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韓国映画の巨匠たちが釜山国際映画祭に集結!『もしもの愛』イ・チャンドン、ヨン・サンホ、ナ・ホンジンらトークの模様を総まとめ

  • 2026.10.24

10月6日から15日までの10日間にわたり開催された第31回釜山国際映画祭。今年も多種多様な珠玉の作品たちが集結するなか、韓国の巨匠たちのカムバックの場ともなった。今回は監督と主要キャストが集結したオープントークおよびGVなどの模様を、作品紹介と共にお届けしよう。

【写真を見る】『もしもの愛』をはじめとしたオープントークの様子をプレイバック!

『もしもの愛』オープントークで明かされたイ・チャンドン監督の想い

【写真を見る】『もしもの愛』をはじめとしたオープントークの様子をプレイバック! [c]BIFF2026
【写真を見る】『もしもの愛』をはじめとしたオープントークの様子をプレイバック! [c]BIFF2026

日本でも一部劇場公開中の『もしもの愛』(10月23日より公開中、11月6日Netflix配信スタート)は、巨匠イ・チャンドン監督が『バーニング 劇場版』(18)以来8年ぶりに撮り上げた新作であり、9月に開催されたヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)の栄光を勝ち取った。労働運動で疲弊し深く傷ついたホソク(ソル・ギョング)とその妻ミオク(チョン・ドヨン)が、ドキュメンタリー監督イェジ(チョ・ヨジョン)の作品の題材になり、その夫であるサンウ(チョ・インソン)とも交流が始まることで生じる4者の葛藤と愛を描いている。

2組の夫婦の葛藤と愛を描く『もしもの愛』 [c]Netflix
2組の夫婦の葛藤と愛を描く『もしもの愛』 [c]Netflix

オープントークではまず、イ・チャンドン監督が本作を構想するきっかけとなった、十数年前の韓国で起きたリストラと集団ストライキ、そして大規模な鎮圧について語った。監督にとって衝撃的だったのは、「労働者たちが解雇されたこと以上に、国民が労働者の味方をしなかったこと」だったという。「生存者と死者とを分けるほど深い隔たりがあり、さらに同じく解雇された者同士まで互いを憎み合う」という集団的なトラウマは、当事者たちだけの問題ではない。そう考えたイ・チャンドン監督は、そう考えた監督は事件の映画化に向けて動き始めたものの、「私が彼ら労働者の話を語る資格があるのか?」と自問し、制作を中断してしまった。その後長い時間が経ち、改めて「解雇された労働者の苦しみをただ“他者の苦しみ”として語るのではなく、映画監督の私が、彼らをどのような態度と倫理観でみつめられるのかという“私自身の物語”として率直に話すなら、撮れるかもしれない」と思い直し、『バーニング 劇場版』よりともに仕事をしている脚本家のオ・ジョンミ氏に話を持ちかけた。

息ピッタリのかけ合いを見せたソル・ギョングとチョン・ドヨン [c]BIFF2026
息ピッタリのかけ合いを見せたソル・ギョングとチョン・ドヨン [c]BIFF2026

監督の真摯な想いに会場が厳粛な雰囲気に包まれる一方、俳優たちにマイクが渡されると一転、チームの和気あいあいとした様子が伝わってきた。特にソル・ギョングとチョン・ドヨンは、ともにイ・チャンドン監督のプロデュース作『君の誕生日』(20)や短編で共演していることもあり、気心が知れているからこそのやり取りを繰り広げた。チョン・ドヨンは「現場が楽しかったのは、おそらくチョ・インソンさんとチョ・ヨジョンさんのおかげですね。ソル・ギョングさんは少しぶっきらぼうだし、私が知る限り最も自己中心的な性格の1人なので、お互いに気遣いも配慮もしませんでした。でもお2人が加わってからは、優しく温かい雰囲気になりました。撮影が終わってお2人がソウルに帰ってしまうと、我々無愛想な者だけが残ってしまうんです」と“攻撃”。すかさず反論しようとマイクを手にしたソル・ギョングを「(マイクを)下ろして〜!」とやんわり諫め、全員が大笑いする一幕も。こうした会話にイ・チャンドン監督も「皆さんのおかげで、何だかこの映画がおもしろいものなんじゃないかと思えてきました」と、冗談を交えつつ笑顔を見せた。

