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貫地谷しほり、“産後初舞台”挑む「もし私が成功しなければ、明日みんな死んでしまうかも」こまつ座代表・井上麻矢と思い語る

  • 2026.7.8
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貫地谷しほり クランクイン! 写真:五十川満

井上ひさしが遺した不朽の名作『頭痛肩こり樋口一葉』が、2026年夏、こまつ座第160回記念公演として上演される。明治の激動期に若くして一家を支えた夏子こと樋口一葉と、彼女を取り巻く女性たちが織りなす切実で愛おしい命の物語だ。2022年に続き、主演を務めるのは貫地谷しほり。4年ぶりの再演へ向けて、作品が持つ普遍的な魅力や、それぞれのライフステージを経て深まる役へのアプローチについて、貫地谷とこまつ座代表の井上麻矢2人に話を訊いた。

【写真】産後初舞台! 笑顔が素敵な貫地谷しほり

■2回目の“樋口一葉”役に挑む覚悟

――今作はこまつ座にとって第160回の記念公演という大きな節目での上演となります。まずは、今の率直なお気持ちを聞かせてください。

貫地谷:4年前、こまつ座さんの舞台に初めて立たせていただきました。役者を始めたときから、いろいろな先輩方に「一度はこまつ座に出た方がいい」と言われていて、こまつ座は役者として通るべき道のようなものだと教わってきましたので、また同じ役を演じられる、戯曲を深堀りできることが本当にうれしく、今からすごく楽しみです。ただ、再演ということで今回は稽古期間が短いようで、ちょっとドキドキもしていますが(笑)、本当に多くの方に観ていただきたいです。

井上:この『頭痛肩こり樋口一葉』は、私たちの財産演目でもありまして、本当に大切に上演を重ねてきた作品です。すでに観たことがある方も、まだない方もいらっしゃると思いますが、井上ひさしの言葉を借りれば「毎年お盆の時期にこれをやってほしい」とおっしゃって頂くほど、私たちにとっては思い出の深い大切な作品です。今回、素敵な貫地谷しほりさんが前回に引き続いて一葉を演じてくださることを、本当にうれしく思っています。

――井上代表からご覧になって、この作品にはどのようなテーマがあると考えていらっしゃいますか。

井上:一葉は日本で初めての「職業夫人」と言って良いほど、その当時女性がものを書いて自立するなんて本当に稀有なことでした。作品の中では19歳で戸主として家を支えていますが、実際にはもっと随分若い時から一家を支えざるを得ない状況に置かれています。昨今の言葉で言えば、まさに「ヤングケアラー」だったと言えるかと思います。ただ、そうした社会背景を別においても、この作品には「亡くなった方たちから何を受け継いで、これからの時代に何を託せばいいのか」という普遍的なテーマが織り込まれていると考えています。

――貫地谷さんは、戯曲の印象をどのように受け止められましたか。

貫地谷:やっぱり「日本のシェイクスピア」と言われるくらいですから、セリフのリズムがすごく心地いい。面白おかしいけれどすごく悲しくて、でもその悲しいことを面白おかしく描いている。人が一生懸命生きている姿って、傍から見るとクスッと笑える部分があったりして、見終わった後に私自身もたくさんの学びがありました。

――以前にも井上ひさしさんの戯曲に出演されていますよね。

貫地谷:20代のときに、シス・カンパニー公演の『泣き虫なまいき石川啄木』(2011年)という舞台に出させてもらったのが最初でした。そのとき、共演者の皆さんが「いや、井上さんの作品はここがこう……」ってずっと熱く語り合っていらっしゃったんですが、当時の私は全く分からず。「そうなのか」と思いながら、すごくあっけらかんと現場にいたな、と思い出しますね。今読んだら、きっとまた全然違う印象になるのではないでしょうか。

――本作への出演は2回目となりますが、初演時と比べて心境の変化はありますか?

