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“型にはまらない俳優”ク・ギョファンが語る『サヨナラの引力』の魅力「愛は一度は誰もが経験すること」

  • 2026.7.2

芸達者の多い韓国芸能界にあっても、これほど立て続けに映画人からのラブコールを受け、出演作が相次ぎながらも、特定のイメージや枠にとらわれない演技をする役者はそう多くはない。ただスクリーンのなかに存在するだけで、人物を作ってしまえる俳優。それがク・ギョファンだ。『サヨナラの引力』(7月3日公開)で演じたウノもまた、例外ではない。

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「ムン・ガヨンさんとは恋人役ではなく、親しい友人や敵同士としてでもうまく演じ切れたでしょう」

2008年の夏。ソウル発の⻑距離バスの中で、故郷の高興(コフン)へ向かうウノは、同じバスに乗っていたジョンウォン(ムン・ガヨン)に一目惚れする。ウノは想いを言い出せず、友達として彼女に寄り添い続ける。ク・ギョファンは誠実なウノそのものだ。彼は本作において、「普通のロマンス映画は恋愛までしか映し出さないが、『サヨナラの引力』はその後を描いている点に惹かれた」と語っており、シナリオに惚れ込んで出演を決めたという。なにより「以前からキム・ドヨン監督の作品やムン・ガヨンさんの出演作の大ファンだったので、オファーをいただいただけで、私にとっては奇跡が起きたんだと言えますね」と喜びを口にした。

かけがえのない恋と別れを爽やかに描いた『サヨナラの選択』 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
かけがえのない恋と別れを爽やかに描いた『サヨナラの選択』 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

ク・ギョファンとムン・ガヨンが恋愛映画の主⼈公を演じるのは、本作が初めてだ。それにもかかわらず、2人のやり取りは実に自然で、それが本作の最大の魅力となっている。キム・ドヨン監督も、2人がアドリブで呼吸を合わせて作り上げたシーンがいかにすてきだったかを語っている。例えば洗車場でタオルを絞り上げるシーン。ク・ギョファンがぐるりと回る茶目っ気にムン・ガヨンが応えたことで、コミカルかつ微笑ましいムードが作り上げられた。

劇中に登場する、二人の青春を象徴する出来事やアイテムも必見 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
劇中に登場する、二人の青春を象徴する出来事やアイテムも必見 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「お互いに事前に細かく動きを決めていたわけではなく、洗車場という空間で2人が自然に楽しめることや、その時間を心地よく過ごせるやり方を探りながら演じていました。私がぐるっと回るとムン・ガヨンさんも同じく回ってくれて、それだけでおもしろいシーンが出来上がったんです。改めて振り返ると、とにかく相性が良かったんじゃないでしょうか。ムン・ガヨンさんとは恋人役ではなく、親しい友人や敵同士としてでもうまく演じ切れたでしょう。俳優の皆様やスタッフの方々といった制作陣の深い親交があれば、結果的に良い作品が出来上がるといつも確信しています」

息がぴったりだからこその名シーンの数々 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
息がぴったりだからこその名シーンの数々 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

ムン・ガヨンと共に作り上げたシーンだけでなく、繊細で不器用なウノの人物造形においてもク・ギョファンだからこそ観客の心に響く表現となっている。ジョンウォンが憧れている先輩ミンジェ(イ・サンヨプ)は、スマートで女性の扱いに慣れていて、金銭的にも恵まれている。一緒に参加した飲み会でウノは、嫉妬のあまり料理のムール貝を殻まで食べてしまう。笑いを誘う一方、手強い恋敵への情けない姿は誰しも経験があるようにも感じられる。キム・ドヨン監督から「いたずらっ子のような魅力を持つ」と評されたク・ギョファンならではの親近感のあるシーンのようにも思える。だが彼は、アドリブを多用し⾃由奔放に⾒えながらも、決して自分の感覚だけで演じているわけではない。

【写真を見る】爽やかストライプシャツのク・ギョファンをスペシャルシュート! 撮影/JANG HOMIN
【写真を見る】爽やかストライプシャツのク・ギョファンをスペシャルシュート! 撮影/JANG HOMIN

「たしかに脚本にはないのでアドリブと言えばそうですが、突然カメラが回った時にした即興というよりは、撮影現場のリハーサルで監督とたくさん意見を交わし、動きを合わせながら作り出したシーンが多かったです。私は監督の意図と演出に忠実に、シナリオに書かれたどおりに動くよう努めています。ある監督の作品に俳優として出演するということは、その監督の世界に入り込むということですよね。私は監督たちの世界を理解するために、撮影現場では監督と仲良くなろうと力を注いでいます。演じる役に自分自身の性格を持ち込むことは、ほとんどありません」

