を受け入れつつ、悩んだり喜んだりを繰り返します。その様子にリアリティーがあり、桜井さんが演じるさとこに多くの視聴者が感情移入し、前向きになれたことや、周囲の人と心を通わせられた感動を一緒に体感できるのです。

さまざまなドラマが各局で作られていますが、ここまで主人公とともにストーリーを追える作品は希少です。そこが、「しあわせは食べて寝て待て」の他のドラマにない魅力で、視聴者を熱狂させることに成功したのでしょう。

そんな歴史的な名作と言える同作は、最終回まで過剰な演出がないまま進行していきました。ただ、そこまでの道のりで、団地の人たちと打ち解けることができたり、人生に前向きになって新しいことを始めたりと、生きることに意味を見出すさとこの姿が静かに描かれます。

ちなみに、全ドラマを見ている筆者ですが、現時点では春ドラマで同作が最も面白いと思っています。それくらい心を揺さぶられる作品でした。地味で特徴が薄いドラマなのに、多くの視聴者の心を離さなかった「しあわせは食べて寝て待て」。NHKオンデマンドでは全話見逃し配信を実施中なので、不思議な魅力を持った作品をぜひ体験してみてはどうでしょうか。

(ゆるま小林)

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