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公務員だったキボリノコンノが売れっ子絵本作家になるまで! 若手編集者からベテラン編集者にバトンは渡された

  • 2026.11.3
cocreco撮影/日下部真紀

SNSで作品を発表し、話題を集める木彫りアーティストのキボリノコンノさん。

公務員から絵本の世界へと歩み出した彼を支えるのは、コンノさんの前作絵本『どっち?』を手がけた若手編集者の酒井友里さんと、「だるまさん」シリーズなど数々のヒット作を手がけたベテラン編集者の沖本敦子さんです。

年齢も経験も異なる3人が、互いを尊重しながらフラットな関係で作品づくりに向き合えるのはなぜなのか。転身の経緯や制作の舞台裏、そしてこれからの展望について、じっくり語り合っていただきました。

「この人はすごい! 今すぐ連絡しないと」出会いの裏側とスピード感

──2本目では、講談社の編集者のお二人(酒井友里さん・沖本敦子さん)に加わっていただき、3人の出会いやチームの裏側に迫ります。まずは、それぞれの出会いから教えていただけますか。

酒井友里さん(以下、酒井):コンノさんが2023年3月ごろにX(旧Twitter)に投稿されていた「木彫りクイズ」を見たのが最初でした。

「この人はすごい! 今すぐ連絡しないと他の出版社に取られちゃう!」と猛烈に焦ってしまって(笑)。

本当は日中に連絡すべきなのですが、夜の10時ごろに「絵本を作りませんか」とメールを送ってしまったんです。

キボリノコンノ(以下、コンノ):電話でも「取られちゃう!」って言ってましたよ(笑)。

翌朝に僕が返信したら、「今から電話できますか?」と15分後には電話がかかってきて。単に「売れそう」という理由からではなく、作品を本気で好きでいてくれるのが伝わったので、「この人と一緒にやりたい」と思いました。

──コンノさんはその当時、まだ公務員だったんですよね。

コンノ:そうなんです。当時は副業禁止の公務員だったので「印税なしで出すかな」なんて考えていたのですが、ちょうど自分の今後の生き方に悩んでいたタイミングでした。

公務員という立場だとやれることが限られているし、せっかく始めた木彫りを深められないのが寂しかった。

ちょうど娘が生まれた時期でもあり、酒井さんが「これを仕事にできるかもしれない」と思わせてくれたおかげで、思い切って公務員を辞めてアーティストになる決断ができました。

酒井:声をかけて2週間くらいで「公務員をやめてアーティストになりました!」と言われて、私もとてもびっくりしました(笑)。

沖本敦子さん(以下、沖本):私は当時フリーランスだったのですが、酒井さんががんばってプロモーションして話題を作っていた記事のひとつを読んでコンノさんを知りました。

ちょうどそのころ、講談社に所属させていただくお話があったんです。キボリノコンノさんの『どっち?』が講談社で出ているなら、わたしもまぜてもらって、みんなで一緒にコンノさんを盛り上げていけたら面白そうだなと思って。

でも、担当編集者によっては、他の編集者が関わることをよく思わない場合もあるので、酒井さんはどう思われるかな、と……とドキドキしながらXをフォローしたんです。そうしたら深夜3時半に酒井さんからDMが来て(笑)。

酒井:フォローされたお礼を思わず夜中にDMしちゃって(笑)。そしたら、沖本さんから即返信が来て「私たち、夜更かしコンビですね」なんて言ってくださって、楽しくやり取りしたことを覚えています。

『りんごかもしれない』『たまごのはなし』など、素敵な作品を手掛けられてきた沖本さんがコンノさんに声をかけてくださったことは、「他の編集者に取られるかも」どころか、「ものすごい強力な仲間が増えた!」という喜ばしい出来事なので、ここまでやってきてよかったと思いました。

コンノ:沖本さんはヒット作を連発されている大先輩なのに、威圧感がゼロ。「もっとこうしたほうが面白くないですか?」という意見もフラットに聞いてくれて、みんなで気軽に意見を言い合える空気を作ってくれるので、僕もリラックスできています。

