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館長はあの京極夏彦!言葉と印刷の世界に浸れる「印刷博物館」へ出かけよう

  • 2026.7.15

暑い日や雨の日におすすめのおでかけ先が博物館や美術館だが、晴れの日でも足を運びたくなるのが、東京都文京区にある印刷博物館だ。館長を務めるのは小説家の京極夏彦さん。歴史・文化・テクノロジーに好奇心があれば間違いなく楽しめる、都内屈指の知的おでかけスポットだ。

はるか昔、話し言葉や感情が絵や文字で記録されるようになり、印刷技術が誕生し、目覚ましい発展を遂げてきた。そして現在、インターネットの普及によって文字や表現があふれる時代となった。そんな世界がどのように形づくられてきたのかを、印刷博物館では専門的な内容も踏まえわかりやすくまなぶことができる。

印刷博物館のエントランス。ここから印刷文化への理解が深くなっていく 画像提供:印刷博物館
印刷博物館のエントランス。ここから印刷文化への理解が深くなっていく 画像提供:印刷博物館

印刷博物館って、どんなところ?

世界最大規模の総合印刷会社・TOPPANホールディングス(旧・凸版印刷)が、創立100周年を記念して2000年に開館した「印刷博物館」。古今東西の印刷物や活字、道具、機械など多数のコレクションから厳選された資料が展示されている。また、印刷と人類の深い関わりを歴史的・文化的な視点から見つめ直す、「印刷文化学」という独自の学問領域の確立にも力を入れている。

印刷工房内にも、貴重な印刷機械が並ぶのでしっかり眺めたい 画像提供:印刷博物館
印刷工房内にも、貴重な印刷機械が並ぶのでしっかり眺めたい 画像提供:印刷博物館

展示室のほかに、活版印刷が体験できる印刷工房、ライブラリー、ミュージアムショップなどが併設されているので、半日たっぷり過ごせる。常設展に加えて、テーマを絞った企画展も年に一度開催されている。1階にあるP&Pギャラリーでは印刷・デザイン・文化に関連したテーマの企画展が年に4回行われていて、入場無料で気軽に立ち寄れるのもうれしい。

印刷工房の壁面には活字がずらりと圧巻の光景 画像提供:印刷博物館
印刷工房の壁面には活字がずらりと圧巻の光景 画像提供:印刷博物館

最寄り駅の江戸川橋駅からの行き方は?

東京メトロ有楽町線「江戸川橋」駅の4番出口を出て、徒歩約8分。右へ進むと神田川にかかる石切橋が見えてくる。左手の横断歩道と橋を渡って蕎麦屋の前を右へ。奥にTOPPANの文字が輝く半円形の大きなビルを目指して歩こう。入口に球形の看板が見えたら、そこが印刷博物館入口だ。

江戸川橋駅から歩いて向かう場合の景色。奥にTOPPANビルが見えるので目指そう
江戸川橋駅から歩いて向かう場合の景色。奥にTOPPANビルが見えるので目指そう

展示室に入る前から感動!印刷博物館のスタート地点「プロローグ」

エスカレーターで地下へ降りると、ひんやりした空気が出迎えてくれる。これは、貴重な資料を守るために、しっかり温度管理をしているからだ。

展示室の手前に広がるのが、「プロローグ」と名づけられた廊下。ホールのような吹き抜けの大壁面に100点ほどのレプリカを使い、人類がどのようにヴィジュアル・コミュニケーションを発展させてきたのかわかるようにレイアウトされている。ゆっくりと歩きながら印刷の世界へと没頭できる空間だ。

プロローグの廊下。存在感のある黒い石碑はあのハンムラビ法典のレプリカだ 画像提供:印刷博物館
プロローグの廊下。存在感のある黒い石碑はあのハンムラビ法典のレプリカだ 画像提供:印刷博物館

南フランス・ラスコーの洞窟に残された鮮やかな壁画、「目には目を」の裁きで知られるハンムラビ法典の石碑、インカ帝国の伝達技術であった結縄キープ…。歴史的資料のレプリカがずらりと並ぶ。キャプションがついていないのは、「読む」のではなく「感じる」ことで印刷文化の流れを体感してほしいという狙いがあるのだそう。学芸員に、ここでは展示物に触れてもいいですよ、と言われ、悪いことはしていないが恐る恐るハンムラビ法典に触れてみる。ひんやりした感触とハンムラビ法典の文字たちが彫られた凹凸に、4000年前の世界と指先がつながったような気分になる。

 インカ帝国のキープ。これを使って結び目の数などで伝達をおこなったのだそう
インカ帝国のキープ。これを使って結び目の数などで伝達をおこなったのだそう
1964年東京オリンピックポスターを覚えている人もいるだろう
1964年東京オリンピックポスターを覚えている人もいるだろう

印刷文化の歴史を学べる常設展の見どころをピックアップ

見ごたえたっぷりのプロローグを歩き、もう満足しそうになっていたが、ガラス扉の展示室入口が見えてきた。そう、ここからが本番である。気分よく展示室に入ると一段とひんやりして薄暗い。貴重なコレクションを守るためには光、温度の調整が大事なのだ。

展示室マップをみると、日本の印刷史を中心に古今東西の印刷文化の歴史を体系立てて理解できるようになっている。順路に沿って展示室を回ってみよう。まずは日本の印刷文化を辿るエリアへ。

常設展「印刷の世界史エリア」にある貴重なコレクションは絶対に見ておきたい 画像提供:印刷博物館
常設展「印刷の世界史エリア」にある貴重なコレクションは絶対に見ておきたい 画像提供:印刷博物館
常設展「印刷の世界史エリア」では人類の叡智を感じ取れる 画像提供:印刷博物館
常設展「印刷の世界史エリア」では人類の叡智を感じ取れる 画像提供:印刷博物館

常設展「印刷の日本史エリア」の第一の見どころは、大変貴重な文化財である“百万塔陀羅尼”(ひゃくまんとうだらに)。764〜770年に称徳(しょうとく)天皇の発願によって印刷・制作されたもので、製作年が明らかな現存する世界最古の印刷物とされている。国家の守護と安泰を祈るメッセージとして、陀羅尼100万枚が印刷され木製の高さ20センチほどの三重塔に納められている。完成後は東大寺や法隆寺など、当時の十大寺に10万基ずつ分納された。10万基✕10寺で100万か…とまずはその数を当時手作りしたのにびっくりするが、本物をじっくりと見ていると、なんだかその字体に惹きつけられ、木彫りの塔の温かみが伝わってくるはずだ。当時作られた100万個すべてに手間暇と情熱がこもっていたに違いない。

1250年以上前に、100万枚印刷とは。百万塔陀羅尼が持つパワーがガラス越しに伝わってくる
1250年以上前に、100万枚印刷とは。百万塔陀羅尼が持つパワーがガラス越しに伝わってくる

重要文化財の駿河版銅活字もじっくり見てみよう。徳川家康が作らせた、日本初の銅製の活字である。海外から活版印刷がもたらされたことにより、江戸時代初期に各大名が競うように活版印刷を行ったが、そのほとんどは木活字だった。金属活字と、それによって印刷された書物を合わせて鑑賞したい。漢字やかななどを使う日本語という言語には当時木版の方が適していたということで木版に回帰し、やがて銅活字も木活字も下火になっていったのだそう。

駿河版活字。徳川家康が作らせた銅でつくられたもの。重要文化財である
駿河版活字。徳川家康が作らせた銅でつくられたもの。重要文化財である

「印刷の世界史エリア」で世界の印刷の歴史について観覧中、活版印刷の父・グーテンベルクのおもしろい話を教わった。グーテンベルクは活版技術を西洋で実用化し、印刷文化の発展に大きく貢献した人物だ。ところが本人は事業に失敗して借金を抱え、工房は解散してしまう。彼の工房で学んだ弟子たちが各地へ散らばったせいで、活版印刷はヨーロッパ中へと広がっていったという。グーテンベルグは天才的な職人・研究者ではあったが、商売はあまり得意ではなかったようだ。そんな意外な一面を知ると、歴史上の偉人がぐっと身近に感じられる。なお、金属活版印刷は朝鮮が歴史上で一番先に発明していて、世界遺産にもなっている。

グーテンベルグによって作られた印刷機は現在は残されていない。写真想定復元したものを80%の大きさに複製した貴重なものだ
グーテンベルグによって作られた印刷機は現在は残されていない。写真想定復元したものを80%の大きさに複製した貴重なものだ

日本エリア、世界エリア、と回っていると、ところどころにコラムや体験活版ゲームなどがある。そこでふっと集中を解き、気分転換をして次の展示に向かうことができる。

活版の仕組みがわかるミニゲームもある。意外と難しい
活版の仕組みがわかるミニゲームもある。意外と難しい

館長は、あの京極夏彦さん

現在の印刷博物館館長を務めるのは、小説家の京極夏彦さんだ。自身の小説では、文字の配置や余白など、印刷した際の見え方にも強いこだわりを持ち、専用ソフトを使ってページのレイアウトまで自ら手がけることでも知られる。そんな本づくりへの深い情熱を持つ作家が、印刷博物館の館長というのも、ぴったりだと思ってしまった。

1階にある「ミュージアムショップ」には、京極ファンにはうれしいグッズが充実しているのでぜひチェックしてほしい。京極館長が監修のオリジナル妖怪ステッカーが出てくるガチャガチャは、展示室入口そばにある。

 京極館長が監修したというガチャはコンプリートしたくなる
京極館長が監修したというガチャはコンプリートしたくなる

活版印刷が体験できるワークショップ「印刷工房」は、要予約で行く価値あり

館内の印刷工房では、インストラクターの指導のもと活版印刷が体験できる(要事前予約・無料、入館料別)。メッセージカードやしおり、グリーティングカードなど、さまざまな活版印刷を楽しめる。体験内容は定期的に変わるので何度来ても楽しめる趣向だ。

丸い円盤にはインクがべったりと塗られ黒くなっている
丸い円盤にはインクがべったりと塗られ黒くなっている

好きな文字の活版を選んで、つまんで、組んで、円形のインクローラーで版に色をのせて刷る。手作りの味わいが感じられる。活版インクは油性で定着力が強く、服や髪についたらまず落ちないそうだ。

活字を組んでいく。仕組みとコツをおしえてもらおう
活字を組んでいく。仕組みとコツをおしえてもらおう
印刷したてのものはカード立てにいれてインクを乾かす
印刷したてのものはカード立てにいれてインクを乾かす

大人気の夏休み体験教室の一つである「硬券印刷体験」ワークショップの抽選にも、ぜひ挑戦したい。硬券とはかつて駅員さんが改札鋏で一つひとつ切り込みを入れてくれた、あの小さな乗車券だ。専用紙を裁断して活版印刷機で刷り上げる工程は、マニアじゃなくても胸が高鳴る。体験では宮沢賢治『銀河鉄道の夜』に登場する4つの駅の硬券切符が刷れる。印刷所で働いていたジョバンニにしばし思いをはせて、ノスタルジックな気分になること必至だ。この硬券を作る機械、実は大変貴重なものなのだそう。このマシン以外にも、この工房には印刷に使われていた昔の貴重な機械がコレクションされている。印刷を愛するスタッフたちによって、機械は定期的に使われ、手入れされ守られている。

銀河鉄道の世界に浸らせてくれる硬券をつくってみたい
銀河鉄道の世界に浸らせてくれる硬券をつくってみたい
硬券を印刷することができる機械も大変貴重なものだ
硬券を印刷することができる機械も大変貴重なものだ

ミュージアムショップも、見逃せない

1階にあるショップには印刷文化にまつわる和洋書なども販売。大人気のフォントかるたは三種類ものラインナップで、挑戦したくなる。珍しいのは、家康肝いりの駿河版を模した活版シュガー。活字を型どった角砂糖で、オリジナル製品なので手土産に重宝するという。先述した京極夏彦グッズもこのショップで売っているので要チェックである。

ミュージアムショップオリジナルの駿河版シュガー。TOPPAN社員から手土産として大人気だそう
ミュージアムショップオリジナルの駿河版シュガー。TOPPAN社員から手土産として大人気だそう
ミュージアムショップにはフォントかるたが数種類販売中。話題の「拡張パック 明朝体」は、明朝体を見分けるかるた
ミュージアムショップにはフォントかるたが数種類販売中。話題の「拡張パック 明朝体」は、明朝体を見分けるかるた

印刷博物館の公式YouTubeがおもしろい!

印刷博物館に行きたいが、なかなか時間がないというときは、公式YouTubeを見ると知的好奇心が満たされるのではないだろうか。印刷博物館公式YouTubeには京極館長が出演する動画もあったり、見ごたえ抜群だ。

印刷博物館

住所:東京都文京区水道1-3-3 TOPPAN小石川本社ビル 1階・地下1階

電話:03-5840-2300

時間:10時〜18時(入場は17時30分まで)

休み:毎週月曜(祝日・振替休日の場合は翌日)、年末年始、展示替え期間

料金:一般500円、学生200円、高校生100円、中学生以下・70歳以上無料

*団体料金あり、企画展の開催時には入館料が変更になります

*障がい者手帳(アプリ含む)をお持ちの方、および付き添いの方1名は無料

アクセス:東京メトロ有楽町線江戸川橋駅4番出口から徒歩約8分

取材・文=レックス

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