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朝ドラで“史実”を知るとさらにおもしろい人物「モデルいたんだ」「知らなかった」史実と重なるこれまでの歩み

  • 2026.8.28
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『風、薫る』第17週(C)NHK

NHK連続テレビ小説『風、薫る』で、いつの間にか欠かせない存在となった“チュウ”こと丸山忠蔵(若林時英)。かつて直美(上坂樹里)が看護実習で担当した患者だった彼は、いまや田ノ上屋の店主となり、りん(見上愛)や直美、シマケン(佐野晶哉)たちを温かく見守っている。SNS上でも「良い人すぎ」と、その人柄に注目が。さらに忠蔵には実在人物を思わせるモチーフがあり、「モデルいたんだ」「知らなかった」と驚く声も見られる。愛されキャラの歩みを振り返りたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

話題を呼んだ涙の演技

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『風、薫る』第21週(C)NHK

第21週「定めと選択」では、忠蔵という人物の優しさと、それを演じる若林時英の持ち味がよくわかる場面があった。

実家の借金を返すため、小説家になる夢を諦めて浜松へ戻ろうとするシマケン。そんな彼に忠蔵は、「それっぽっちの気持ちだったんですか」と声を上げた。その目には涙が浮かんでいる。

忠蔵を演じる若林の声には、若さゆえの力がある。しかし、その表情を見ていると、怒っているというより、悲しんでいるように、悔しがっているように見える。シマケンがどれほど小説家になることを望んできたのかを知っているからこそだろう。そして、田ノ上屋に集ってきた仲間がいなくなってしまう寂しさ。複数の感情が、涙をためた目に重なっている。

ただ、その“良い人”ぶりにわざとらしさを感じさせないところに、若林の芝居の魅力があるのではないだろうか。

忠蔵は、決して主人公たちを導く立派な人物ではない。むしろ最初は、自分のことで精いっぱいだった。

それが100回を超える時間のなかで、いつの間にか誰かの夢を心配して涙を流せる人になっていた。若林はその変化を、大きな見せ場で一気に説明するのではなく、一つひとつの表情や声、佇まいによって積み重ねてきた。

“厄介な患者”から愛されキャラへ

若林の芝居を振り返るうえで興味深いのが、忠蔵の初登場時と現在の違いだ。

直美が看護実習で出会った頃の忠蔵は、皮膚病による激しいかゆみに苦しんでいた。看病婦たちから厄介がられ、入院によって金も下宿先も失ったことで自暴自棄に。決して最初から“癒やしキャラ”だったわけではない。

当時の若林は、身体をモゾモゾと動かしたり、表情をこわばらせたりすることで、かゆみそのものだけでなく、“どうして自分ばかり”という苛立ちまで身体で表現していた。

そこから直美たちの看護を受け、少しずつ表情が穏やかになっていく。この変化が実に自然だった。

昨日まで荒れていた人が、ある出来事を境に突然前向きになるわけではない。少し機嫌が良くなり、本を読むようになり、退院後について考え始める。若林は忠蔵の心が外の世界へ向かって開いていく過程を、小さな変化の連続として見せた。

若林は12歳から芸能活動を始め、舞台や映像作品で経験を積み重ねてきた俳優だ。近年も『失恋カルタ』『霧尾ファンクラブ』など、それぞれ異なる人物像を演じてきた。

そんな若林の芝居には、強烈な個性を前面に押し出すとともに、朴訥としたその人らしさまでも共存させる妙な自然さがある。『風、薫る』でも、その特性が忠蔵という人物によく合っている。

退院後には田ノ上屋で働き始め、やがて店主となった忠蔵。いつしか田ノ上屋にはりんや直美、シマケンらが集まるようになり、忠蔵自身も彼らの人生を見守る存在となった。長い変化を若林が静かに積み重ねてきたからこそ、チュウは気づけば『風、薫る』に欠かせない人物になっていたのだろう。

史実を知ると、さらにおもしろい

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『風、薫る』第21週(C)NHK

そんな忠蔵には、なんと実在人物を思わせるモチーフがある。新宿中村屋の創業者として知られる相馬愛蔵だ。

相馬も長野から上京し、東京専門学校(現・早稲田大学)で学んでいた青年時代に皮膚病を患い、入院した経験を持つ。その際に看護を受け、のちに食の世界へ進んで中村屋を創業。妻・黒光とともに事業を発展させていった。

地方から上京した青年、皮膚病による入院、看護婦との出会い、そして退院後に食の世界へ。忠蔵の歩みと重なる部分は多い。

さらに忠蔵は、団子屋だった田ノ上屋に新商品を取り入れ、少しずつ洋風の店へと変えている。相馬が後にクリームパンやインドカリーなどで知られる中村屋を発展させた史実を思えば、何気ない商売の描写にも目が向く。

もちろん、忠蔵は相馬愛蔵をそのまま再現した人物ではない。だからこそ俳優には、史実に縛られず、ドラマの世界で一人の人間を立ち上げることが求められる。

そこで効いてくるのが、若林の“普通の人”を魅力的に見せる力ではないだろうか。

田ノ上屋に彼がいると、どこか安心する。誰かが話している横で笑ったり、心配そうに見つめたりする何気ない姿まで、きちんとその場に生きている。そしてシマケンが夢を捨てようとしたときには、涙を浮かべて真正面から怒る。

初登場時には自分の未来さえ見えなかった青年が、いまでは他人の未来を諦めきれずにいる。その時間の流れを自然に感じさせることこそ、若林時英という俳優の強みなのかもしれない。


連続テレビ小説『風、薫る』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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