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「席替われよ」と常連客に凄まれた新人の私→焼き場の大将が返した言葉

  • 2026.9.3
ハウコレ

「席は、うちが決めます」。注文の復唱くらいしか口にしない大将が、常連のお客さんに向かって言いました。その短い言葉で、私はようやく顔を上げることができました。

カウンター越しに、焼き場の煙が細く立ちのぼっていました。ホールに立ってまだ日が浅い私は、満席の店内を行き来するだけで精一杯でした。そんななか、入り口の引き戸が勢いよく開きました。

いつもの席に先客がいた

私が働いているのは、駅前の小さな焼き鳥店です。

入ってきたのは、長く店に通っている常連のお客さんでした。いつも座るのは、カウンターの一番奥です。

けれど、その日はすでに別のお客さんが座っていました。空いているのはカウンターの端だけです。

私はおしぼりを持って声をかけました。

「すみません。今日はこちらのお席にご案内しています」

覚えた通りに伝えたつもりでした。

ところが、常連のお客さんは端の席を見ることもなく、「いつもの席だろうが」と、奥を顎で示しました。

「席替われよ」

私はもう一度、奥の席には先に来たお客さんがいることを説明しようとしました。

その前に、低い声が返ってきました。「席替われよ」

奥のお客さんに声をかけて、席を譲らせろという意味でした。

そんなことはできません。ただ、働き始めて間もない私は、常連のお客さんにどう断ればいいのか分かりませんでした。

「申し訳ありません」そう言って頭を下げると、「だから替わってもらえばいいだろ」と続きます。

周りのお客さんも会話をやめ、店内の空気が変わったのが分かりました。

私は次に何を言えばいいのか分からないまま、その場に立っていました。

焼き場から届いた言葉

そのとき、焼き場から声がしました。「席は、うちが決めます」顔を上げると、大将が串を置き、常連のお客さんを見ていました。

「先に座ってるお客さんを動かすことはしません」

常連のお客さんは何も言わず、大将を見返しました。しばらくして小さく舌打ちをすると、端の席へ腰を下ろします。

「……いつもの」

さっきまでより小さな声で注文しました。

大将は「はいよ」とだけ返し、また焼き台へ向きました。

私はようやく次のお客さんのところへ動きました。ほっとしたのと同時に、また同じことが起きたら、自分はどう案内すればいいのだろうとも考えました。

そして...

閉店後、大将は厚紙に、「お席はスタッフがご案内します」と書き、カウンターの見える場所に置きました。

私にも、「困ったら、客を動かす前に俺を呼べ」と言いました。

それから私は、満席のときの案内を自分でも言えるようにしました。

「申し訳ありません。空いているお席へ順番にご案内しています」

常連だからといって、先に座っている人を移動させる必要はない。そのことを分かったうえで案内できるようになっただけでも、以前とは違います。

あの日の常連のお客さんは、今も店に来ます。いつもの席が空いていない日もありますが、もう誰かを立たせるよう求めることはありません。

(20代女性・飲食店スタッフ)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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