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【50代の更年期とキャリア】ホットフラッシュを好機に変えた、今関康子さんの生き方

  • 2026.10.30

閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。
英語では更年期を「The change of life」と表現します。
その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか—。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。

今回お話を伺ったのは・・・
今関康子さん
1970年生まれ。さまざまなモダンデザインに触れ、住空間における花と植物の大切さ、人への影響力に改めて気づき、東京の桜新町にアトリエを構え、花と植物にかかわる提案を行っている。SENSES https://sensesflower.jp/

更年期は未知との遭遇

「ホットフラッシュもありました。単に暑いのではなくて、夏でもないのに、仕事しながら急に火照って全身の毛穴から汗が止まらない。強かったのは1年くらいだったと思います。今は落ち着きました」

この夏最初の蒸し暑い昼下がりにもかかわらず、涼しげな雰囲気をまとう今関康子さん、いわゆる更年期症状について話してくれた。

「これかぁ、きたな、と思いました。先輩方から聞いていた更年期の体調の変化は、これまでに経験したことのない驚きの連続で……。でも決して辛いというものではなく、おもしろいというか、なんていうか……未知との遭遇でした(笑)。新しい体と出合っていく体験ですね」

この連載は5年ほどやってきたが、康子さんほどポジティブに体調の変化を受け取っている方ははじめてかもしれない。

「気持ちが沈んでいる日も、朝起きるのが辛い日もありますよ。でも、それが更年期だからなのか他の理由なのかわからなくて。日々の暮らしで不調なときもあるのは自然なことだと思っていたのでホットフラッシュにしても、それによって日常が困難になることはなかったので、私の更年期の体調変化は穏やかなのかもしれません」

「未知との遭遇」と言える体調でも、落ち込み気味のときであっても、「いざ起きて体を動かし始めると自然とリズムが生まれて、いつの間にか集中して夢中になっている」という。

「自分で事業をしているせいか、悩んだり迷うことが多いです。でも迷いや困難は新たな道を探るための『可能性』という言葉に置き換えられるんじゃないかと」

「花と大地と人と。」は無農薬栽培の花のオンライン専門店。人と大地を再生するという思いを込めて、タグはシードペイパー(タグの中には種が。土の上に置いて水をやると発芽する)にした。

半導体メーカー営業職からの転身

新卒から勤務してきた外資系半導体メーカーを早期退職したのが30代後半。

「半導体の営業の仕事はとても充実していました。すごくエネルギッシュに働いていたんです。でも次第に、自分の情熱を企業の利益に捧げ続けるのではなく、まだ何かわからないけど、自分の手を動かしてできるものを直接、人に届けたいという思いが湧いてきていました」

その気持ちは実際に行動へ。康子さんはメーカーに勤務しながら、おもに人道支援を行なう国際NGOのボランティアや、フラワースクールで花の基礎を学んだりもした。

「退職後はいろいろな選択肢を試す構想はありましたが、最終的にNGOと花の仕事に絞られていきました。そこでNGOの先輩に相談したんです」

その先輩は、「若い体力があるうちにできることをして、NGOはどういう形であれ何歳になっても関わることはできるから、その後でもいいのではないか」とアドバイスしてくれた。

「NGOの関わり方はさまざま。確かにその通りだなと思って、花のほうへシフトしました」
そして、いくつかのフラワーショップで働いた後に、45歳で独立した。しかし、まだ花一本というのではなく、20代の頃からリスペクトしてきたデンマークのオーディオブランドで働きながらの二足の草鞋である。

「働いていたお店では素晴らしい経験をさせていただきました。たとえば、クライアントのご自宅にオーディオを設置しに伺うと、そのプライベートな生活空間は快適に設計されている。どのような空間でどのように過ごすのか。その積み重ねが、その人らしい生き方を形づくっていくのだと感じました。そして、空間を整える最後のピースが植物なのではないかとも感じました。植物の静かな佇まいは空間と心を豊かにし、人は植物と共に生きているのだと改めて気づきました」
8年間、オーディオブランドに務めながら、休日には生け込みをし、ギフト用の花を束ねた。

「兼業を大変だと感じることもありましたが、その両輪がいいバランスになっていい影響を与え合って、今の仕事につながっているのかもしれません」
康子さんのチェンジ オブ ライフの伏線は着々と鮮やかに引かれていった。

うまくいってもうまくいかなくても

「結婚していたら、出産はしていたと思います。だから40代までは、このまま出産をしない人生でいいのかと悔やむというか、悩むというのか、気にしていました。それが50代になると気持ちがすっきりして。出産のチャンスがなくなったというよりも、自由になったんですね。結婚もしてもいいし、しなくてもいいという自由な選択をしてもいいのではないかと」