酒井:沖本さんはとても慎重で準備を徹底される方。私はどちらかというと「心意気と勢い」で動いてしまうタイプなので、日々勉強させてもらっています(笑)。

沖本:著者と編集者が気合を入れてゼロイチ(0→1)の初期作品を作り、それが成功すると、その後もずっとよい関係性が続いていくんですよね。

編集者としての酒井さんの情熱と、コンノさんの柔軟な作家マインドが合わさることで、とてもいい循環が生まれていると感じています。そんなすてきなチームの中に、私は後から「入れてもらった」という感覚ですね。

cocreco読み聞かせでも小学校1年生から6年生まで盛り上がると話題の絵本『どっち?』。

「木彫り」はツールのひとつ。惚れ込んだのは「マインド」そのもの

──編集者のお二人は、作家としてのコンノさんのポテンシャルや魅力をどう捉え、引き出そうとされているのでしょうか。

沖本:私は、コンノさんの根底にある「マインド」や「考え方」に惹かれています。「絵本を作りましょう」とお声がけしたのも、「作品はコミュニケーションツール」「自分をすごいと思ってもらうより、人が喜ぶきっかけを作りたい」と言うコンノさんの言葉がいいなと思ったから。

コンノさんみたいな考え方の人が、生き生きと絵本作りをされると、これからの子どもたちに絶対プラスの影響があると思ったんです。

酒井:糸井重里さんがコンノさんのX(旧Twitter)をフォローされた理由を聞いたときも、「次に何を出してくるかが見たくなったから」とおっしゃっていて。技法やクオリティはもちろんですが、やっぱり惹きつけられるのはコンノさんという「人」や「アイディア」なのかなと思いました。

コンノ:僕自身、自分の中では「木彫り」は表現ツールのひとつでしかないと思っています。自分にとって一番大切なのは、「ものづくりを通じて人と関わること」や「誰かと一緒に楽しむコミュニケーション」。だから、技法そのものというより、その奥にある想いやアイディアの部分が受け入れられたことを嬉しく思いました。

cocreco糸井重里さんの興奮が伝わる推薦コメント。(『どっち?』より)

沖本:先日、コンノさんが「木彫り以外の作品も作っていきたい」とLINEでメッセージを送ってくださったとき、私はめちゃくちゃ嬉しかったんです!

『まーるちゃん ふ~』を作ったことで、コンノさんの創造性の枠が広がって、木彫りに縛られず、ご自身のマインドを軸にして、これからどんどん新しい表現に挑戦していかれるんだろうなと。

絵本作家で、美術家、デザイナーでもあるブルーノ・ムナーリのように、自由な発想で人を喜ばせるすごい絵本を生み出してくれるんじゃないかと、わくわくしました。

コンノ:「本物そっくりな木彫りを作り続けなければいけない」という固定観念を捨てて、「自分のマインドや面白がる力があれば、何を使っても表現になるんだ」と思わせてくれたのは、間違いなくこのお二人と作品を作れたおかげですね。

否定しない、面倒くさがらない! チームで面白さをドライブさせる

──現在は、酒井さん、沖本さんのおふたりがコンノさんの編集担当ですが、すっかり3人のチームのようになっていますね。

酒井:そうなんです。私は沖本さんの仕事ぶりを横で見せていただいていて、「楽しんでやること」と「提案を掘り下げること」を徹底して学ぶようになりました。

一見大変に見える提案も、それはその人が真剣に作品を考え抜いたからこそ出てくる「核」なんですよね。沖本さんはそれをしっかり掬いあげる。

コンノ:「やりましょ、やりましょ!」が沖本さんの口グセですよね(笑)。沖本さんは、「これは手間がかかって遠回りだな」ということも一度やってみるんですよ。

コツコツと方法を探しているうちに、意外にも突破口が開けてどんどん楽しい方向に変わっていく。酒井さんも沖本さんに出会ってから、変わったなと感じていました。

沖本:私は根が「怯え系」なので、普通に生きていると、世の中の変化の速度に圧倒されて、どんどん暗くなっちゃうんです。

だからこそ、本当に惚れ込んだ人や気の合う人とチームを組んで、すてきなものを作ることで、自分が楽しくなるように環境整備をしているんです(笑)。

子どもの本の世界には、ユニークで魅力的な人たちが、面白い作品を作って生きていける素晴らしい「エコシステム」がある。そこをキラキラと輝かせたまま次の世代に繫ぎたいから、コンノさんのような方に絵本の世界でのびのび仕事をしてほしいし、面倒なこともやりたくなってしまうんです。

