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原作ファンも唸る“神配役” 「これ以上ないハマり役」話題のドラマで大人気俳優が真摯に向き合った成果『対岸の家事』

  • 2025.4.15

TBS系火曜ドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』は、朱野帰子の同名小説を原作とする作品である。現代の家庭と仕事のはざまで揺れる女性たちの心情を丁寧に描いた脚本も魅力の一つだが、何より特筆すべきは、原作ファンも唸らせる“神配役”にある。なかでも、一ノ瀬ワタル演じる虎朗と、ディーン・フジオカ演じる中谷達也という二人のキャスティングは「原作のイメージにこれほどフィットすることがあるのか」と驚かずにはいられない。

一ノ瀬ワタルが体現する“虎”そのものの父親像

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火曜ドラマ『対岸の家事』第1話より(C)TBS

本作の主人公は、専業主婦の村上詩穂(多部未華子)。居酒屋店長の夫・虎朗(一ノ瀬ワタル)と、娘の苺と3人で慎ましく暮らしている。日中、話し相手がいないことに寂しさを感じる詩穂が、隣に越してきたワーママ・長野礼子(江口のりこ)と出会い、互いの立場や人生観にぶつかりながらも、少しずつ心を通わせていく物語だ。

原作において虎朗は「名前の通り、虎みたいに図体が大きい」「家ではゴロゴロしているが、職場では強面で通っている」「赤ちゃんを見ると、凶悪に見える目が糸のように細くなる」という人物として描かれている。一ノ瀬ワタルがそのままページから抜け出してきたのでは? と思えるほど、そのビジュアルと存在感がドンピシャなのだ。

一ノ瀬は、Netflix『サンクチュアリ -聖域-』や『インフォーマ』などで見せた“ゴリゴリの強面系”な役柄が印象的だが、その一方で朝ドラ『おむすび』の佐々木佑馬役のように、明るく人懐っこいキャラクターも軽やかに演じている。虎朗役では、この両面性が最大限に発揮されている。娘を溺愛し、家事に不器用ながらも協力的で、時折見せるおちゃめな一面に、視聴者の心はじわりと温かくなる。

しかもその“おおらかさ”が、詩穂の抱える孤独や葛藤をまるごと包み込むような安心感を与えている。原作の描写とここまで一致する演技は、決して偶然ではない。一ノ瀬ワタルという俳優が、虎朗という人物に真摯に向き合い、彼のなかの“やさしさ”を掘り起こした成果に他ならない。

ディーン・フジオカが醸し出す、知性と冷静さの“役人感”

もう一人の注目キャスト、中谷達也を演じるのはディーン・フジオカだ。彼が登場するだけで空気がすっと引き締まるのは、言うまでもない。白シャツ、上品な佇まい、どこか合理主義的な価値観。典型的な“お役人感”を彷彿とさせる中谷像が、ディーンの演技で完璧に再現されている。

たとえば、転んで泣いてしまった娘に対して「泣いても何も解決しない」と冷静に語る場面。これはまさに“上司が部下に言い聞かせるような”口調であり、ディーン・フジオカの声と滑らかな台詞回しが、その感触をさらに強調している。

彼の役作りが優れているのは、ただ“冷たい”のではなく、ある程度の“理性的な面”も含んでいる点だ。ただ仕事ができる父親ではなく、家族に対しても一定の距離感を保つ中谷。その不器用さと信頼性の混在が、現代の父親像としてリアルに映る。

そして何より、ディーン・フジオカの清潔感と穏やかな存在感が、中谷の“品の良さ”という要素に説得力をもたらしている。家庭内においても、何かと調整役に回る中谷の冷静さと、時に漂う孤独。その複雑なニュアンスを、台詞の一言、まなざしの変化で表現できる俳優はそう多くはない。

“家庭”を支える男性キャラのリアリティ

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火曜ドラマ『対岸の家事』第2話より(C)TBS

ドラマの主軸は詩穂と礼子という2人の女性を通して描かれる「家事と労働」「主婦とワーママ」の対比であるが、虎朗と中谷という2人の男性キャラがしっかりと輪郭を持って描かれていることで、家庭という場の“リアリティ”がより深まっている。

虎朗はあたたかさ、中谷は理性。異なる温度を持つ2人の存在が、詩穂たちの迷いや選択をよりくっきりと浮かび上がらせている。とくに虎朗は、居酒屋での激務により帰ったらすぐに寝入ってしまうような旦那だが、どこか憎めず、反対に「こういう人、いるよね」と思わせてくれるリアリティがある。

中谷にしても、すべてをこなす優等生のようでありながら、ふとした瞬間に見せる隙や、家族にとっての“壁”のような距離感が描かれており、決して完璧な人物として描かれていない。こうした“人間味”の部分をすくい上げられるのも、俳優の力量あってこそだ。

原作の実写化において、「イメージと違う」という違和感は作品の致命傷になることもある。しかしドラマ『対岸の家事』においては、それが一切ない。むしろ「この人たちが演じてくれてよかった」と、原作読者が安堵するほどの完成度である。

キャラクターの輪郭をなぞるだけでなく、その奥にある感情や背景まで含めて、“彼ららしさ”を丁寧に表現しているからこそ、視聴者は安心して物語に没頭できる。SNS上でも「これ以上ないハマり役」「共感しかない」と好評な配役。ときに笑って、ときに胸が詰まり、ときに「わかる…」と共感する。そんな体験を支えているのが、まさにこの2人の俳優である。


TBS系 火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』毎週火曜よる10:00~

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_