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「台詞を覚えるくらい観た」公開から48年経っても絶賛…“日本映画史に残る傑作” 名優を支えた、“超大物俳優”の存在感

  • 2025.5.12

映画『幸福の黄色いハンカチ』は、1977年に公開された山田洋次監督、高倉健主演の日本映画だ。北海道を舞台に、過去に事情を抱えた中年男性と、人生に迷う若い男女が1台の車で旅をするロードムービーである。

武田鉄矢は本作で映画初出演を果たし、桃井かおりとともに高倉健と3人で珍道中を繰り広げ、感動の結末を迎える。他に、倍賞千恵子や『男はつらいよ』シリーズの「寅さん」として一躍有名な渥美清ら、豪華キャストが集結。

作品は国内外で高い評価を受け、第1回日本アカデミー賞をはじめ、キネマ旬報賞、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞、報知映画賞など、数々の映画賞を受賞。日本映画史に残る名作として知られている。

その後、テレビドラマ化や海外でのリメイクも行われ、時代や文化を超えて多くの人々に感動を届けている本作は、シンプルながら、長い時を越えた一途な想いを描いた傑作である。

「もし、待ってくれるなら…黄色いハンカチをぶら下げておいてくれ」

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 (C)SANKEI

失恋の傷を抱えながら北海道を旅する花田欽也(武田鉄矢)と、彼が出会った風変わりな女性・朱美(桃井かおり)は、ひょんなことから出所したばかりの無口な男・島勇作(高倉健)と出会い、3人で旅をすることになる。旅の道中、朱美を下手に口説こうとする欽也に、漢気を教える勇作。一方で、内気な性格の朱美は恋人に裏切られ自信を持てずにいた。

それぞれ個性がバラバラな3人だが、蟹を食べたり、溝にハマった車を力を合わせて移動させたりし、次第に仲を深めていく。そんな中、寡黙だった勇作は、かつて殺人罪で服役していた過去を明かす。勇作は、刑務所から妻の光枝(倍賞千恵子)に「自分を待っていてくれているなら、家の旗竿に黄色いハンカチをぶら下げてくれ」と手紙を送っていたのだった。

「待っているはずがない」と諦めようとする勇作を、朱美は「万が一ってこともあるじゃない」と勇作を励まし、自宅のある夕張へ向かう。不安のあまり外を見れない勇作の代わりに、目印の「黄色いハンカチ」を探す2人だったが…。

高倉健、出所後の定食屋での名演技

今作といえば、高倉健の“定食屋のシーン”が有名だ。網走刑務所で6年の刑期を終えて出所した勇作は、定食屋で醤油ラーメン、カツ丼、瓶ビールを注文する。運ばれてきたビールを両手で大事そうに持ち、一気に飲み干す。ビールを味わい尽くす真剣な表情と、熱いラーメンを勢いよくすするその姿は、非常に印象的だ。高倉はこのシーンの撮影のために2日間食事を抜いていたという逸話も残っている。また、旅館で敷かれた布団に愛おしそうに触れ、満足げに潜り込む様子からは、刑期を終えて自由を得た男の喜びと哀愁がにじみ出ている。

SNSでは「一気に飲み干した表情は忘れられない」「あのシーン以上に美味そうに飯を食べるシーン見たことない」「一番胃袋を掴まれるな」「高倉健のビール飲む仕草や布団に触れた時のあの飾り気も華やかさも不要な演技が堪らなく好き」など、高倉の名演技は今も評価されている。

愛し方を知らなかった男が、伝えたかったこと

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 (C)SANKEI

出会ったばかりの朱美に対してやたらと下心を露わにする欽也に対し、勇作は「いいか、女っちゅうもんは弱いもんなんじゃ。咲いた花のごとく、壊れやすいもんなんじゃ。男が守ってやらないけん」と喝をいれる。現代では、こういう表現は受け入れられにくいだろう。しかし、この言葉の背景には、勇作が過去に妻のことを大切にできなかった戒めの思いが込められている。不器用な勇作はバスに乗る光枝を待ち伏せし、結婚後には、光枝が過去に流産した経験があることを知ると、「他に何か隠しごとしているのか」と怒鳴ってちゃぶ台をひっくり返し、家を出ていったのだ。その挙句、道端で絡んできたチンピラを殺してしまい、刑務所に入ったという経緯だった。

その過去を深く悔いた勇作は、愛するひとへの接し方を欽也に説いたのだ。そして、勇作に喝を入れられてから、欽也の朱美に対する態度も変わり、次第に欽也と朱美の距離も縮まっていく。

武田鉄矢と桃井かおりの存在感

高倉の際立つ存在感に加え、欽也を演じる武田のコミカルな演技と、朱美の天然なキャラクターを体現する桃井の表現力も今作の見どころのひとつだ。山道でも座敷でもやたらとずっこけ、蟹に当たってお腹を下す武田の演技は、何度観ても笑いが込み上げてしまう。

桃井演じる朱美は、恋人に二股をかけられて、傷心のまま旅に出て欽也と勇作に出会った。子供の頃は、母親から十分に愛されず、大人になってからも大事にしてくれる相手に出会えず、自信が持てないでいた朱美。しかし、欽也の明るさや下心を丸出しながらも一途に想ってくれる姿、そして勇作の妻への秘めた想いに触れて「背中を押したい」という積極的な姿を見せるようになっていく。控えめで初々しい様子から、ズバッとモノを言う明朗な女性に変化する姿にも注目だ。

SNSでは「キレッキレの武田鉄矢と天然満開の桃井かおりが楽しい」「若き日の武田鉄矢さんがいい味出していましたね」と、絶賛する声が多く上がっている。

今なお愛され続ける名作の理由

3人の旅路が交差することで描かれるのは、不器用でありながらも誰かを想う心。その一途で切実な願いが、観る者の胸を強く打つ。

ファンからは「この映画大好きです」「何度観ても清々しいラスト」「名作中の名作」「台詞を覚えるくらい観た」という声が寄せられており、公開から48年経っても、その魅力は色褪せない。時代を越えて人々の心に残り続ける、真のヒューマンドラマである。


ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand