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長刀鉾の稚児(ちご)・長谷航太郎さん。祈りをつなぐ夏―祇園祭と家族の物語【後半】

  • 2026.7.23
撮影=星野裕也

【7月13日】白馬に乗って、八坂神社「社参の儀」へ

「吉符入りの儀」で多くの人々に稚児(ちご)舞を披露し、覚悟を新たにした稚児の長谷航太郎さん。13日は、禿(かむろ)とともに八坂神社の「社参の儀」に臨みます。

白馬に乗り、四条通を進む稚児の長谷航太郎さん。 撮影=星野裕也

「社参の儀」は「お位もらい」ともいわれ、「正五位少将」という十万石大名と同じ位を授かるもの。強力(ごうりき)と呼ばれる男性が、稚児をかついで白馬に乗せます。この日から正式な儀式では、神の使いとされる稚児は、自ら地面に足をつけることはありません。外出時は白馬に乗るか、人に抱えられて移動します。立烏帽子(たてえぼし)、水干姿の稚児は、禿に先導され、家族や稚児係、鉾町の人々とともに四条通を進みます。

多くの人々に見守られながら、向かうは八坂神社。 撮影=星野裕也

父の拓治郎さんと祖父の幹雄さんは、裃(かみしも)に袴姿で寄り添い、時折、航太郎さんを気遣うように見上げます。前週にも増して、暑さが厳しい京都の街。白馬にまたがる稚児は背筋をすっと伸ばし、その姿は実に凛々しく映ります。沿道からは熱い視線が注がれ、無事を祈る人々の思いもまた、航太郎さんへ届けられているかのようでした。

八坂神社へ到着した一行。 撮影=星野裕也
強力に支えられ馬から降りる稚児。 撮影=星野裕也


本殿前で「社参の儀」が執り行われ、神前で祭礼の安全や巡行の無事を祈願する。 撮影=星野裕也

この日を境に、稚児は巡行まで精進潔斎(しょうじんけっさい)の生活に入り、食事をはじめ稚児の世話はすべて男性が行うのがしきたり。稚児の家族にとって初めての経験が始まります。

【7月15日】山鉾巡行の無事を祈り、宵山神社参拝へ

祭見物の人で賑わいを増す7月14日から3日間、稚児や禿、関係者が夕方から八坂神社を訪れて参拝し、山鉾巡行の無事を祈願します。参拝後は祇園石段下から長刀鉾まで行列を組んで戻ります。

宵山神社参拝に向けてお仕度。 撮影=星野裕也
宵山参拝の様子。稚児の前を歩く、禿の長谷恭佑さん(右)と築地啓太さん(左)。 撮影=星野裕也


この日着用した着物は、三色の龍が雲や青海波とともに描かれた晴れやかな意匠。雲間を自在に駆ける龍は古くから吉祥や守護の象徴とされ、祭礼にふさわしい柄。 撮影=星野裕也
淡い水色の地に、赤・青・緑の龍が宝珠を追うように円環を描いて配されている。 撮影=星野裕也

【7月17日】そして、いよいよ本番の「山鉾巡行」

2026(令和8)年の祇園祭、長刀鉾の稚児、長谷航太郎さんの晴れ舞台は、澄み渡る空の下で幕を開けました。この日は23基の山鉾が四条烏丸を出発し、四条通、河原町通、御池通を巡行します。

山鉾巡行当日。仕度を整える稚児。 撮影=星野裕也
稚児は雲龍の金襴赤地錦、唐織霜地の二倍織表袴を身に着ける。稚児係・井尻さんがお着付け。 撮影=星野裕也
頭には、金銀丹青鳳凰の冠を。 撮影=星野裕也


早朝から長刀鉾会所で、稚児係・井尻浩行さんとともに仕度を整える稚児、禿。稚児の冠は金銀丹青鳳凰、装束は、雲龍の金襴赤地錦、唐織霜地の二倍織表袴、鳳凰の丸を浮織した木綿(ゆう)だすきという伝統装束。強力に担がれ、鉾に掛けられたはしごを登る途中、稚児が振り返ると、朝日に輝くような神々しさに人々は息を飲み、拍手を送ります。

稚児は強力に担がれ、長刀鉾会所を出発。 撮影=星野裕也


長刀鉾会所から鉾へ向かう稚児。 撮影=星野裕也


鉾に乗り、四条烏丸をいざ出発。 撮影=星野裕也

禿、稚児係に囲まれ、浴衣姿の父、祖父にしっかりと支えられた稚児は、鉾が動き出しても揺らぐことなく堂々とした姿を見せていました。四条麩屋町では、稚児の見せ場であり、神域への結界を切って進むという意味がある「しめ縄切り」が行われます。稚児は稚児係に支えられ、真剣である太刀を握り剣先に神を宿らせて、勢いよく振り下ろし、しめ縄切りは見事成功。

河原町通からはお囃子のテンポも軽やかになって、稚児は落ち着いた表情に。

四条通を行く長刀鉾。 撮影=星野裕也


四条麩屋町で執り行われた「しめ縄切り」の様子。 撮影=星野裕也


鉾を方向転換をするための「辻回し」の様子。青竹と水を使った伝統技法で行われる。 撮影=星野裕也
祇園囃子に合わせて、稚児舞を披露。 撮影=星野裕也
山鉾巡行を終え、晴れ晴れとした表情の稚児・航太郎さん。 撮影=星野裕也

気温が上昇するなか、巡行の後半でも稚児舞を丁寧に披露し、疫病鎮めを祈る祭の大役を果たしました。青空に彩られた一日は、家族にとっても忘れられない夏として心に刻まれ、祭を支えた人々の思いは、ひたむきに務めた稚児、禿から、また未来へとつながってゆくはずです。

◎長刀鉾の稚児(ちご)・長谷航太郎さん。祈りをつなぐ夏ー祇園祭と家族の物語【前半】はこちら

撮影=星野裕也 取材・文=大喜多明子 編集=吉岡尚美(本誌)

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