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「診察まであと何人ですか?」何度も聞く患者…看護師が話して分かった待ち時間を聞く“本当の理由”とは…

  • 2026.10.1
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科の看護師をしていると、診察前に同じことを何度も確認する患者さんに出会うことがあります。

一度説明すれば納得したように見えても、数分後にはまた同じ質問を繰り返す。その様子だけを見ると、「心配性なのかな」「今日はずいぶん落ち着かないな」と感じるかもしれません。

しかし、患者さんが繰り返し確認している内容と、本当に不安を感じていることは、必ずしも同じとは限りません。

今回紹介するのは通院していた中年男性Aさんとの出来事です。

ある日を境に、待ち時間から何度も同じ質問をするようになりました。

最初は「今日はずいぶん気にしているな」くらいに思っていました。

ところが、話を聞いていくと、Aさんが何度も確認していた本当の理由が見えてきました。

「あと何人ですか?」数分おきに繰り返す質問

その日のAさんは、受付を済ませるとすぐに看護師のところへやってきました。

「すみません、今日の診察って何時頃になりますか?」

「順番にご案内していますので、もう少しお待ちくださいね」

「あと何人くらいですか?」

「今のところ、Aさんの前に3人いらっしゃいます」

「3人ですね」

「はい」

一度は納得したように待合室へ戻っていきました。ところが、5分ほどすると再びやってきます。

「すみません。あと何人ですか?」

「先ほどと同じで、Aさんの前に3人です」

「そうですか」

また席へ戻ります。さらに数分後。

「診察、何時くらいになりますか?」

「先ほどお伝えした通り、もう少しお待ちくださいね」

「…はい」

そして、また席へ戻っていきます。

以前のAさんを知っている私には、少し違和感がありました。Aさんはこれまで、診察を待つ間に何度も時間を確認するような方ではなかったのです。

「それ、前回も確認しましたよね?」

診察室に入ってからも、Aさんの確認は続きました。

「先生、今日はちゃんと話を聞いてくれますよね?」

医師が、

「もちろんですよ。どうしましたか?」

と答えると、

「時間、大丈夫ですか?」

「今日は時間を取っていますよ」

「…そうですか」

それでもしばらくすると、

「先生、診察って長くなりますか?」

と尋ねます。

診察が終わり、Aさんが退室したあと、私は少し気になりました。

「Aさん、今日はいつもより確認が多かったですね」

医師も、

「そうですね。何か不安なことがあるのかもしれませんね」

と話していました。

次回の受診時にも、Aさんは同じように、

「今日は何時に終わりますか?」「あと何人ですか?」

と確認しました。私は思わず、

「Aさん、これって前回も確認しましたよね」

と声をかけました。

「はい。そうなんですけど…」とAさんは少し困ったような表情をしました。

「何か気になることがありますか?」

「いや、別に不安じゃないですよ」

「診察が怖いわけではないんです」

私は質問を少し変えてみることにしました。

「診察そのものが心配なんですか?」

「いや、それは大丈夫です」

「じゃあ、何が一番気になっていますか?」

Aさんは少し考えました。

「…明日なんです」

「明日?」

「明日、ちょっと大事な予定があって」

そこから、少しずつ話が出てきました。

翌日に仕事に関係する重要な予定が入っていたのです。その予定は時間が決まっており、遅れると仕事を休まなければならない可能性もありました。

「明日、絶対に遅れたくなくて」

「なるほど」

「今日の診察が長引いたら、帰る時間が遅くなるじゃないですか」

「はい」

「そうしたら、ちゃんと寝られないかもしれないし…」

Aさんはそこで言葉を止めました。ようやく、これまでの行動がつながりました。Aさんが気にしていたのは、「今日の診察」そのものではありませんでした。

その先にある「明日の予定が予定通り進むかどうか」だったのです。

「何回聞いても、安心できないんです」

私はAさんに尋ねました。

「だから、何時に診察が終わるのか何度も確認していたんですか?」

「…はい」

「でも、時間を聞いても、また気になってしまう?」

Aさんは少し笑って、「そうなんです」と答えました。