貫地谷:そうですね、やっぱり4年という時間が経っていることもありますし、私自身も出産をして母親になりました。映像作品の撮影などはありましたが、この作品が産後に女優として皆さんの前に立つ最初の舞台になります。子どもが生まれてから、以前よりも世間のニュースに目が向くようになりました。だからこそ、もっと地に足のついた一葉が演じられるんじゃないか、と。前回は「作家になるんだ!」という一つの希望に向かって突き進むような一葉だったんですが、今回は本当に「どうにかして生きていかなきゃいけない」という――もし私がこれで成功しなければ、明日みんな死んでしまうかもしれないという、もっと切実な思いを強く感じ取れているような気がしています。一葉って若くして亡くなってしまいますし、年齢的にはすごく若い。だけど、今の私たちの感覚からすると全然若くないというか、もう60歳くらいに老成しているイメージです。一家を背負い、貧乏にあえいでいた人なので、私なんかよりもよっぽど大人っぽい人物じゃないかと捉えています。

■「やっぱり、女優が6人集まれば…」楽屋の様子にほっこり

――演出は今回も栗山民也さんが手がけられます。栗山さんの演出の魅力、心に残っている言葉などはありますか?

貫地谷:栗山さんといえば、もう日本を代表する一番の演出家と言っても過言ではない方。実は今日、前回の台本を持ってきているのですが、付箋がたくさん貼ってあって、栗山さんに言われたことがたくさん書いてあります。栗山さんは、本当にたった一言でハッとさせられるようなことをおっしゃるんですよ。その一言で、お芝居がガラッと変わる。栗山さんの舞台って、照明もセットも衣装も、どんどん削ぎ落とされてシンプルになっていって、それが本当にかっこいいんです。今回も稽古時間は少ないですが、そんな短い時間でも、栗山さんはきっと私たちに魔法をかけてくれるんじゃないでしょうか。

井上:栗山さんは稽古場の中で一番、生き生きとされていますね。現場に入ったら、ご自身も心を明治の時代に置いて生活されているとお聞きしたことがあります。栗山さんの言葉を聞いていると、「演技をしてほしい」というよりも、「その時代に生きる人になってほしい」という、今を生きる俳優さんにとっては大変な無理難題をおっしゃっていて。でも、華美で派手なものではなく、削ぎ落とすことで、本当にその時代に生きた人たちを一瞬でも劇場に蘇らせる。今回も全員で一葉が生きた時代にワープして、人が生きることの豊かさや、次の世代に何を遺すのかに思いを馳せられるような演出になるはずです。

――ちなみに、台本のメモには、どんなことが書かれているのでしょうか。

貫地谷:栗山さんが若手時代、井上さんのところに原稿をもらいに行っていたときに感じたお人柄なども稽古場で話してくださったんですけど、そのお話で聞いた「井上さんは幸せの代償として必死に生きることを課している」という言葉をメモしています。この一言だけでも、当時の時代がいかに大変だったかが分かりますよね。そして、私はその時代を本当に生きているかのように見せなければならない、と大切にしている言葉です。

井上:栗山さんがよくおっしゃっていたのですが、しほりさんはホワッとした雰囲気の中に、普遍的な女性の強さや、ものを見る「眼力」をちゃんと持っていらっしゃるんですね。下町にどっぷり浸かって庶民の声を聞き、ピンからキリまでの女性を見つめ観察した一葉の眼力に、しほりさんは本当にぴったりですね。

――キャストには、増子倭文江さん、香寿たつきさん、瀬戸さおりさん、岡本玲さん、若村麻由美さんとそうそうたる顔ぶれが並びました。共演に際し、楽しみにされていることはありますか?

