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「そんなのあり?」視聴者の価値観を揺さぶった、深夜ドラマ『三人夫婦』が描く新しい共生の形

  • 2025.4.9

浅香航大主演の新ドラマ『三人夫婦』。その設定を聞いた瞬間、多くの視聴者が「そんなの、あり?」と首をかしげたかもしれない。だが、観終わった後には「そういうあり方も、ありかもしれない」と感じる人も少なくないのでは。主人公・三津田拓三(浅香航大)は、元恋人の矢野口美愛(朝倉あき)と、その恋人である里村新平(鈴木大河)から突如「三人夫婦にならないか?」と持ちかけられる。恋愛感情の行き来や裏切りを描く物語かと思いきや、この第1話が描いたのは、経済・感情・責任を“分け合う”という、現代的な優しさだった。ここでは「分散」をキーワードにした共生のかたち、そして結婚における男性のプレッシャーという2つの観点から、本作の魅力を読み解いていく。

「分散」は、現代における救済のキーワード

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(C)「三人夫婦」製作委員会

「三人で結婚しよう」そう言われたとき、視聴者と同じくらい困惑したのは、拓三自身だったはずだ。かつて恋人だった美愛は現在、新平とつきあっている。けれど、新平はプロのダンサーという不安定な職業で、年収は240万円。彼女を一人で支えていく自信が持てずにいる。その葛藤から導き出した解決策が「三人夫婦」だった。

一見突飛なこの発想は、実は現代社会で浸透しつつある「シェア」や「分担」の思想と地続きにあるように思える。

たとえば、住まいの負担を減らすためのシェアハウス、家事や育児を分け合うパートナーシップ、孤独感を癒すサードプレイスの存在。社会が個人に背負わせていた責任やコストを、複数人で分担し合おうという考え方は、すでに私たちの暮らしのなかにある。

新平の「支えきれないなら、支える人を増やせばいい」という発想は、そこにある優しさと合理性を兼ね備えている。とくに、恋愛や結婚を“美愛にとって安心できる形にしたい”という真摯な気持ちがにじんでおり、決して奇抜さを狙った提案ではない。

むしろ、こうした新しい関係性の提案は「結婚とは二人でなければならない」「夫婦とはこうあるべき」という既存の枠組みを問い直す視点をもたらしてくれる。

制度が追いついていない部分もあるが、一夫多妻・一妻多夫、複数人での恋愛関係を認め合う価値観が議論され始めた現代において、「三人夫婦」はフィクションの枠を超えて、“選択肢”のひとつとして描かれていた。

男たちはなぜ「支えなきゃ」と思うのか

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(C)「三人夫婦」製作委員会

新平の「結婚できるならしたい」という言葉は本心からのものであり、そのうえで「自分には荷が重い」と考えてしまう葛藤がある。恋人である美愛のことを好きだからこそ、軽々しく「結婚しよう」と言えない。それは、責任を真剣に受け止めている証でもある。

一方で、この「責任を背負うべき」という意識こそが、男性特有のプレッシャーの根源であるとも言える。

社会はいまでも、結婚において「男性=支える側」という前提を暗に求める構造を持っている。もちろん、家事育児の分担や共働きの形が一般化しつつあるとはいえ、「結婚したら妻を食わせなければ」という圧力は、若い男性たちの心に根強く残っているのではないか。

新平はまさにその「重さ」に耐えきれず、それでも美愛と未来を共にしたいと考えた結果、「三人でなら」と思い至った。ここにあるのは逃避ではない。むしろ「背負える分だけ背負いたい」「背負える人を増やしていきたい」という前向きな選択である。

その選択に、拓三がどう関わるのか。かつて美愛を愛していた拓三が、その思いをどう昇華していくのか。愛と責任の分配は、単なる計算ではない。感情の機微と向き合う勇気が、必要なのだ。

『三人夫婦』第1話は、これまでの「結婚」という枠をやさしく、しかし力強く揺さぶる物語だった。恋愛や結婚に限らず、いまの社会を生き抜くためには「分担」「分散」「シェア」という思想が欠かせない。その考え方を、人間関係の中にも応用してみたらどうなるか。本作はその実験的な第一歩である。

「三人夫婦なんて非常識」……そう思う気持ちもわかる。しかし「誰かを一人で支えること」が美徳とされる一方で、それに疲れ果ててしまう人がいるのもまた事実だ。だからこそ、三人で支え合う関係性があってもいい。それを可能にするには、制度や社会の受け皿も必要だが、まずは“新しい形”を否定しない想像力こそが求められるのではないだろうか。

これから三人はどう暮らしていくのか。その行く末が、今後の物語において丁寧に描かれることを期待したい。



TBSドラマストリーム『三人夫婦』2025年4月8日(火)深夜0:58~ ※一部地域をのぞく

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。 X(旧Twitter):@yuu_uu_