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のび太でも、しずかでも、出木杉でもない…ドラえもん研究者が「最も懐に入るのが上手い」と絶賛したキャラ

  • 2026.7.29

良好な人間関係を築くには、どうすればいいのか。ドラえもんを研究する富山大学名誉教授の横山泰行さんは「スネ夫は“嫌なやつ”という扱いをされるが、人をホメることに関しては芸術の域に達している。スネ夫の言い回しには、大人が学べるポイントがいくつもある」という――。(第1回)

※本稿は、横山泰行『ポケット版「スネ夫」という生きかた』 (アスコム)の一部を再編集したものです。

スネ夫のホメるテクニックは「芸術の域」

『ドラえもん』のスネ夫といえば、自慢話ばかりで、ジャイアンに調子よく取り入る“嫌なやつ”の印象を持つ人が多いかもしれません。

ところが、長年『ドラえもん』を読み解いてきた私からすれば、こと人をホメることにかけて、スネ夫は達人です。しかも口先だけのお世辞とは違い、相手をよく観察し、頭を使って魅力を探し出す。もはや、スネ夫のホメるテクニックは、芸術の域に達していると言えそうです。何がすごいのか、具体的な場面から見ていきましょう。


ジャイアンがスネ夫に話を切りだしました。

「いっしょうけんめい歌のレッスンしてたらよ、かあちゃんがよ、家の中でヘンな声を出すなって。パシーッとひっぱたくんだよ」とジャイアン。

スネ夫は思わず「ウシャシャシャ、そりゃそうだろ」と笑ってしまいました。しかし、ジャイアンに「なんだと⁉」と凄い形相で睨みつけられ、スネ夫は「そりゃひどい‼ きみんちのママはきみの歌のすばらしさがわからないんだ。きみこそ日本一の大歌手になる人だよ。なにがなんでも練習をつづけなくちゃ」と口走ります。

すると、ジャイアンはスネ夫をしっかり抱きしめ、「心の友よ‼ おれの芸術がわかるのはおまえだけだ」と大粒の涙を流しました……。

『藤子・F・不二雄大全集ドラえもん 第15巻』小学館 第76話目「鬼は外ビーンズ」

「歌がうまい」を具体的に言い換えた

では、解説しましょう。

まず、1か所目。「きみこそ日本一の大歌手になる人だよ」というスネ夫のフレーズは、「歌がうまい」という意味を具体的に、何倍も上手に言い換えています(具体的にホメる法則)。また、このフレーズには「相手に夢をもたせる」という効果も期待できます。普通の人にはハイパーなワザですが、参考になりますね(夢を与えつつホメる法則)。

マイクを持つ歌手のシルエット
※写真はイメージです

次に、2か所目。「(ジャイアンは)なにがなんでも練習をつづけなくちゃ」というスネ夫のことばに注目してみましょう。このように「相手に何かを提案することが、結果的にホメにつながっているスタイル」のことを、私は「アドバイス型」と呼んでいます(アドバイスしながらホメる法則)。これも職人ワザ級のホメ方ですが、「アドバイスをするのは、あなたを大切に思うからこそ」という気持ちが直球で伝わります。

いかがでしょう。スネ夫流「ホメる作法」の世界がおわかりいただけたでしょうか。スネ夫から学ぶ「ホメ道どう」は、まだまだ奥が深いものです。本書を読み進めるほど、あなたのアタマは確実に進化をしているはずです。さらに、スネ夫の「ホメ道」を堪能していきましょう。

オリラジ藤森さんは清々しくて、うらやましい

そろそろみなさん、誰かをホメたくてウズウズしてきた頃ではないでしょうか。

ですが、「私って口下手で、とても人をホメることなんてできない……」という人も多いことと思います。かくいう私も、口下手で困っています。『ドラえもん』に関することなら、数百人を相手に講演会が開けますが、人をホメることは難しい。ましてや女性をホメることなど、もう何年もサボっているかも……。

少し前のこと。テレビを見ていたら、お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の藤森慎吾さんが「君、かわうぃ~ね~!」と周りの女性タレントたちに連発しているところが放映されていて、私は腰が抜けそうなほどびっくりしました。

あとから知ったのですが、藤森さんは「チャラ男キャラ」なるものを確立され、女性を気軽にホメるというスタイルも、そういったキャラを踏まえてのことなのだとわかりました。

