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西島秀俊、主演映画『時には懺悔を』でキレイごとではない生の声と向き合う【ロングインタビュー】

  • 2026.8.21

俳優の西島秀俊は、役によりいくつもの顔を使い分けてきた。『ドライブ・マイ・カー』では心に傷を抱えた演出家・家福を、『MOZU』シリーズでは荒ぶる公安のエース・倉木を、一方で『きのう何食べた?』シリーズでは、節約家のシロさんをキュートに演じるなど、多彩な役柄を確かな説得力で体現してきた。

最新主演映画『時には懺悔を』では、『嫌われ松子の一生』や『告白』で知られる中島哲也監督と初タッグを組み、不器用でひねくれた性格の独立探偵・佐竹三雄を演じた。打海文三による小説を同名映画化した本作は、ある事件を機に、9年前の誘拐事件で連れ去られた、重い障がいのある少年・新の命をめぐり、佐竹や助手の聡子(満島ひかり)など過去に傷を抱えた大人たちの心が動いていく物語。

中島監督の指揮のもと、共演の満島をはじめ、黒木華、宮藤官九郎、役所広司など名うての演技者がそろいぶみした。さらにはスペシャルニーズのある出演者も顔をそろえ、西島自身の心も揺さぶられたという。インタビューでは、そうした共演者とのエピソードのほか、本作が自身にもたらしたものまで、じっくりと語ってもらった。

最初に『時には懺悔を』のオファーを受けたときは、どのような気持ちでしたか?

西島:脚本を読んで、これは受けなければならないと感じるときがありますが、これはまさにそういう脚本で、断るという選択肢はないと思いました。そこにはキレイごとでない生の声が描かれていました。また、スペシャルニーズの子どもたちが出演するということも、ぜひ参加したいと思った理由の一つです。

「キレイごとではない生の声」は本作を拝見するとまざまざと伝わります。西島さんは、特にどのような点に惹かれたんでしょうか?

西島:この作品は、「死んだほうがマシな人間が死んだ」というセリフから始まります。物語には、一見汚れ切っているように見える人物が出てきますが、実はそれだけではないということが描かれていて、それは真実だと僕は思うんです。みんなが悪人だと思っているような人物が、実は最も純粋なものを持っていたり、心を閉ざしているように見える人物が、誰よりも本当は救いや、何か心が震えるような瞬間を求めていたり、支えているつもりが実は支えられていたり…人間の多面性が、全てのキャラクターにおいて描かれているところに強く惹かれました。

僕自身、「人間は、そんな単純なものじゃない」と言いつつも、情報が溢れるこの世の中では、そういうことを体感するのが薄くなったのではないかと感じています。そして、限られた情報だけで「こういう人だろう」と判断してしまうことがあると思います。人やこの世界というものはもっと複雑で、いろいろな面を持っているということを、この作品を通して改めて感じました。

佐竹という人物については、どう捉えましたか?

西島:佐竹は、過去に取り返しのつかないことをしてしまい、また世の中の淀みを見過ぎたせいで、ほとんど何も感じなくなった人物です。背負っているものがあるので生きてはいます。また、飲食にも興味がないので、そのあたりにあるものを食べて、何か飲み物が転がっていればそれを飲む。僕たちが見ている世界よりも、灰色で色のない世界を見ているような人だと思いました。それでも何か感じる瞬間というか、心が震えるような瞬間というものを心の奥底では求めている。この物語を通して、彼の心の奥底に光が触れる瞬間があり、それを感じたいと思いながら演じていました。

中島監督とはどのように演じていくかなど、いろいろお話されたんでしょうか?

西島:中島監督に最初のリハーサルのときに言われたのが、「映画だからといって、簡単に現実を飛び越える表現はしないでいきましょう」ということでした。例えば、静かな街の中で大きな声で言い合うことは、現実には起こりにくい。つい映画だからということで表現としてやってしまうことを、できるだけ排する。「リアルな演技」に監督はこだわっていたと思うんです。映画だから、演技だから、ということでリアルな感覚を捨てずにいられるか、ということを求められていたのではないでしょうか。

また、リハーサルのときに、監督から「声がちょっと低くて強いのでは」と言われました。もっと弱い声を監督はイメージされていました。佐竹は誰に何を言われてもまったく何も感じないのと同時に、一応話してはいるけれど、他人に伝える気もあまりない。伝わっていようが、伝わっていまいがいいと思っている人だ、ということを監督は言われたのだと思います。

先ほど佐竹の飲食のお話もありましたが、助手の中野聡子役の満島ひかりさんは、佐竹と真逆でよく食べていましたよね。

西島:この映画は「食べる」ことが重要なモチーフの一つになっています。聡子だけでなく、みんなそれぞれ食べ方に個性が出ていて、それがキャラクターを表しているんです。聡子は常によく食べますが、それは彼女に生きる力がみなぎっていることを表しています。佐竹も最初はもうすこし食べている人のイメージでしたが、リハーサルのときに、この人はお酒をずっと飲んでいて、食べ物をほとんど食べていないのではないか、ということになったんです。佐竹はほとんど生きることを放棄していて、ただ生きなければいけないので、その場にあるものを適当に食べるだけだろうと。そういうところからも、佐竹のキャラクターを作っていきました。

観ているこちら側も、心をえぐられるような、締め付けられるような思いがしました。演じる上で、苦しさは感じるものでしょうか?

