三重県在住の女性読者・Mさんは30年ほど前の大雪の日、歩いて職場へ向かっていた。
普段はバスに乗って通勤していたが、その日は雪のために動きが分からず、だからと言って休むことも出来なくて......。
<Mさんからのおたより>
三重県四日市は、時々大雪に見舞われます。
もう30年近く前のその日も、記録的な大雪でした。
当時通勤には御在所岳がすぐそばに見える山間部から、中心部の四日市駅までを運行しているバスを使っていましたが、大雪でいつやってくるかわからない状態。
それでも、代わりがいない仕事のため休むこともできず、駅まで歩くことを決めました。
車が進む国道の脇をゆっくり歩いていたら...
寒い雪の中、仕事の荷物を持ち、ひたすら歩きました。1時間以上かかる事は覚悟しながら、国道の脇道を少しずつ......。
すぐ横で、ゆっくりではありましたが車も進んでいました。
そして、橋を渡り、半分くらいの距離に来た時。1台の車が私の横で止まり、ご夫婦か恋人同士か......若い男女が窓から声をかけてきました。
「どこまで? 送ってあげるよ」
長い時間雪の中を歩いてヘトヘトになっていた私は、彼らの車に乗せてもらい無事四日市駅に到着。
「ありがとうございました。御礼をしたいのでお名前、連絡先教えて下さい」と私が伝えると、
「気にしないで。雪の中大変だったね」
彼らはそう言って、優しく手をふり、去っていきました。
あれから、30年後...
あの日の事を、今もはっきり覚えています。とても感謝しています。
その後、私は四日市をしばらく離れましたが、また三重に戻ってきました。
そしてとても暑かった7月のある日、四日市駅で外国人女性に声をかけられたのです。
道に迷ったという彼女と一緒に三重交通の案内所に行って時刻を確認すると、2時間も待たなければならないことが判明。仕事がありましたが、このまま知らない土地に若い彼女を置いておく事もできず、こう伝えました。
「私が車で送るね」
30年前、私が乗せてもらったように。今度は、私が娘のような年齢の彼女を車で送りました。
名前も何も分からない。ただ、同じ人として。
若い頃助けてもらった恩返しを、何かの形でこれからもできますように。ありがとう。
(※本コラムでは読者の皆さんに投稿していただいた体験談を紹介しています。プライバシー配慮などのために体験談中の場所や固有名詞等の情報を変更している場合がありますので、あらかじめご了承ください)