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50代は「お金で時間を買う」、60代は「時間を楽しむ」。黒部移住で変わった、60代ひとり暮らしの実感

  • 2026.10.15

50代は「お金で時間を買う」、60代は「時間を楽しむ」。黒部移住で変わった、60代ひとり暮らしの実感

年金だけでは暮らせそうにない……それなら毎月10万円の収入を生み出す仕組みをつくる! そして住み慣れた大阪を離れ、自然豊かな黒部へ移住。60代ひとり暮らしの中道あんさんは、自分らしい暮らしを楽しみながら、新しいことに挑戦中です。今回のテーマは、お金では変えない贅沢!

自分の暮らしが少しずつ整っていくような

黒部に移住してから、暮らしの中に「つくる」ことが増えました。
その一つが畑です。

大阪にいた頃から花が好きで、フラワーアレンジメントを習ったり、家に花を飾ったりしていました。でも、花を思う存分飾ろうと思えば、4,000〜5,000円はかかります。そこで、自宅の花壇に切り花用の花を育てていたこともありました。

ところが、黒部のわが家の近くには、気軽に立ち寄れる花屋さんがありません。だったら、畑の空きスペースで花を栽培しょう。7月、借りた畑の余ったスペースにコスモスの種を蒔きました。

最初はそれほど芽が出ず、「こんなものか」と思っていたのですが、お盆を過ぎた頃から急成長。茎は500円玉ほどの太さになり、どんどん繁殖エリアを広げていきます。隣の畑にまで伸びていきそうで、「ちょっと植えすぎたかも」と困るほどになりました。

けれど、おかげで花が咲いてからは、家の中のあちらこちらにコスモスを飾ることができました。こんなに、コスモスに囲まれたのは生まれてはじめてです。

畑を始めて知ったこともたくさんあります。

紫蘇に花が咲き、そのあとに実がなることも知りませんでした。
「へぇ、こんなふうになるんだ」最初はそれだけでした。

もうそろそろ紫蘇も終わりかなと思っていた頃、隣の畑の人が何やら紫蘇から摘んでいます。聞いてみると、紫蘇の実を収穫しているとのこと。佃煮などにして食べられると教えてもらいました。

さっそく私も少し収穫して、塩漬けにしてみました。

炊きたてのご飯にのせて食べると、ほんのり紫蘇の香りがします。市販のふりかけのような強い味ではありません。でも、自分で育てたものを最後までいただいていると思うと、それだけで満足でした。大根の間引き菜も捨てずに佃煮に。気づけば、ご飯のお供を買うことが減っています。

「余すところなくいただく」そんなことをしていると、食べ物だけでなく、自分の暮らしまで少しずつ整っていくような気がします。

バジルも想像以上でした。

どれくらい育つのか分からず植えたところ、畑の一角がバジルの香りに包まれるほどに成長。あまりにたくさんできたので、初めてバジルソースを作ってみました。

ところが、これが美味しくない。材料の配合を変えたり、作り方を変えたり、何度も試作しました。最近になって、ようやく「これなら美味しい」と思える味になりました。

定番のジェノベーゼパスタもいいのですが、私がすっかりハマったのは、トマトとチーズにバジルソースを合わせたトーストサンドです。

わが家にはオーブントースターがありません。パンをどう焼くのか。チーズをいい具合に溶かすにはどうすればいいのか。そんなことまで試しているうちに、何度も試作品を食べることになり、あっという間に太りました。

自家製の鶏ハムを加えてみたりもしました。泊まりに来た友人の朝食に出すと好評でしたが、結局、私がいちばん好きなのは、トマトとチーズだけのシンプルなもの。

こんなふうに何度も試して、「自分の定番」ができていく。
効率だけを考えれば、ずいぶん遠回りです。でも、その実験が楽しいのです。

暮らしを「つくる」ことがとても楽しい

大阪にいた頃の私なら、こうはしなかったでしょう。
「バジルトーストが食べたいなぁ」
それなら、「あのカフェがおいしそうだったよ。食べに行こう」となっていたはずです。
お金を出せば、欲しいものはすぐに手に入る。それはとても便利な暮らしでした。

それに、当時の私には時間がありませんでした。50代は、本当によく働いたと思います。もう一度、同じように働けるかと聞かれたら、「絶対に無理」と断言できます。
仕事に追われ、時間に余裕がなければ、心を失ってしまいます。それが「忙しさ」です。

だから、お金を払って時間を買っていました。料理に時間をかけるより、外で美味しいものを食べる。アレンジの教室で癒しの時間を体験する。おしゃれして、デパートで買い物する。ホテルのラウンジで1杯2,000円のコーヒーを飲む。それはそれで、当時の私には必要な暮らし方だったのです。

けれど、60代になって黒部へ移住し、時間の使い方が変わりました。
種を蒔き、育つのを待つ。収穫して、どう食べるか考える。うまくいかなければ、またやってみる。

レモングラスとミントを育てて、自分で摘んだ葉でハーブティーを淹れることも、こちらに来てから覚えた楽しみです。これをホテルで飲んだら、いったいいくらするだろう。そう考えると、自分で育てて味わえることまで、なんだか贅沢に思えてきます。

以前ならお金を出して手に入れていたものを、今は時間をかけて自分でつくっている。

若い頃の私は、より多くを得るためには、より多く働かなければと思っていました。都会にいると、新しい商品やサービスの広告が次々と目に入ります。「あれも欲しい」「これも体験してみたい」と、知らず知らずのうちに欲しいものが増えていきました。

黒部では、そうした情報に触れる機会がずいぶん減りました。

その代わり、目の前には壮大な立山連峰があり、少し足を延ばせば静かな富山湾があります。そして、小さな畑には、自分が蒔いた種から育った野菜や花があります。

もちろん、都会の便利な暮らしも好きです。
でも今の私は、豊かさの物差しが少し変わったのかもしれません。

50代は、お金を使って時間を手に入れてきました。
60代の今は、時間を使って暮らしをつくることが楽しい。

すぐに手に入らないから、待つ。知らないから、やってみる。失敗したから、もう一度つくる。そんな一見遠回りな時間こそ、今の私には、お金では買えない贅沢なのだと思っています。


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