1. トップ
  2. このドラマ、何かがおかしい… 視聴者が翻弄された“主人公のミスリード”日曜劇場『キャスター』が突きつけた問題

このドラマ、何かがおかしい… 視聴者が翻弄された“主人公のミスリード”日曜劇場『キャスター』が突きつけた問題

  • 2025.4.18

TBS日曜劇場の最新作は、テレビ報道の在り方を問う骨太なミステリー作品になりそうだ。阿部寛主演『キャスター』は、破天荒なニュースキャスターの活躍を通じて、生ぬるくなったテレビのニュース番組を斬るといった内容のみならず、考察要素の多いミステリー作品としても展開していくようだ。第1話は怒涛の展開で、多くの謎と報道に対する課題意識を提示するボリューミーな内容となった。

※本記事にはネタバレを含みます。

怒涛の二転三転ミステリー

undefined
日曜劇場『キャスター』第1話より (C)TBS

主人公は公共放送で15年間のキャリアを積み、民放テレビ局JBNに引き抜かれた進藤壮一(阿部寛)。かつて報道を売りにしていた同局は近年、視聴率が低迷している報道番組『ニュースゲート』の立て直しのために会長自ら進藤を引き抜いてきたのだ。

近年のコンプライアンス重視の姿勢や、ネットに押される中でテレビ局の報道部は緩み切っていた。そこで、強引な手法も厭わない進藤流を貫き、報道部のメンバーを振り回し続ける。

冒頭、進藤のニュースゲート就任の初日から、羽生剛内閣官房長官(北大路欣也)の生出演で独占インタビューする進藤。そこで、開口一番、彼は「あなた、人を殺してますよね?」と衝撃的な発言をする。まったく台本にはない発言で、報道部は慌てふためくが、実はこれは本番前のリハーサルだ。

このリハーサルシーンが作品全体を象徴している。本当のやり取りかと見せかけて、実はリハーサルというのは、何が真実で何が嘘なのか、不透明だということ。このようなひっくり返しが連続する物語なのだ。

実際に、第1話から二転三転する怒涛の展開だった。5分に1回は事実がひっくり返ると言っても過言ではないジェットコースターのような展開だった。

undefined
日曜劇場『キャスター』第1話より (C)TBS

第1話では、生出演をドタキャンした羽生官房長官が持病で倒れて急遽入院する。その真相を追いかける内容となったが、向かうはずだったかかりつけの病院には行かず、救急車が急遽進路変更をした。さらには、途中で転院になったりと不可解な動きが続く。その裏にある「不都合な真実」を求めて進藤たちは奔走する。

さらに、官房長官の手術で輸血用の血液が不足したために少年が犠牲になった可能性などが示唆されるも、そうした事実はなかったということが連続で明かされる。だが、進藤は羽生陣営と裏取引をしていて、彼が本当に真実を追求するジャーナリストなのか、政治家と癒着する卑怯者なのか、どちらの可能性も残したまま、第1話は幕を閉じる。

主人公自身が「信頼できない語り手」

undefined
日曜劇場『キャスター』第1話より (C)TBS

ここで大きな謎が提示される。進藤は羽生官房長官が倒れた現場に居合わせたのだが、「この手で殺すまでは死なせはしない」と言うのだ。進藤は、何やら羽生と因縁があるらしい。その因縁が本作のミステリー要素となるだろう。

第1話では事実が二転三転し続ける展開となったが、ポイントはそれらの事実が誰かの証言によって提示されることが多いということ。進藤自身がミステリー作品の「信頼できない語り手」であるため、彼の言うことはミスリードかもしれないのだ。

しかも、進藤は「報道は毎日がエイプリルフールと思え」と語る。誰もが取材の現場では嘘をつく可能性がある、だから登場人物たちが言ったことをそのまま鵜呑みにしてはいけないということだろう。そして、それはそのまま視聴者に対するメッセージでもあり、進藤の言うことをそのまま鵜呑みにしてはいけないのだ。だからこそ、視聴者は考察のためには目を凝らしてドラマを見る必要がある。

報道に接する時は「エイプリルフール」だと思え?

undefined
日曜劇場『キャスター』第1話より (C)TBS

そんな信頼できない語り手を主人公に据えることで、本作は視聴者に対して現代の報道への接し方を提示しているのかもしれない。フェイクニュースがはびこる昨今、報道を疑って見るべきだと本作は伝えているのではないか。

「エイプリルフール」というキーワードは、視聴者にとってわかりやすい。エイプリルフールは嘘ネタがSNSなどで飛び交う。それにだまされた経験がある人もいるだろう。流れてくる情報のソースも確かめずに飛びつくとえらいことになるのが現代のエイプリルフールだが、そもそもそれ以外の日に流れてくる情報も、全て事実とは限らないし、事実であったとしても一部が切り取られているものだったりするわけだ。

報道をテーマにした作品をミステリー仕立てにすることで、本作はミステリーを解くような姿勢で現代の報道に接するべきだと視聴者に語りかけているのだ。

また、昨今のテレビの報道はネットや週刊誌報道の後追いばかりという問題意識も描かれる。ニュースゲートも自分でスクープを作る努力を怠り、「イケメン医師特集」のような安易に数字が取れそうな企画ばかりになっている。そんなテレビ報道の在り方を考えさせる内容でもある。

阿部寛、永野芽郁、道枝駿佑のトライアングルの緊張感

そんな一筋縄ではいかない本作を引っ張るのが、3人のメインキャストだ。主人公の進藤壮一(阿部寛)は破天荒なニュースキャスターをパワフルに演じ、存在感を発揮する。バラエティから報道部に配属された新人ディレクターの崎久保華(永野芽郁)は、そんな進藤に対立する存在として描かれる。彼女は、ジャーナリストとしてはまだ半人前だが、政治家と取引して事実を捻じ曲げる進藤に対して反旗を翻す気骨あるところを見せる。頼りなさと力強さを同居させたようなキャラクターを永野芽郁が絶妙な塩梅で演じている。本作は、崎久保がジャーナリストとして、どう成長していくのかも見どころとなりそうだ。

undefined
日曜劇場『キャスター』第1話より (C)TBS

そして、進藤と崎久保の間を取り持つ役割となりそうなのが、新人ADの本橋悠介(道枝駿佑)だ。アメリカ留学してジャーナリズムを学んだ優秀な人材にもかかわらず、ADとして雑用をやらせていることにじくじたる思いを抱えている。進藤は彼を利用できると考え、ほかのスタッフにも告げずに進藤の協力者としてふるまうが、それを崎久保に「報連相(報告・連絡・相談の略)ができていない」と叱責されるようなポジションだ。

undefined
日曜劇場『キャスター』第1話より (C)TBS

本橋は機転も利くし行動力もある。同時に進藤を信頼しすぎてもいないという立場だ。進藤と崎久保の間で揺れ動く存在であり、2人の間を取り持つ役割として重要なポジションになりそうだ。道枝駿佑の芝居は新人ADのフレッシュさを持ちながら、若さゆえの危うさもありながら、切れ者という特異なキャラクターを上手く体現している。

今後、この3人の関係性がどうなっていくのかも注目だ。


TBS系 日曜劇場『キャスター』 毎週日曜よる9時〜

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi