1. トップ
  2. エピソード
  3. 「実習先で会った女は」と言った彼→実習先の洋菓子店で私を見た日

「実習先で会った女は」と言った彼→実習先の洋菓子店で私を見た日

  • 2026.11.6
ハウコレ

「なんで来たの」。白い帽子の彼は、私と目を合わせないまま銀色のトレーに布をかけました。店の女性が言いかけた言葉の続きは、聞けずじまいです。

冷蔵庫を開けると、彼に頼まれていた牛乳が入っていませんでした。買い忘れたことを謝ると、彼はソファから顔も上げずにため息をつきました。そのあとに続いた言葉が、しばらく頭から離れなかったのです。

牛乳1本で比べられて

「実習先で会った女は、お前と違って気が利くんだよ」
彼はスマホの画面を見たまま、そう言いました。
一緒に暮らす彼は製菓の専門学校に通っていて、2週間前から洋菓子店で実習をしています。
お店の話はよく聞いていたのに、女性がいるとは初めて知りました。
「どんな人なの」
そう聞くと、彼は「普通だよ」とだけ答えて、お風呂場へ行ってしまいました。
実習が始まってから、彼の帰りは遅くなる一方です。
甘い匂いを服につけて帰ってきては、すぐに眠ってしまう日が続いていました。
牛乳1本のことで、顔も知らない女性と比べられたのが悔しくてたまりませんでした。

ガラス越しの横顔

数日後、仕事の帰りに、私はその洋菓子店へ寄ってみることにしました。
どんな女性なのか、自分の目で見ておきたかったからです。
ショーケースの奥はガラス張りの厨房になっていて、白い帽子の彼がすぐに見つかりました。
隣には、同じ帽子とマスクをつけた女性が立っています。
彼は私に気づくと、手元にあった銀色のトレーに、さっと布をかけました。
それから厨房を出てきて、低い声で言いました。
「なんで来たの」
後から出てきた女性が、マスクの上の目を細めて私に話しかけます。
「この子ね、毎日」

言いかけた言葉

「すみません、今日は帰ってもらえますか」
彼は女性の言葉にかぶせるように、私に頭を下げました。
まるでお客さんに向けるような、よそよそしい敬語です。
女性は何か言いたそうに彼を見ましたが、それ以上は続けませんでした。
結局、ケーキを1つも買わずに店を出ました。
駅までの道で、あの「毎日」の続きを何度も考えました。
毎日一緒にいる、毎日楽しそう、どれを当てはめても嫌な想像しか浮かばないのです。
しばらくして、彼からは「ごめん」とだけメッセージが届きました。

そして...

その日、彼はいつもよりずっと早く帰ってきました。
手には、白い紙袋を提げています。
玄関に立ったまま、彼は紙袋を背中のほうへ回しました。
「ちょっと座って」
返事をしないまま、私はソファの端に腰を下ろしました。
彼が差し出した紙袋には、白い箱が入っていました。
箱の中にあったのは、私の好きなレモンのタルトです。
「覚えてたんだ」
私がそう言うと、彼は何より先に牛乳のことを謝りました。
けれど、あの女性のことは、まだ何も聞けていません。
「この子ね、毎日」。あの女性が言いかけた言葉の続きは、何だったのでしょうか。

(20代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