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「吸血鬼」と恐れられた17世紀の女性の遺骨を調査した結果…

  • 2026.8.27
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

死者が墓からよみがえり、生きている人々に災いをもたらす。

現代では、単なる世迷言として片付けられそうですが、かつてのヨーロッパでは、こうした恐怖が実際の埋葬方法にまで影響していました。

2022年、ポーランド北中部にある17世紀の墓地から、首の上に大きな鉄製の鎌を置かれ、左足の親指には南京錠を付けられた若い女性の遺骨が発見されました。

これは「吸血鬼」として恐れられた人物の墓と見られていますが、彼女は実際には何者だったのでしょうか?

ポーランドのニコラウス・コペルニクス大学(NCU)は、骨格、DNA、同位体、金属元素、織物などを分析し、この女性の人生と埋葬後に起きた出来事を再構成しました。

研究の詳細は、2026年7月30日付で学術誌『Journal of Archaeological Science: Reports』に掲載されています。

目次

  • 「首には鎌、足には南京錠」墓は一度掘り返されていた?
  • 吸血鬼を恐れられた女性の「正体」とは?

「首には鎌、足には南京錠」墓は一度掘り返されていた?

「75号墓」と称される墓に埋葬されていたのは、死亡時17~19歳ほどの若い女性でした。

放射性炭素年代測定では、埋葬年代として1620~1674年の可能性が最も高く、17世紀半ばごろの人物だったと考えられています。

異様なのは、その遺体に施された処置です。

女性の首の上には大きな鉄製の鎌が置かれ、刃は喉へ向けられていました。

さらに左足の親指には三角形の鉄製南京錠が付けられていました。

実際に発掘された女性の墓の画像がこちら

こうした鎌や南京錠は、死者が生者の世界へ戻ることを防ぐための「反悪魔的」「厄除け的」な習慣と結びつけられています。

そのため、この墓は一般には「吸血鬼墓」として紹介されてきましたが、研究者たちは当時の信仰を単純に現代的な「吸血鬼」のイメージへ当てはめることを避けています。

さらに今回の調査から、この2つの道具は同時に置かれたとは限らないことが分かってきました。

脚の骨が乱れていなかったことから、南京錠は最初の埋葬時から付けられていた可能性があります。

一方、墓の土には掘り返された痕跡があり、研究者たちは埋葬後に墓が再び開けられ、その際に鎌が追加された可能性を指摘しています。

しかも骨の位置からみて、再開封は遺体が完全に腐敗する前だった可能性があります。

もしこの解釈が正しければ、人々は葬儀の時点ですでに彼女を警戒して南京錠を付け、その後さらに恐怖を強め、墓を掘り返して追加の「封印」を施したことになります。

吸血鬼を恐れられた女性の「正体」とは?

分析から浮かび上がったのは、社会から完全に孤立した貧しい女性という単純な姿ではありませんでした。

頭蓋骨の近くからは、絹を土台とし、純銀と金メッキされた銀の糸で飾られた高価な頭飾りの断片が見つかりました。

こうした装飾品から、研究者たちは彼女が貴族や裕福な都市民など、比較的高い社会階層に属していた可能性を指摘しています。

一方、炭素と窒素の同位体から食生活を調べると、主に穀物を食べており、墓地の成人の中では動物性タンパク質の摂取が少ない側に位置していました。

ただし、これはそのまま「栄養失調だった」ことを意味するわけではありません。

17世紀には戦争や疫病、食料不足などもあり、裕福な家庭でも常に豊富な食事を得られたとは限らないためです。

DNAにも興味深い特徴がありました。

女性のミトコンドリアDNAは「J1c2c1」という珍しい母系系統に属し、北欧や西欧、特にスカンジナビアとの古い結びつきを持つ系統でした。

しかし歯のストロンチウムと酸素の同位体は、彼女自身が墓のあるピエン周辺で育った可能性が高いことを示しています。

つまり、本人がスカンジナビアから来たのではなく、地元で育ちながら母系祖先に北欧や西欧とのつながりを持っていた可能性があります。

女性の遺骨の画像

さらに研究者たちは、口蓋や頭蓋底、首の骨に緑色の変色を発見しました。

分析すると口の奥では銅の濃度が特に高く、銅を含む何らかの物体や物質が口、あるいは鼻から喉の近くまで入れられていた可能性があります。

硬貨だった可能性も検討されましたが、金属組成などが一致せず、具体的に何だったのかは分かっていません。

このため女性には、南京錠、鎌、そして口や鼻に入れられた可能性のある物体という、複数の特殊な処置が施された可能性があります。

しかし、ここまで調べても、彼女がなぜ恐れられたのかは判明していません。

骨には死因となる明確な外傷や病変も残っていませんでした。

17世紀の社会では、突然死や病気、異質とみなされた振る舞い、さらには疫病や飢饉といった災厄まで、亡くなった人物と結びつけて考えることがありました。

彼女も何らかの理由で「死後も危険な存在」とみなされたのかもしれませんが、その理由は今も謎のままです。

今回の研究が明らかにしたのは、「吸血鬼が存在した」ということではありません。

むしろ、17世紀の人々が死者をどれほど現実的な脅威として恐れ、その恐怖が墓を掘り返してまで追加の対策を施すほど強かった可能性があるということです。

名前も死因も分からない17~19歳の女性ですが、その墓に残された鎌と南京錠は、400年前の人々が抱えていた恐怖を現在まで鮮明に伝えています。

参考文献

Archaeologists investigate a feared young woman’s 17th century vampiric grave in Poland
https://phys.org/news/2026-08-archaeologists-young-woman-17th-century.html

400-year-old ‘vampire’ grave discovered in Poland
https://www.popsci.com/science/vampire-grave-young-woman-poland/

元論文

A unique, non-normative burial of a young adult female from a 17th-century cemetery in Pień, north-central Poland. A multidisciplinary approach
https://doi.org/10.1016/j.jasrep.2026.105967

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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