1. トップ
  2. 【新・フレンチシック特集】フランス女性の官能的なフェミニニティの今

【新・フレンチシック特集】フランス女性の官能的なフェミニニティの今

  • 2026.7.17
getty images

官能は細部に宿る! おしゃれは努力のたまもの

フェミニニティは時代の流れとともに変化しています。以前は、女性として頑張れば頑張るほどブラッシュアップされると信じられていたステレオタイプな女性像。その幻想から、フランスは少しずつ距離を置き始めているように感じます。これまでみんなが共通意識にしていた既製のフェミニズムよりも、今はそれぞれが個性を発揮して、新たな女性像を生み出している、生き生きとした人こそが、現代の魅力的な女性のイメージだと思われます。

パリで20年間雑誌の仕事をしていたので、いろんな人たちに会いました。モデルや俳優やアーティストたち、みんな自分たちの個性を見い出していました。たとえばショッピングしてきたばかりのドレスや小物をあえて自宅でしわくちゃにしたり、茶葉を浸した水に一晩つけて色合いを変えたり。なんとかしてこの世で唯一無二の自分だけのものにしようと努力をしていたのです。

そうしたセンスの光る高いレベルのおしゃれをする女性は、ファッションでも、ディテールに神経をとがらせていました。一緒に仕事をしていたモード・フォトグラファーの女性は、肩から見えるストラップの幅を、とても気にしていました。Tシャツの下からちらりと見えるだけですが、ストラップが細ければ細いほど、少し官能的で、繊細な印象を与えるからです。それもサテンの黒、またはピーチの、わずか数ミリのストラップだったら、なかなかセンシュアルだし、蠱惑的です。彼女はシモーヌ・ペレルのブラが好きでしたが、ストラップだけはもっと細くしたい、と言って付け替えていました。

getty images

欲望に執着するより余白あるアティチュードへ

少し前の時代は、パリでも美に対する欲望が途方もなく大胆だったし、自分の魅力を引き立たせるためなら、どんなに思い切ったことでもやり遂げたものです。ある有名ブランドで働いていた女性は、自分の足のサイズが大きいことに悩んでいて、小さなかわいい靴が履けたらどんなにいいだろうと考えて、手術で足の骨を削って、その夢をかなえました。

私自身パリで仕事をしていた1990年代には、パリではトップスに水着を着るのが流行っていて、私も水着を着て仕事をしていたのですが、とても不便で苦労しました。今は大分変わってきています。美のために苦痛を受け入れるよりは、むしろゆったりして余裕のあるアティチュードのほうが好感を持たれるから。少しばかり欠点があっても、むしろそれを前面に出すくらいの勇気を持つことで、それがその人の魅力を輝かせるとみなされるからです。パリのモード・ジャーナリストのソフィー・フォンタネルは、ある時からヘアカラーをやめて、自然に白髪のままにしたところ、それが注目され、雑誌のフリー編集者なのに、今では女性誌の表紙になるほど引っ張りだこです。

そうした傾向は、当然映画界でも見られます。今年のカンヌ国際映画祭のレッドカーペットで、ブラックサテンのルイ・ヴィトンのドレスで注目を集めたレア・セドゥも、実に自然な雰囲気が漂う魅力的なアクトレスです。新作『ジェントル・モンスター』では、素敵なピアニストを演じていますが、カンヌでのドレスはニコラ・ジェスキエールが、レアのために特別にデザインしたもので、'20年代のハリウッド女優のような、クラシカルなヘアもとても似合っていました。レアには何度か会ったことがありますが、柔らかく、ふわっとした印象の人で、ちょっと眠そうなまなざしですが、そんな彼女の人気は今もフランスで絶大です。

レアが『007』シリーズで演じたボンド・ウーマンも、歴代とは大分違っていました。以前は挑戦的でグラマラスな女性像でしたが、レアはまるで、「私はこれまでのボンド・ウーマンとは違うのよ」と主張するように、フランス女の気位の高さをちらつかせていました。

待つだけの姿勢では、素敵な相手に出会うチャンスはない、と彼女たちは知っていますが、だからといって自分を安売りはせず、結構プライドは高いし、恋の駆け引きも上手。男性側も、たとえ恋人になっても安心できないのは、もし彼女がワンランク上の男性を見つけたら、向こうにいってしまう可能性があるからです。

getty images

現代の蠱惑的な女性は生の感情あふれる人

フランスのアクトレスたちは、どんなに感じが良く見えても、本心は結構気難しく、そこがハリウッドとは少し違うような気がします。たとえばアン・ハサウェイというと、大輪の花のように華やかで笑っているイメージが浮かびますが、イザベル・ユペールに笑っている印象はありません。

蠱惑的な女性、というと少し前までは近寄りがたい存在だと思われていました。たとえばイザベル・アジャーニのような人です。蝋人形のような肌の美貌でしたが、スタジオのメイクさんは、「彼女はダイヤモンドの粉末を肌に入れている」と言っていました。真偽の程は知りませんけど……。

今は心が動いた瞬間にすぐに動き出すような、いつも自由で、恋をして、瞬発力を秘めた、生き生きとした女性が人気なのかもしれません。今年のカンヌ国際映画祭で濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』で岡本多緒と女優賞をダブル受賞したヴィルジニー・エフィラは、受賞の瞬間、信じられない、といったそのままの表情がテレビでも評判になっていました。弾けるような生の感情があふれていたからです。

官能性において、時代をさかのぼると、'50年代、'60年代のミューズ、ブリジット・バルドーにかなう女性はいないと思います。そしてもうひとり、いくつになっても官能的な魅力をふりまくモニカ・ベルッチ、彼女も時代を超えたミューズではないでしょうか。

男性の心を虜にする女性というのは、以前なら“同性の敵”とみなされていました。パリで何度も一緒に撮影をしたことのあるモニカの素顔は、同性に対してもとても優しく、子育てにも夢中な様子だったので、周囲の女性たちはすっかりモニカのファンになっていました。

ミューズ、といっても手垢のついた既製のイメージではなく、私生活でもオーセンティックで、モダンなミューズだったのです。そして恋多き女性でした。

文・村上香住子/翻訳家、作家、ジャーナリスト。1980年代からマガジンハウスや『フィガロジャポン』のパリ支局長を歴任。20年間のパリ生活のエッセイやパリ文壇との交流記『反記憶』(幻冬舎)など著書多数。近著は2024年『ジェーン・バーキンと娘たち』(白水社)。訳書にアンリ・トロワイヤのロシア文豪伝3部作『ドストエフスキー伝』『ゴーゴリ伝』『チェーホフ伝』(中央公論新社)など。

Hearst Owned

『おしゃれなマナー AtoZ パリで暮らして知ったミューズたちの素顔』

20年間、パリでジャーナリストとして活動していたときに出会ったセレブリティとのエピソードを通してつづる、パリの人々の素顔。ジェーン・バーキン、イヴ・サンローラン、フランソワーズ・サガンなど、その交流は映画界、モード界、文学界と多岐にわたる。村上香住子著 CEメディアハウス刊 ¥1,980'

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