「さっき聞いたから大丈夫って思うんですけど、また5分くらいしたら本当に大丈夫かなって思ってしまって」

「それで、また確認したくなるんですね」

「はい」

Aさんは少し黙ってから、

「自分でも、何回も聞いたら迷惑かなって思ってるんです」

と話しました。

「でも、聞かずにいると、もっと気になってしまって」

その言葉を聞いて、私はこれまでAさんに対して感じていた印象を少し見直しました。
単に「何度も質問する人」なのではありません。自分でも繰り返してしまうことを分かっていながら、それでも確認せずにはいられない状態だったのです。

「別に不安じゃない」と言っていた理由

Aさんには『自分は強い不安を抱えている』という明確な自覚がご本人にあるわけではありませんでした。

本人にとっては、

「予定通りにいくか確認したい」
「時間が分からないから確認している」

という、とても現実的な行動に感じられていたのです。

そのため、最初に、「何か不安なんですか?」と聞かれたときも、

「別に不安じゃない」と答えていました。

でも実際には、

「予定が狂ったらどうしよう」
「明日に影響したらどうしよう」
「もし診察が長引いたら?」

という先のことへの不安がありました。それが、何度も時間を確認するという行動につながっていたのです。

最後にAさんが言った「すみません」

その日の診察が終わるころ、Aさんは私に、「何回も聞いてしまって、すみません」と話しました。

「大丈夫ですよ」

「自分でも止められなくて」

「そういうときもありますよ」

そう伝えると、Aさんは少しホッとしたような表情を見せました。

そして、

「理由が分かれば、ちょっと安心するんですけどね」

と笑いました。

私は、

「何度も確認したくなるときは、まず何が気になっているのかを一緒に整理してみましょう」

と伝えました。

「何度も聞いてくる人」だけでは見えなかったもの

今回の出来事で印象に残ったのは、Aさんの「質問の回数」だけを見ていたら、本当の理由にはたどり着けなかったかもしれないということです。

「また同じことを聞いている」「さっき説明したのに」

そう思ってしまえば、そこで終わっていたかもしれません。

もちろん、外来には多くの患者さんがいて、限られた時間の中ですべての質問に丁寧に対応することが難しい場面もあります。それでも、以前とは明らかに違う行動が見られたときには、

「なぜ今日はこんなに確認するのだろう?」

と一度立ち止まって考えることが大切です。

Aさんの場合、質問していたのは「診察の時間」でした。しかし、本当に気になっていたのは、その先にある「明日の予定が無事に進むか」ということでした。

表面に出ている行動と、その人が抱えている不安は、必ずしも同じとは限りません。

「それ、前回も確認しましたよね?」から始まった気づき

精神科では、患者さんの言葉や行動の背景を考えることがあります。

同じ質問を何度も繰り返す。何度も予定を確認する。「大丈夫」と言いながら、何度も確認する。

その行動だけを見ると、「しつこい」「せっかち」と受け取ってしまうこともあるでしょう。

でも、その人にとっては、何かを確かめることで不安を少しでも小さくしようとしているのかもしれません。

Aさん自身も、「何回も聞いてしまう自分」を責めていました。

だからこそ、行動を注意するだけではなく、「何が気になっているのか」「何を確認できれば安心できるのか」を一緒に考えることが、その人を理解するきっかけになります。

あの日、私が最初に感じたのは、「また同じことを聞いているな」という小さな違和感でした。

でも、その違和感をそのままにせず話を聞いたことで、「何度も確認する患者さん」から、「先の予定が見えないことに不安を感じているAさん」へと、見え方が変わりました。

質問の回数だけでは分からない、その人の本当の困りごと。

精神科看護における大切な関わりの一つですが、これは日常の人間関係にも同じことが言えるかもしれません。職場や家庭で『何度も同じことを言う人』『しつこい人』に出会ったとき、少しだけ立ち止まってその行動の裏にある不安を想像してみる。そんな少しの歩み寄りが、お互いの関係を優しく変えていくヒントになるのではないでしょうか。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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