コンノ:打ち合わせやプロモーションも、全員が「やらされている感」ゼロで前のめりなんですよね。ピリピリした環境だと良い作品は生まれないと思うので、このチームで楽しく作れるのが本当にありがたいです。

cocreco撮影/日下部真紀

効率化優先の日常と思い切ったクリエーション

──仕事との向き合い方や、心身の健康を保つための工夫についても教えてください。

コンノ:僕は今まで、得意なことも苦手なことも全部120%でやろうとして一度「うつ病」を経験しました。

安定を求めた公務員なのにメンタルが不安定になるのは本末転倒だなと気づいて、「苦手なことは60~70%でいい」「悩む時間に手を動かそう」と思えるようになりました。

沖本:コンノさんは制作に集中するため、作業環境や日常の効率化も徹底されていますよね。

コンノ:毎日の洋服選びや、ものを探す時間で悩むのは時間とエネルギーがもったいないなと。僕が毎日、白いTシャツを着ているのも「制服化」の一環なんです。

身長やスタイルに左右されず、作品を持ったときに背景(キャンバス)になってくれるし、汚れてもすぐ着替えられるようにしています。

cocreco撮影/日下部真紀

酒井:クリエーション以外のリソースは極力使わないように日常を整えているのだなと思います。

ただ、逆に私はムダなことも結構好きで。今でもSuicaをスマホに入れずにカードを使っているので、ときどきチャージが切れておふたりをお待たせしてしまうことも。

沖本:私もいまだにSuicaはカードなので、なんならふたりでコンノさんをお待たせしてしまうこともありますね(笑)。

酒井:道にも迷いやすく、コンノさんに「こっちですよ!」と助けられることも。

コンノ:僕は、何かを選ぶのに効率や理由を重視しているので、おふたりには「なんでいまだにそれ?」と驚くこともあります。おふたりが「キボリノコンノ」のマネジメントをしてくれて、僕がおふたりのマネジメントをしているのかな、と思うような瞬間もあって……それが良いバランスなのかなと思っています(笑)。

木彫りや絵本の枠も超えて、誰も見たことのない世界へ

──最後に、このチームで今後目指していきたい未来について教えてください。

コンノ:僕はやったことがないことをどんどんやって、誰も見たことのない世界を作っていきたいです。自分の中で枠を制限せず、進んだ先で見えてくるものを楽しんでいきたいと思っています。

沖本:コンノさんみたいな人が生き生きと新しい可能性をどんどん拓いてくれると、それを見ている子どもたちも「こんな生き方や、作り方ができるんだ!」と思えるはず。子どもたちの可能性を広げてくれる存在として、元気いっぱい進んでいってほしいですね。

酒井:私はコンノさんと出会った最初から、「絶対にこの人をスターにするぞ!」という強い気持ちを持っています。だから、『どっち?』のときは編集者と作家ができるプロモーションは全部やろうと決めて働きかけ、その結果こうして沖本さんとも出会い、チームになることができました。

だから私は初志貫徹で、引き続き「コンノさんを絵本の世界のスターにする」が目標です。コンノさんの作品やマインドがあれば絶対にできると信じているので、これからも全力でサポートしていきます。

撮影/日下部真紀 ヘアメイク/本多遥香(ROI) 取材・文/小川聖子

11月18日(水)~12月21日(月)福岡県北九州市で「キボリノコンノの絵本の世界展」が開催。

『まーるちゃん ふ~』や、『どっち?』から、実物の木彫り作品や、絵本のラフなどが多数展示されます。

cocrecoキボリノコンノの絵本の世界展
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