50代に入った頃、オーディオブランドの仕事では2店目の新店舗を任され、うまくいったので、康子さんは「今が辞めどき」と決意。

「いいタイミングがあれば、花の仕事を自分の力でやってみたいと思っていました。今が新たなチャレンジのタイミングなのではないかと。花の仕事一本でやっていく決意をしました」

いつかは……と思いながらも、なかなか踏み切れないでいた決断だった。

「当然不安もたくさんありました。花の仕事も請け負っていましたが、副業のような感じだったので、果たして自分ひとりでやっていけるのかと。でも会社人生で考えた場合、60歳が定年だとすると50歳からはあと10年しか働けない。今、やりたいことを始めないといつやるの?とも思いましたね。花一本で、うまくいってもいかなくても、やってみようという気持ちが勝ったんです」

現在55歳の康子さんは、周りの人たちにも、50代はとても楽しいと伝えている。

「これまでの人生とは違う、新しいステージ。自分で選び、その選択に責任を持ちながら、自分らしく生きていける年代です。同年代の友人にも、50代で仕事を辞めて自分で事業を始めた人がいます。迷っている人がいらしたら、ぜひ挑戦してほしい。更年期と独立が関係あるかないかと問われたら、私はあるんじゃないかなと思います」

花と大地と人をつなぐ道へ

そして、康子さんの花の仕事での挑戦が始まった。

「ずっとモヤモヤしていたのは、植物残渣と観賞用植物の栽培方法について。花って、いわゆるゴミがけっこう出るんです。幸福のための花が、なぜ環境に負担を生み続けているのか。食べ物は無農薬有機栽培のものが選べるのに、花はどうなんだろうかと。大地はつながっているのだから、影響はあると思ったんです」

そこで康子さんは植物残渣の堆肥化と、無農薬栽培の花を扱うことを決める。

「大地から生まれたものを大地に戻す。最もシンプルな方法を選びました。大地が痩せているといわれる中、花や植物残渣を堆肥として土に戻すことで大地は少しずつ豊かになり、植物廃棄物も減らせるのではないか。そして豊かになった大地から次の恵みを咲かせて届ける循環の仕組みを作り、花も大地も人も再生できる花のあり方を探したいと思って。東京都の補助を受けて、植物残渣の堆肥化の実証実験をしました。結果も良好で、肥沃な堆肥ができました」

うれしい副産物も。
「農薬を使って育った花の残渣も堆肥にすれば農薬成分が分解されることもわかったんです」

康子さんは同時に、無農薬栽培の花農家と連携。オンラインショップでの販売を始めた。
「今は世界中に素晴らしいフラワーアーティストが沢山いらっしゃいます。だから、私は自分ができることで花業界に貢献できたらと思っています」

康子さんの挑戦を助けるのは、周囲の人との関係だという。

「友人たちと深い話もしますが、日常の暮らしの中での何気ない会話に支えられています。花の事業も自分ひとりで抱え込まず、支え合える仲間と進められたらと、今は思っています」

50代になって、これまでの人生と違うステージに立った康子さんだが、最近、母を亡くした。

「今は東京と実家の行き来も増えて。姉の力も借りながら、父とも対話を重ねて、これから実家をどうしていくのか考える時期に来ています。人生の次の『チェンジ・オブ・ライフ』が、やってきそうです」

ハルシャギクを楚々と生ける康子さん。
「無農薬の農家さんは素敵な女性が多いんですよ」。対面で会えるということと、エネルギーロスの観点からもなるべく近場の農園と付き合っている。

〜私を支えるもの〜

音・デザイン・フィロソフィー・歴史、すべてをリスペクトしている「バング& オルフセン」のスピーカーは自身も愛用している。
「音楽は生活の一部で、毎朝、音楽をかけるという小さなリチュアル(儀式)から、私の一日が始まります」

「特定の作家を……ということでもなくて、花器として使えるものを求めることが多いですね」。
作家の手仕事は康子さんの暮らしを豊かにし、ほっとさせてくれる。その制作姿勢や器の佇まいは花の仕事にも大きな影響を与えてくれるのだそう。

「心地よい空間で過ごすことが好きです」。自宅も、アトリエと似たような雰囲気だという。無機質な色を基調に、自然素材の奥行きと色とりどりの花が、康子さんにとっての、居心地の良さを生み出している。

聞き手:石田紀佳さん
植物文化研究家。旧池尻中学校を活用してつくられた複合施設「HOME/WORK VILLAGE」の植栽や屋上菜園「ART FARMIKEJIRI」を運営。近著に『エコロジカルスキンケア 一人ひとりが小さな地球』(薫風堂)草木と手仕事Instagram:
@kusaki_to_teshigoto

撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里

※大人のおしゃれ手帖2026年10月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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