西島:そうですね。やはり苦しい気持ちを抱える毎日になっていきますし、役でいる間は、とても厳しいです。それでも、光に触れるような瞬間がありました。今回、新を演じたしんすけくんをはじめとするスペシャルニーズの子どもたちが出ていますが、その演技が本当に素晴らしかったです。本番で手を振ったり、笑顔を見せてくれる。その演技は、どう見せようとか、どういう効果を出そう、ということではなく、自然に表現されたものでした。それは僕個人としては、理想の演技なんです。ただそこにあるがままでいることが、演技となる。目の前で自分の理想とする演技を見て、心から感動していました。そして、彼らの演技に心が動く瞬間が本当にあったので、僕は無理に心を動かそうとする必要はなく、目の前で起こることに対して、正直に反応していこうと思っていました。

しんすけさんのお話もありましたので、ぜひほかのキャストさんについても聞かせてください。シーンの多かった満島さんとの共演はいかがでしたか?

西島:表現するために生まれてきたような人が時々いますが、満島さんは、本当に表現するために生まれてきた人だと感じます。生きることと表現することが地続きでつながっていて、演技するために生まれてきたのではないかと思いました。

西島さんご自身は、演技をしているときに俳優が天職であったり、表現することの喜びを感じたりという瞬間はありますか?

西島:もちろん充実した演技ができたときに喜びはありますが、自分自身をあまりそういう風に考えたことはないです。

新を一人で育てている明野哲夫役、宮藤官九郎さんの演技にも本当に見入ってしまいました。

西島:宮藤さんは最初にお会いしたときに、すでに相当役作りをされていらっしゃったと思います。ヒゲも伸ばしていたし、すごく痩せていらっしゃったので。明野という役は、「本当にこの人はひどい人だな」と見えるけれども、とても純粋な部分があり、どこかやさしくてチャーミングな人物なんです。この作品が描こうとした、人の多面的な部分を、一番表現していたのではないかと思っています。

最後まで明野本人は自分のことをピュアだと思っていないのですが、宮藤さんは、その「あるがままの明野」を演じていて、とても感動的でした。例えば、明野が「別になんでもないよ。ただ、俺はこんなに(新が)長生きすると思わなかったな」と言うセリフも、別にしんみり言うわけでもなく、当たり前のように言う。それがこちらの心の奥底に響いてくる。ご一緒するシーン数は多くはなかったですが、本当に感動しました。

また、佐竹の元上司の寺西役では役所広司さんも出演されています。画が一層引き締まる感じがありました。

西島:役所さんは、やはり大きさを感じさせる方です。何度か共演させていただいていますが、どんな場面でも、そのシーンを豊かに成立させてくれる安心感がとてもあります。共演するたびに、「こういう感じなのか」と毎回驚きがあります。とても台本を読み込んでいるのだろうと思いますが、それでいて、演技するときはとても自由に感じます。

西島さんにとって、非常に刺激を受ける先輩といいますか、一緒にお芝居をしていて高揚するような方なんですかね。

西島:そうですね。僕は『ニンゲン合格』という映画で役所さんと初めて共演しました。そこには菅田俊さん、麻生久美子さん、哀川翔さん、(大杉)漣さんがいて……僕が28歳の頃に出演した映画でした。大きな一軒家が控え室になっていて、休憩時間はみんなでそこで過ごしていたんです。まだいろいろわかっていない頃に皆さんとご一緒できたその経験は、僕にとってはとても大きいものでした。役所さんに会うと、そのことを思い出します。

FILMAGAは映画好きが多く集まるサイトです。西島さんが、最近観た映画やドラマで印象に残った作品を教えてください。

西島:『急に具合が悪くなる』です。

即答でした。『ドライブ・マイ・カー』で組んでいらした濱口監督の作品ですよね。

西島:はい。本当に素晴らしかったです。

監督に感想をお伝えしたりもされたんですか?

西島:そうですね。あまりに素晴らしくて、映画館を出てから、久しぶりにまっすぐ帰れず、街をフラフラしました。そうした映画体験はたまにありますが、本当にとてもいい映画を観ると、映画館を出たときに、世界がまったく違うものに見える感じがします。そんな時は、まっすぐ帰る気持ちにならず、しばらく街を歩き回ることがあります。『急に具合が悪くなる』は、そういう気持ちになる素晴らしい作品でした。

(取材・文:赤山恭子、写真:映美、ヘアメイク:HARUKO ICHIKAWA(ひつじ)、スタイリスト:オクトシヒロ)

西島秀俊PROFILE

西島 秀俊(にしじま ひでとし)

1971年3月29日生まれ。東京都出身。1994年に映画『居酒屋ゆうれい』(渡邊孝好監督)で映画初出演を果たす。以降、『ニンゲン合格』(99/黒沢清監督)、『Dolls ドールズ』(02/北野武監督)、『帰郷』(05/萩生田宏治監督)、『CUT』(11/アミール・ナデリ監督)などに出演し、様々な賞を受賞。さらには、映画化もされたドラマ『MOZU』シリーズ(14~15/TBS・WOWOW)、『きのう何食べた?』シリーズ(19~23/TX)、『奥様は、取り扱い注意』(17/NTV)などにも出演。近年では、映画『首』(23/北野武監督)、『スオミの話をしよう』(24/三谷幸喜監督)、『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』(25/真利子哲也監督)、配信『Sunny』(24/ルーシー・チェルニアク監督)、『人間標本』(25/廣木隆一監督)などに出演し、『ドライブ・マイ・カー』(21/濱口竜介監督)では、第56回全米映画批評家協会賞主演男優賞、第45回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など国内外で多くの賞を受賞している。

映画『時には懺悔を』は、2026年8月28日(金)より全国公開。

出演:西島秀俊 満島ひかり 黒木華 宮藤官九郎 / 柴咲コウ / 佐藤二朗 役所広司
監督:中島哲也
原作:打海文三『時には懺悔を』(角川文庫/KADOKAWA)
脚本:中島哲也 門間宣裕
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(c)2026 映画「時には懺悔を」製作委員会

※2026年8月17日時点の情報です。

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