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「玄関のチャイムは、押さない主義なの」届かなかった回覧板。だが、誤解が解けた瞬間

  • 2026.8.2

板が来ない朝

回覧板が来ていない、と気づくのはだいたい朝です。

前の家に配られたはずの案内が、うちの玄関のどこにも見当たりません。

私の住む並びには、数年前に新築が4軒建ちました。

班の順番も、そのときに組み直されています。うちの前は、その4軒のうちの一軒です。

夏祭りの案内が回った週は、2日たっても板が来ませんでした。三日目の朝、隣の家の前で立ち話をしていた班長さんに聞きました。

「うちの班、どこかで止まってますか」

「あら、2日前にお隣が回してるはずよ」

家に戻って、門の脇の宅配ボックスを開けました。

回覧板は、届いていた荷物の下に敷かれるように入っていました。表紙の角が少し折れていて、蓋を閉めた人の几帳面さが、かえって伝わってきます。

押さない主義

その日の夕方、板を次の家へ持っていく前に、隣に寄りました。

「回覧、気づかなくて。次からは声をかけてもらえますか」

「玄関のチャイムは、押さない主義なの」

奥さんは三和土に立ったまま、そう言いました。

責めるでもなく、こちらを困らせるつもりもない口調です。

「ご迷惑かと思って、箱に入れることにしているんです」

「あの箱、道からは見えないんです」

「そうだったの」

そこで会話が途切れました。次の言葉を探しているうちに、玄関の戸が静かに閉まりました。

班長が渡してくれた紙

数日後、班の集まりで顔を合わせたとき、班長さんが一枚の紙を配りました。次の当番と、回す順番が書いてあります。

「一声かけて手渡し。留守なら箱に入れて、次の家に電話を一本」

紙のいちばん下の行に、そう書き添えられていました。誰の名前も出ていません。

「これ、どなたか困ってたんですか」

若いお母さんが聞くと、班長さんは湯呑みを置いて言いました。

「困ってる人がいるうちは、決めごとにしたほうが早いのよ」

隣の奥さんは、その紙を二度ほど読み返してから、鞄にしまいました。帰り道、少し後ろを歩いていた奥さんが、私の横に並びました。

「箱に入れるの、やめます」

「助かります」

それだけの言葉でした。次の回覧から、うちのチャイムは短く二回鳴るようになりました。出ていくと、奥さんは板を渡して、先に背を向けます。それでも、鳴らない日はもうありません。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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