貫地谷:やっぱり、女優が6人集まれば、楽屋はもう美容の話で大盛り上がりでございます(笑)。毎日毎日、「何が良かった」とか、皆さんのアップデートされた情報を交換し合うのが、ものすごく楽しみです。劇中の場面だと、香寿たつきさんが演じていらっしゃる、お鑛(こう)様が、崩れていくシーンが楽しみですね。お鑛様は、普段はしゃんとしていて、きりっとした武家の娘といったイメージなんですけども、物語が進むにつれてどんどん崩れていって……。それで言うと、劇中でみんなが酔っ払っているシーンがありまして、今回は皆さんがどんな感じでやるのかすごく楽しみにしています。私はそのシーンに入っていないので、客観的に楽しめるんです。

井上:お鑛さまやお母さんの多喜さんたちが酔っ払ってしまうシーンですね(笑)。実は彼女たちって、一葉が書いた物語の中の主人公たちでもあって、一葉の頭の中で起きていることが舞台化されているような、そんな面白みもあるんですよね。

■役者という仕事は「AIには代われないもの」

――稽古に向けて準備したいことはありますか?

貫地谷:前回のときもそうだったんですけど、この作品のような畳芝居って、本当に体がおかしくなるんです。みんな「腰が痛い」「肩が痛い」って、あちこち悲鳴を上げていきます。でも、私はずっとパーソナルトレーニングに週に2回通っていまして、そのおかげもあってか前回はまったく痛いところもなく終えることができました。ただ、最近はちょっと子育てもあってトレーニングに行けていないので、ちゃんと再開して痛くならない体を作りたいなと思っています。やっぱりストレッチをして体を動かすことって本当に大事ですね。

――それはすごい。身体的な不安はなさそうですね。

貫地谷:いや、産後あるあるらしいんですけど、視力が落ちてしまっていて……。戻ると言われているんですけど、割とまだ戻っていないんです。でも、一葉ってすごく近眼の役なんですよ。だから、前回よりももっと一葉の気持ちが分かるはず(笑)。ト書きにあるような「ぼーっとしているマイペースさ」とか、そこからくるおかしみみたいなものを、今回はよりリアルに出せたらいいですね。

――役作りにはなりそうですが、早く視力が戻られるといいですね。一葉が生きた明治は「女子に学問はいらない」と言われるような時代でした。本作のような作品は、令和の観客にはどのように届くでしょうか。

貫地谷:今は女性が職業を持つことが当たり前の時代になりましたけれど、それも一葉のような女性たちの活躍やつらい葛藤という「礎」があったからこそ。最近は、AIの普及が本当にすごくて、私自身も課金して何でも相談しているくらい使っていますが、だからこそ、役者という仕事は「AIには代われないものだ」と、最近は改めて強く実感しています。いくら優れたCGが出てきても、やっぱり劇場というあの空間でしか味わえないエンターテインメントがある。そのエンターテインメントが、これからの時代にさらに重要な役割を担っていくんじゃないでしょうか。

――劇場で生身の人間が演じるからこそ、手渡せるバトンがある、と。

貫地谷:私自身、小学生のときに学校に演劇が来てくれたのを観て、それがすごく面白かったことが、とても心に残っているんです。そこで「日本人としての核」みたいなものを教えてもらったような気がしています。今度は私たちがそういうものを、お芝居を通して皆さんにお届けできたらいいですね。

――最後に、公演を心待ちにしている読者の皆さんへメッセージをお願いします。

貫地谷:日々生きていて、「お金がない」とか、「明日どうしよう」とか、つらい瞬間って誰にでもあると思います。この舞台に出てくる人たちも、みんな明日死んでしまおうかっていうくらい必死に悩んでいます。でも井上さんのお芝居って、みんなが一生懸命生きているからこそ、すごく素敵なコメディになっているんです。「私は今こんなにつらいけど、後で笑えるかもしれない」って、どこかで思えるようなきっかけになったら嬉しいです。ぜひ劇場に足を運んでください!

(取材・文:宮崎新之 撮影:五十川満)

こまつ座第160回公演『頭痛肩こり樋口一葉』は、7月29日から8月30日、紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演。

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