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桃が示唆する意味と知覚のずれ

  • 2026.10.23

Alicja Kwade

桃が示唆する意味と知覚のずれ

Alicja Kwade
Top photo:Alicja Kwade, Tunnel-Tell (Ceci Sera Persicum) (detail), 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery

ベルリンを拠点に活動するアーティスト Alicja Kwadeによる個展「La Pêche miraculeuse」が、Pace Galleryにて10月29日(木)から12月25日(金)まで開催される。

Tunnel Tell (Ceci Sera Persicum)© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery

ポーランド・カトヴィツェに生まれたAlicja Kwadeは、彫刻やインスタレーション、写真、映像など多様な活動を通して、知覚や時間、哲学をめぐる既存の概念を問い直す。

石、鏡、ランプ、時計といった日常的な物を用いながら、現実を織り成すさまざまな事柄に深く思いを巡らせる彼女の制作の背景にあるのは、物理学や化学への関心。
素材が持つ錬金術的な性質を用いて、惑星系や分子構造、宇宙の起源など、私たちが世界を理解するための体系の本質を浮かび上がらせる。
その実践を通して、惑星系、分子構造、数学的な枠組みを考察し、物理的・形而上学的な領域の双方を深く掘り下げている。

Alicja Kwade,PersicumAdustum, 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery

本展では、大小さまざまな彫刻を配したインスタレーションや紙の作品が展示され、物体の間に広がる、目には見えない空間へと来場者を誘う。
これまでの制作と同様に、現実と向き合い五感では捉えきれないものを探究したKwade。
今回は物と物の間に生じる移り変わり、出現と消失の瞬間、そして私たちが世界を理解する手立てに焦点を当て、知覚と意味のわずかな「ずれ」を巧みに操りながら、さりげないユーモアを吹き込んでいる。

こうした「ずれ」は、Konrad Witzの絵画「The Miraculous Draught of Fishes(奇跡の漁り)」に由来する展覧会タイトルにも表れている。
何の変哲もない風景は、現実の場所と時間を超越した物語が交錯するかのように、ここでは奇跡の舞台となる。

そして文脈をずらす手法は言語の領域でも展開され、フランス語の「pêche」が持つ「漁」と「桃」という2つの意味を介して、「獲物を捕まえる」という意味が「自分が捕らえられてしまう」という感覚に転換する。

Alicja Kwade,Ad Idem Aliter V, 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery

「PersicumMultiplex」と「PersicumAdustum」では、複数の溝が刻まれた桃や、火の消えたタバコが突き刺さった桃が、美しさと嫌悪感の狭間を行き来する。

「Ad Idem Aliter」は、同じ石をガラスや大理石など異なる素材で表現し、鏡によって隔てられながらも結びつけられていく彫刻群。
本作は空間の中で要素を1つずつ加えながら発展し、最終的には「六本木アートナイト」期間中に、森美術館の前で完成形に至る。
「同じもの、別様に」を意味するタイトルの通り、物体は姿を変えても始まりの物体との繋がりを保ち、実体とイメージ、変容の境界を曖昧にしていく。

「Tunnel-Tell (Ceci Sera)」と「Tunnel-Tell (Ceci Sera Persicum)」では、鏡面仕上げを施したステンレス管が花崗岩を貫く。
管の内部に広がる空洞そのものが作品の本質的な構成要素となり、鑑賞者を写し出すその視覚効果はブラックホールを思わせる。
後者の作品では、世界や知覚の象徴である桃が渦へと引き込まれる。

さらに「Strange Attractor」シリーズでは、巨石を繋ぐ漏斗状のステンレスが砂時計を想起させ、作品のフォルムに内包されたプロセスは内部で時間が操作され、引き伸ばされていくような感覚にも通じる。

Alicja Kwade,Tunnel-Tell (Ceci SeraPersicum), 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery
Alicja Kwade,Tunnel-Tell (Ceci Sera), 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery
Alicja Kwade,Tunnel-Tell (Ceci SeraPersicum) (detail), 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery

時間が可変性のある素材のように立ち現れるKwadeの作品では、石がイメージとなり、時間が空間的なフォルムを形作り、そして桃が見慣れない身体へと変容する。
物と物の間にあるものは目に見えないまま、私たちがそれをどう見るかを決定づけていることとなる。

Alicja Kwade,Aperture Ø508 mm | 5,088Hours | Seven Months, 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery
Alicja Kwade,Strange Attractor, 2026© Alicja Kwade,courtesy Pace Gallery

桃や石は輪郭をほどき、別の姿を見せ始める。
見慣れた世界に潜む、知覚の「ずれ」を見つめて。



PACE GALLERY
www.pacegallery.com/


【Alicja Kwade “La Pêche miraculeuse”】
DATE:10月29日(木)〜12月25日(金)
※月曜休館
TIME:11:00am〜8:00pm
※火曜〜土曜の7:00pm〜8:00pm、日曜の6:00pm〜8:00pmはアポイントメント制
PLACE:Pace Gallery
ADDRESS:東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA 1・2階
ADMISSION FREE
WEBSITE:www.pacegallery.com/exhibitions/alicja-kwade-la-peche-miraculeuse/

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