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「駐車場は入り口の一番近くを空けて」毎月のように泊まりに来る夫婦。増えていく要求に引いた線とは

  • 2026.8.20

毎月のように来る、羽振りのいいご夫婦

四十代の頃、私はリゾートホテルの受付で働いていた。

ファミリー向けの、料金もごく一般的な宿だ。

夏休みには子ども連れでロビーがにぎわう、そういうホテルだった。

そこへ毎月のように泊まりに来るご夫婦がいた。七十代くらいだろうか。商売はもう次の世代に譲ったそうで、ご主人は自分のことを名ばかりの社長だと笑って話していた。

「うちはもう子どもに全部任せてるからね。あとは遊んで暮らすだけ」

身なりは立派で、実際に羽振りもよかった。

ただ、そのぶん求めるものも大きかった。

玄関に車が着くたび、ご主人は窓を下ろしてこう言う。

「駐車場は入り口の一番近くを空けて」

助手席の奥様も、当たり前のように続けた。

「お部屋は眺めのいいところにしておいてね。いつものことだから」

できる範囲では応じてきた。空いていれば入り口寄りの枠へ案内したし、部屋も残っていれば景色のいい側にした。

お金を出しているのだから最高のサービスを、と言われれば、笑顔で頭を下げるのが仕事だと思っていた。

笑顔のまま、線を引いた日

けれど、応じるほどに求められることは広がっていった。

チェックインの時間より早く部屋を開けてほしい。食事の時間を過ぎてから出してほしい。隣の駐車枠も空けておいてほしい。

気づけば、他のお客様に向けるはずの手が足りなくなっていた。

ある日の午後、私は受付でご夫婦を迎え、いつも通りの笑顔のまま、一つずつ区切って伝えた。

「駐車場は、お越しになった順にご案内しております」

「お部屋は当日の空き状況で決まりますので、お約束はいたしかねます」

できることも同じ調子で並べた。お荷物はお運びできること、傘はお貸しできること。できないことだけを突きつけたら、それはただの拒絶になってしまう。

声を荒らげもしなかったし、嫌な顔もしなかった。ただ、線だけははっきり引いた。

ご主人は口をへの字にして奥様と顔を見合わせ、不服そうにしながらも、何も言い返さずに鍵を受け取って階段を上がっていった。

もう来ないかもしれない、と思った。それでも、あれは言うべきことだったと自分では納得していた。

ところが次の月も、二人はやって来た。

要求はずいぶん減っていて、車は空いている枠にそのまま停めていた。鍵を渡すとき、ご主人が私の顔を見て笑った。

「あんたはちゃんと言うこと言うね」

胸のつかえが、すっと下りた。

線を引いたから終わるのではなく、線を引いたからこそ続く関係もあるのだと、あのとき初めて知った。

※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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