私のような世代から見ると、藤森さんのホメっぷりは大変清々しく感じられ、本音を言うと、うらやましくて仕方がありません。女性としては、たとえ「軽薄なキャラ」だとしても、男性からの賛辞は大変うれしいものだそうです(私の妻にリサーチしたところ、そう答えていました)。

口下手な人に勧める「アドバイス型」のホメ

藤森さんはさぞかしモテるでしょうし(もし、そうでなくても)、少なくとも女性とスムーズに会話を楽しめているのだろうと思うと、「同じ人間なのに、なぜこんなにコミュニケーション能力に差があるのか」と嘆きたくなります。

「口下手代表」の私としては、スネ夫を分析し、口下手でも失敗しないホメ方についてもお話ししたいと思います。それは、前項でもご紹介した「アドバイスしながらホメる法則」という手法です。この方法なら「君、かわうぃ~ね~!」というセリフより、はるかに誠実な印象を与えることができるかもしれませんよ!

さあ、スネ夫がホメるシーンを見てみましょう。


道端で、ジャイアンがのび太やスネ夫、しずちゃんに自分が描いた絵を見せています。さっそくスネ夫がホメちぎります。「おれの絵、そんなにいいかな」といぶかしがるジャイアン。「いいなんてものじゃないよ。天才だよ、これは」とスネ夫。

「きみは道をまちがえている! 歌手よりも画家を、めざすべきだ!」

ジャイアンの顔を指さし、熱弁をふるうスネ夫に、ジャイアンはすっかり感動した様子です。

「よく言ってくれた! お、おれはやるときめたら、トコトンやりぬくぞ!」

ジャイアンは鼻水まで流してうれし泣きします。

『てんとう虫コミックスドラえもん 第14巻』小学館 第2話目「からだの皮をはぐ話」

空き地に置かれた土管
※写真はイメージです
冷静な観察力で「よりよくなる意見」を伝えればいい

ここではホメのテクニックが2つ使われています。いずれもスネ夫が使うホメの基本テクニックです。

1つ目は、大げさな身振りでホメることです(身振り手振りを入れてホメる法則)。「真剣にホメているからこそ感情がたかぶって、ついつい体が動いてしまっているのだ……」と相手に伝える効果があります。

そして、2つ目。「きみは道をまちがえている! 歌手よりも画家を、めざすべきだ!」というセリフに注目してください。これは、相手にアドバイスをするという形をとって、結果的にホメています(アドバイスしながらホメる法則)。

横山泰行『ポケット版「スネ夫」という生きかた』 (アスコム)
横山泰行『ポケット版「スネ夫」という生きかた』 (アスコム)

コンサルタント、もしくは批評家っぽい発言で、ちょっと「上から目線」に感じられるかもしれませんが、結果的に「ホメていますよ、あなたの実力を買っていますよ」というメッセージを発信することができます。

口ベタなあなたは、あえて「チャラ男」藤森さんを目指す必要はまったくありません。「批評家」「コンサルタント」よろしく、アドバイス型のホメで攻めましょう。求められるのは「チャラさ」ではなく、冷静な観察力です。

相手をじっと観察して、ホメるところを見つけて「こうすればよりよくなる」という意見を伝えればよいのです。アタマは余計に使いますが、踏ん張りどころですよ。

「いい事をした瞬間にホメる、だから観察が必要」

最後に、シドニーオリンピックの女子マラソンで金メダルを獲った高橋尚子さんを育てた故・小出義雄監督の、こんな名言をご紹介しておきましょう。

「ホメ方もタイミングです。いい事をした瞬間を見逃さずにホメる。だから観察が必要。ただ可愛がるだけではダメです。そしてその子に夢を持たせるホメ方がいい。とにかくどんな子でもホメるところはある」(朝日新聞2000年11月25日朝刊より引用)

横山 泰行(よこやま・やすゆき)
富山大学人間発達科学部名誉教授
1942年岐阜県生まれ。1976年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。フルブライト交換留学生(ペンシルベニア州立大学)。富山大学人間発達科学部名誉教授。生涯スポーツ論専攻。教育学博士。ドラえもんアナリスト。登場人物が夢や悩みにどのように対応し、解決したかを考え、人生を豊かにする方法を模索する「ドラえもん学」を研究。主な著書に『「のび太」という生きかた』『「のび太」が教えてくれたこと』『「スネ夫」という生きかた』(アスコム)がある。

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