チョ・インソンとチョ・ヨジョンの仲の良さも印象的だった [c]BIFF2026
チョ・インソンとチョ・ヨジョンの仲の良さも印象的だった [c]BIFF2026

精力的な作家の代表格、ヨン・サンホ監督の『PARADISE LOST(英題)』

ドラマに映画にと精力的に作品を発表し続けるヨン・サンホ監督。今回上映された『PARADISE LOST』は、『顔 -かお-』(公開中)と同様に低予算で製作された作品だ。韓国では10月21日に劇場公開され、すでに118か国への配給も決まっている。キャンピングスクールバス失踪事件で息子ソヌを失ったシングルマザーのソヨン(キム・ヒョンジュ)。被害者のために作られた「楽園の子どもたち」というAIプログラムで喪失感を埋めていた彼女のもとに、9年後、ソヌ(ペ・ヒョンソン)が生還する。そこから思いも寄らない事件が巻き起こるサイコスリラーだ。

息子を失ったシングルマザーに降りかかる事件を描く『 PARADISE LOST』 [c]CJ ENM
息子を失ったシングルマザーに降りかかる事件を描く『 PARADISE LOST』 [c]CJ ENM

ヨン・サンホ監督は記者会見で、母親が書いた3ページほどの物語をもとに小説「ブラック・インフェルノ」を執筆し、2020年に脚本化。その後、さらに改稿を重ねて本作を完成させたという製作過程を明かした。そして「『 ブラック・インフェルノ』の舞台はカナダとアメリカの国境地域の架空都市にある黒い崖でしたが、映画では炭鉱になりました。 小説では大自然のなかの深い闇と人間の深淵を対比させて、大自然さえも太刀打ちできない人間の巨大な深淵を描いたのですが、『PARADISE LOST』ではAI時代において人間的なものとは何かを問いました」と語った。

『실낙원』記者会見の模様 撮影/荒井南
『실낙원』記者会見の模様 撮影/荒井南

特に才気走る演技を見せたソヨン役のキム・ヒョンジュは、同様に母性愛の葛藤を扱ったヨン・サンホ監督の作品『JUNG_E/ジョンイ』(23)でも主演を務めている。「ヨン・サンホ監督も私も、ともに母性に関心と疑問が高いんです。人間の最も根本的なことですよね。そういうところで馬が合うんだと思います」と、監督への信頼を口にした。その後行われたGVでは、ヨン・サンホ監督は先ほど語った製作過程について「旧正月や秋夕に帰るたび、私の母がいつも『脚本を書くのは大変なんじゃないの?』と聞くので、『韓国語がわかって物語を創作できるなら、誰だって書けるよ』と答えたら、(物語を)渡してきたんです」と、家族とのエピソードを付け加えた。朝早くからの上映とGVにもかかわらず、情熱的な観客たちからは映画とキャラクターに対する深い質問が多く投げかけられ、キム・ヒョンジュが感涙する場面もあった。

最新作で常連俳優が感じた、ホン・サンス監督の変化

『Nowhere to Lay My Eyes』野外舞台挨拶に参加したクォン・ヘヒョとパク・ミソ [c]BIFF2026
『Nowhere to Lay My Eyes』野外舞台挨拶に参加したクォン・ヘヒョとパク・ミソ [c]BIFF2026

ヨン・サンホ監督にも増して多作な巨匠と言えば、ホン・サンス監督だろう。『Nowhere to Lay My Eyes(英題)』は、彼の35作目となる最新作で、第79回ロカルノ映画祭では監督賞と俳優賞をダブル受賞した。両親の離婚後、疎遠になっていた母を訪ねるため、弟とともに済州島を訪れたサンヒ(キム・ミニ)。母の再婚相手であるドキュメンタリー監督(クォン・ヘヒョ)や、その娘(パク・ミソ)らと気まずい時間を過ごしながらも、ささやかな喜びを見いだしていく物語だ。GVには、ホン・サンス監督作品の常連俳優であるクォン・ヘヒョとパク・ミソが揃って登場。クォン・ヘヒョは、監督が率いる個人映画会社「チョンウォン社」ならではの独特な映画製作の舞台裏を明かした。

久々のキム・ミニ主演となる『Nowhere to Lay My Eyes』 [c]Jeonwonsa Film Co.
久々のキム・ミニ主演となる『Nowhere to Lay My Eyes』 [c]Jeonwonsa Film Co.

「ホン・サンス監督はまず『いつからいつまで、どこで映画を撮るか』を決めます。そして、その場所にどんな俳優がいれば、どんなおもしろい物語が生まれるかを考え、撮影スケジュールとロケ地が決まった段階で『スケジュールは空いている?』と電話がかかってくるのです。このとき、私たち俳優はどんな話なのか尋ねません。そして毎朝、その日の分のシナリオを撮影の1時間ほど前に受け取り、必死に覚えます」。そのため、俳優たちも完成した映画を劇場で観て初めて「こういう映画だったのか」と驚くのだそうだ。さらに、長年タッグを組んできた盟友として、「なぜかわかりませんが、だんだんホン・サンス監督はシニカルさよりも人の心を打つ作品を作るようになったようですね」と、監督の作風の変化について感慨深げに語った。

韓国ではすで複数鑑賞者も!ナ・ホンジン監督9年ぶりの監督復帰作『HOPE』

チョ・インソン扮するソンギ [c]2026 PLUS M ENTERTAINMENT, FORGED FILMS CO LTD, AND NA HONG-JIN. ALL RIGHTS RESERVED.
チョ・インソン扮するソンギ [c]2026 PLUS M ENTERTAINMENT, FORGED FILMS CO LTD, AND NA HONG-JIN. ALL RIGHTS RESERVED.

