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「実話が基になってるの知らなかった」「覚悟を持ってみて」壮絶すぎる… 社会問題を鋭く描き出した衝撃の映画

  • 2025.5.20
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(C)SANKEI

『あんのこと』壮絶な人生を生きた一人の少女の、希望と喪失の記録

2024年に公開された映画『あんのこと』は、入江悠監督がメガホンを取り、河合優実が主演を務めたヒューマンドラマ。PG12指定作品であり、実在の新聞記事から着想を得て制作された。

SNSでは「実話が基になってるの知らなかった」「今も危うい状況で生きてる子たちがいるんだよね」「覚悟を持ってみてほしい」「終始、胸がギュッと」など、その重厚な内容に衝撃を受ける声が続出した。

現代社会の闇と光を描く衝撃作

物語の着想となったのは、2020年6月に新聞の三面記事として掲載された、ある少女の過酷な人生。そこから紡がれる『あんのこと』は、家族からの虐待、薬物依存、売春といった現代日本の闇に真正面から向き合いながら、それでもなお生きようとする一人の女性の姿を描いている。

崩れた人生の中で、少女が見た希望とは

主人公・香川杏(河合優実)は、母子家庭に生まれ、母・春海(河井青葉)からの虐待を受けながら育った。小学校4年生で不登校となり、12歳で母に売春を強要され、やがて薬物に依存。21歳になった杏は、足の不自由な祖母・恵美子(広岡由里子)とホステスの母と共に団地で暮らしながら、生きる目的もなく日々を過ごしていた。

ある日、覚せい剤使用容疑で逮捕された杏は、担当刑事・多々羅保(佐藤二朗)と出会う。彼の支援のもと、杏はシェルターに避難し、家族と決別。更生支援グループへ通い始め、更生施設を取材する週刊誌記者・桐野達樹(稲垣吾郎)の紹介で介護の仕事に就き、夜間中学にも通いはじめる。少しずつ社会との接点を取り戻し、再出発に向けて歩み出したかのように見えた。

しかし2020年、コロナ禍が杏を再び奈落へと突き落とすことに。非正規雇用であったため職を失い、夜間中学も休校。さらには、桐野によって多々羅が女性更生者への性加害を行っていたと報じられ、杏の心は再び深く傷つき…。

たった一人の子どもとの出会いが、心を癒やす

そんな折、隣人のシングルマザー・紗良が突然姿を消し、幼い息子・隼人を杏に託す。仕方なく始めた共同生活の中で、杏は隼人に心を開き、愛情を注ぐことで自らの生を再び見つめ直していく。

しかし、逃げてきたはずの過去が彼女を再び追い詰める。行方不明だった母・春海が杏のもとを訪れ、祖母がコロナに感染したかもしれないと助けを求めてきたのだ。杏は葛藤の末、隼人を連れて、自ら決して戻らないと決めていた団地へと向かうが…。

社会の片隅で生きる人々に光を

『あんのこと』は、虐待や貧困、依存症、社会的孤立といった重いテーマを真正面から描きながら、そこに確かに存在する「再生の可能性」も描き出している。河合優実の圧巻の演技と、入江悠監督のリアリズム溢れる演出が、観る者の心を深く揺さぶる一作だ。

印象的だったのは、母親から虐待を受けていたあん自身が母代わりになったことで「生きる希望」を見つけた展開だ。隼人の世話をする中で、次第に誰かのために生きることの喜びや使命感に突き動かされたあんは、苦しい中にも生きていることを実感しているようだった。皮肉にも「母」という存在が今作のテーマの一つだったようにも思える。


ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand