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同じ景色でも「見る場所」は人それぞれ、視線に“注意の指紋”を発見

  • 2026.7.12
視線は”注意の指紋”かもしれない / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

初めて入ったカフェで、あなたは最初に何を見るでしょうか。

客の表情、メニュー、壁の装飾など、どこに目を向けるかには、その人なりの安定した傾向があるようです。

米ダートマス大学(Dartmouth College)の研究チームは、こうした視線のパターンが、別の景色や別の日にも繰り返される「注意の指紋」になっている可能性を示しました。

研究成果は2026年6月12日付で、科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載されています。

目次

  • 同じ風景を見ても、人は同じ情報を見ていない
  • 観察が進むほど「意味」が視線を強く導く

同じ風景を見ても、人は同じ情報を見ていない

私たちは、周囲の景色をカメラのように均等に記録しているわけではありません。

目の前に人や文字、道具、建物があっても、実際に詳しく見るのはその一部だけです。

これまでの研究では、画面の中央にあるものや、目立つ色や形を持つものが視線を引きつけると知られていました。

しかし研究チームは、視線を導くのは位置や見た目だけでなく、その人の知識や経験と結びついた「意味」ではないかと考えました。

たとえば、国旗と軍用機は外見が大きく異なりますが、「国家」や「愛国心」といった抽象的な概念ではつながっています。

そのため愛国心の高い人は、数ある物の中でも国旗や軍用機に視線が移りやすいかもしれません。

人は場面が変わっても、経験や知識に基づく概念的な注意の傾向に沿って、特定の情報へ目を向けている可能性があるのです。

こうした点を詳しく調べるため、61人が参加する実験が行われました。

参加者は視線追跡装置を備えたVRヘッドセットを装着し、自動車整備工場や公共プール、空港など、100種類の360度実写環境をそれぞれ16秒間自由に観察しました。

頭や体を動かして周囲を見回すこともでき、研究者らは、どこをどれほど長く見たかを記録しました。

さらに場面を細かな区画に分け、3種類のモデルで視線を予測しました。

画面上の位置を扱う「空間モデル」、物体の色や形を扱う「画像モデル」、物体同士の関係や用途などを扱う「概念モデル」です。

概念の分析には、人間の評価者が書いた場面の説明文を、言語モデルBERTで数値化したデータが使われました。

その結果、集団平均から作ったモデルよりも、本人の視線データから作ったモデルの方が、その人の視線を正確に予測しました。

つまり、視線には人それぞれの傾向があり、まるで「指紋」のように個人を予測するのに役立ったのです。

また、その人らしい視線の違いを最も強く捉えたのは、対象の意味を扱う概念モデルでした。

では、この「注意の指紋」は具体的にどのように表れたのでしょうか。

より詳細な結果を次項で見ていきます。

観察が進むほど「意味」が視線を強く導く

参加者本人のデータから作った概念モデルは、他人のデータから作ったモデルより、その人の視線をよく予測しました。

これは、同じ景色を見ても、人によって繰り返し注意を向けやすい「意味」が異なる可能性を示します。

実際に、ある参加者が特に注目した場所を意味の近さで分類すると、キーボードやメモ帳などの「書くこと」、壁の装飾やモールディングなどの「室内装飾」といったまとまりが現れました。

外見や場所の異なる物体でも、概念的につながっていれば、同じ人の注意を引くことがあったのです。

ちなみに、視線を導く情報の強さは、観察時間とともに変化しました。

初期には画面中央や地平線付近といった位置の影響が強く、その後に物体の形や外見の影響が現れました。

さらに観察が進むと、対象の意味や関係性を扱う概念モデルの予測力が高まりました。

概念モデルが個人差を捉える力は、観察開始から6秒以降に空間モデルを、8秒以降には画像モデルを上回っています。

研究チームは、これが、まず空間を大まかに捉え、その後に場面の意味を理解していく過程を反映している可能性があると考えています。

さらに再検査では、分析対象となった26人が7~9日後に新しい40場面を観察しました。

最初の実験から作った本人用モデルは、2回目にも他人のモデルより本人の視線をよく予測しました。

視線の個人差には、その日の気分や疲労だけでは説明できない、比較的安定した傾向が含まれていたのです。

今回わかったのは、私たちが知識や経験、期待をもとに、目の前の世界から異なる情報を選び取っているということです。

同じ景色を見ていても、私たちの目が拾い上げている「世界」は、一人ひとり少しずつ違っているのです。

参考文献

Eye movements reveal personal ‘fingerprints’ as people explore unfamiliar scenes
https://medicalxpress.com/news/2026-07-eye-movements-reveal-personal-fingerprints.html

元論文

Conceptual priorities shape individual gaze patterns during naturalistic visual attention
https://doi.org/10.1073/pnas.2604369123

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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