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“非道”なのに、美しい…松嶋菜々子だからこその“存在感ある演技”にSNSでもざわつき

  • 2025.4.11

やなせたかしとその妻・暢をモデルにした連続テレビ小説『あんぱん』。本作は史実をベースにしながらも、大胆なアレンジを加えたオリジナルストーリーである。ふたりが出会ったのは実際には成人後、高知新聞社でのことだが、ドラマでは幼少期から接点があるという展開で、早くも視聴者の心をつかんでいる。

物語の重心を支える女優の存在感

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『あんぱん』第2週(C)NHK

本作で印象に残るのは、松嶋菜々子が演じる嵩の母・登美子の存在である。幼い息子を親戚に預け、再婚の道を選ぶという現代の価値観から見れば肯定しがたい選択をする女性であるが、松嶋はその難しい役どころを、抑制の効いた自然体の演技で見事に体現している。

セリフの少ない場面でも、まなざしや声のトーン、姿勢や動作で語る松嶋の演技には、年齢を重ねてきた女優ならではの深みがにじんでいる。おそらく登美子は、再婚のために実の息子たちを置いていった非道な母であり、SNS上でも「嵩の気持ちも考えて」「葉書に苗字がないのは……」と彼女の言動を訝しむ声が多い。しかし、松嶋の艶のある魅力が、視聴者の目を惑わせかねない。

彼女の魅力は、単なる“美しさ”にとどまらない。フレッシュさと透明感が際立っていた20代、そして感情を抑えた円熟みのある演技が光った30〜40代。今回の登美子という役は、これまでの経験が融合したかのような、深みのあるキャラクターである。過去を抱え、それでも前を向こうとする母の背中には、誰しもがなにかしら重ねてしまうものがあるだろう。

また、子ども時代の嵩を演じる木村優来、その弟・千尋を演じる平山正剛のキャスティングも、よく練られている印象である。特に千尋の“丸顔”というやなせたかしのエピソードを反映させているようなビジュアルは、作品の細部へのこだわりを感じさせる。

また、『アンパンマン』の世界観に通じるキャラクターが登場するのも注目すべき点である。阿部サダヲ演じる草吉はジャムおじさんを彷彿とさせ、江口のりこ演じる羽多子はバタコさんだろう。子どもたちがパンを頬張る姿は、アンパンマンの“顔をあげる”行為とも重なり、あの優しい正義の根源に触れているような感覚を覚える。

パンは、やはり特別だった?

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『あんぱん』第2週(C)NHK

『あんぱん』というタイトルからも分かるように、本作のもうひとつの大きなテーマは「パン」である。現代では当たり前の食べ物であるが、1920年代の高知においては、それはまだまだ“特別な存在”だった。

当時、パンは都市部を中心に徐々に普及していたものの、地方では“もちもちふわふわ”のパンは珍しく、特別な日に口にするようなものだったと考えられる。高知の名物である「帽子パン」が誕生したのも昭和30年代。それよりも前にパン作りに挑戦する朝田家の姿は、実際のパン文化の浸透よりも先を行く、希望に満ちた描写として映る。

草吉のパン作りに励む姿、それを習って家族でパンを焼くようになる朝田家の光景は、単なる“おいしいもの”を作るという行為を超えて、人と人との繋がり、手間をかけることの価値、そして「誰かに喜んでもらいたい」という純粋な気持ちを象徴しているように感じられる。

パン1個が2〜3銭で売られていた時代。その価格は今の価値に換算すると、およそ300円前後とみられる(物価や収入の上昇率にも関係するので、一概には言えない)。この価格が示すのは「安くて庶民的」ではなく、「特別な価値を持つ食べ物」であったということ。だからこそ、人々の表情は嬉しそうであり、パンをつくることが未来に繋がる何かを生み出しているように見える。

“誰かのために”がヒーローを生む

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『あんぱん』第2週(C)NHK

やなせたかしの『アンパンマン』が体現した「自己犠牲の優しさ」は、こうした日々の積み重ねや、誰かのために何かをしたいという暮らしから生まれてきたものかもしれない。

ドラマで描かれる「幸せなパンづくり」は、“顔をあげるアンパンマン”の原点として、視聴者に静かに訴えかけてくる。「誰かのために何かをする」という行為の意味を、あらためて思い出させてくれる温かさがある。

“パン”というモチーフを通じて描かれる家族や地域のつながり、そしてヒーローの芽生え。“あたえる”という行為が、どれほど人を幸せにし、つなげていくか。そんな哲学が、物語の土台をやさしく支えている。朝ドラ『あんぱん』は、“偉人の伝記”にとどまらず、人が人らしく生きるために必要なことを、日々の営みを通して静かに問いかけてくる物語である。

NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_