そして、イ・チャンドン監督と同じく、久々に新作を発表したナ・ホンジン監督の『HOPE(原題)』も、「KOREAN CINEMA TODAY-PANORAMA-」部門で上映された。韓国では7月より劇場公開されており、作品の解釈や評価をめぐってさまざまな意見が飛び交うなど、国民的な注目を集めている。のどかな港町ホポが、ある日突然、謎の生命体に襲撃される。町に暮らす警察署長ボムソク(ファン・ジョンミン)や、彼のはとこであるソンギ(チョ・インソン)、ソンエ巡査(チョン・ホヨン)らが繰り広げる死闘を描いた作品だ。GVにはナ・ホンジン監督をはじめ、チョ・インソン、大工の青年ヤンベを演じたウム・ムンソクが登壇した。

平和な村に突如異変が起こる… [c]2026 PLUS M ENTERTAINMENT, FORGED FILMS CO LTD, AND NA HONG-JIN. ALL RIGHTS RESERVED.
平和な村に突如異変が起こる… [c]2026 PLUS M ENTERTAINMENT, FORGED FILMS CO LTD, AND NA HONG-JIN. ALL RIGHTS RESERVED.

MCを置かずにスタートしたGVでは、ナ・ホンジン監督が自ら進行役を買って出た。本作を構想するきっかけとなったのは、2016年頃にアメリカでNetflixの関係者と会ったこと。当時は韓国映画界でもNetflixとの共同製作が始まっていた時期で、監督は「本当に映画館で観たい映画を作ろうと、それまで準備していた作品を整理し、本作から始めようと考えた」と振り返った。また、当初の構想は完成版よりも上映時間が長くなるもので、シリーズ化も検討したという。しかし、最終的には「この映画は十分完結している」と判断し、現在の形に落ち着いたそうだ。

チョ・インソンの起用については、「私が業界で仲良くしているのがキム・ユンソク先輩とリュ・スンワン監督なんですが、会えばいつも大騒ぎでチョ・インソンさんの話ばかりするんですよ。話題の40〜50%は彼の話。一体どんな方なのか?と気になって作品を拝見して、『HOPE』に出演をお願いすればインソンさんが今まで見せてこなかった部分を引き出せるかもしれないと思いました。インソンさんも役への渇望があったのかもしれません、すぐに『やります』とお返事してくれました」と、意外な交友関係を交えながら明かした。

『HOPE』GVでは複数鑑賞者からの熱意ある質問が飛び交った 撮影/荒井南
『HOPE』GVでは複数鑑賞者からの熱意ある質問が飛び交った 撮影/荒井南

そんなチョ・インソンは、『もしもの愛』も含めてGVやオープントークに精力的に参加。積極的に話を回して場を盛り上げるなど、サービス精神旺盛な姿を見せた。ソンギを演じるうえで最も重要だったのは、「緊張感」だったという。「緊張感を保つために、そう感じさせるような荒い呼吸をし続けなければいけませんでした。監督も、ただ歩いているだけのシーンでも同じ緊張感を維持するような呼吸でいて欲しいと仰っていました。でもずっと続けていると頭が痛くなったり、ぼんやりしてしまうこともあって、監督もそれを見逃さずに常にチェックしてくれました。私たち俳優たちも、互いに強く意識していました。アクションは行為なのでとにかくやるのみですが、その行間の緊張感を呼吸で埋めようと努力した記憶がありますね」と、緊張感を表現するための苦労や、監督や共演者たちと支え合いながら臨んだ撮影現場の様子を振り返った。

さらにナ・ホンジン監督は、俳優陣とスタッフの努力にも言及した。「『HOPE』のスタッフは、ほとんど私が映画監督になりたての頃から仕事をしてきた方々ばかりです。久しぶりの撮影でしたが、スムーズで楽しくやり遂げることができました。そして俳優の皆さんにも、感謝せずにはいられません。本当にすばらししかったです。毎日感謝しても足りないほどの熱意を持って撮影に臨んでくださいました」と締めくくった。かつては鬼気迫るストイックさで有名だったナ・ホンジン監督が、俳優とスタッフへ率直な感謝を伝え、労ったことが印象的だった。

取材・文/荒井 南

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