「遊びであり、仕事でもあり、シーンが形になっていく過程そのものが特別な思い出」

ク・ギョファンが持ち合わせている俳優としての雰囲気に強く惹かれたキム・ドヨン監督の期待に応えるように、ク・ギョファンは監督とともにウノというキャラクターを一緒に完成させた。とりわけ、ジョンウォンと出会った2008年と飛行機の中で再会した2024年でのルックスのギャップは、ただウノが成長したというだけではない、心境の変化を感じさせる。

劇中のファッションのなかにはク・ギョファンの私物を取り入れたこともあったそう [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
劇中のファッションのなかにはク・ギョファンの私物を取り入れたこともあったそう [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「印象的だったのは、物語が進むにつれウノのファッションが少しずつシンプルになっていく演出です。序盤の彼は、チェックのシャツなど複数の服を重ね着することが多く、それがウノの複雑な内面を表していました。後半では徐々にレイヤードスタイルが減っていって、再会したシーンではかなりシンプルでスタイリッシュになっている。ウノの心理的な変化を視覚的に表現していたんです。かなりおもしろいと思いました。これも私が特別に何かを表現したというよりも、監督のディレクションや衣装チームのデザインに従いながら一緒に考え抜いて作り上げた結果だったと思います」

「特定のシーンのエピソードをお話するのは少し難しいんです」と、ク・ギョファンは一つの場面だけを切り取って語ろうとはしない。それは彼にとって、ワンカット、ワンシーン、ワンシークエンスがすべて宝物だからなのだろう。「私にとっては、映画のシーンのすべてを撮影すること自体がエピソードなんです。それは遊びであり、仕事でもあり、シーンが形になっていく過程そのものが特別な思い出なんです」。

暖かな時間が流れるウノとジョンウォン [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
暖かな時間が流れるウノとジョンウォン [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

すべてのシーンを大切にしていることは、キム・ドヨン監督から聞いた撮影現場での様子にも現れていた。監督はムン・ガヨンに小さなデジタルカメラを渡していたそうだが、ク・ギョファンもカメラを手に取り、互いを撮影し合っていたという。インタビュー中にその写真たちを見せると、彼は指で写真に触れながら、「こうやって写真を押すと、再生されて動き出しそうです」と笑みを浮かべ、撮影現場での日々を愛おしそうに振り返った。

「結局、残るのは写真だと思います。写真にはその時の物語がすべて詰まっていて、いま見返しても当時の撮影現場の記憶が、鮮やかによみがえります。ムン・ガヨンさんが私の写真を何枚も撮ってくださいましたし、私もこの思い出を大切にしたくてたくさん写真を撮りました。表に出るのは私たち2人の写真だけですが、共演者の方々や監督、スタッフのこともたくさん撮ったんです。こうして残した写真は思い出のアルバムであると同時に、映画そのものだったと思います」

「映画が終わったあとも、自身の経験や感情を重ね合わせながら、愛について考え続けてくださっているように感じます」

『サヨナラの引力』は単純に結末を言い切ることのできない、深い余韻を残す作品だ。そのためク・ギョファンは、ウノがジョンウォンと別れたあとの人生については多くを語らない。その姿勢からは、ク・ギョファンが本作が持つ余白を大切にしていることがうかがえる。

映画にドラマと次回作にも期待が高まる 撮影/JANG HOMIN
映画にドラマと次回作にも期待が高まる 撮影/JANG HOMIN

「観客の皆さんのレビューを読んでいると、本当にそれぞれに愛の物語がたくさんあるんだと気づかされました。映画が終わったあとも、自身の経験や感情を重ね合わせながら、愛について考え続けてくださっているように感じます。この映画は、スクリーンのなかで完結する作品ではないのかもしれません。愛は一度は誰もが経験することなので、観客の皆さん一人ひとりの物語が加わることで完成するのだと思います。最終的なエンディングは観客の皆様が作り上げてくださるものではないでしょうか」

ウノとジョンウォンの恋愛模様に多くの観客が共感した [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
ウノとジョンウォンの恋愛模様に多くの観客が共感した [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

ウノとジョンウォンの物語が、観客たちのストーリーでさらに紡がれ、また別のエンディングを持ってほしいと望むク・ギョファン。そういえば本作のなかに、ウノが「ゲームはマルチエンディングだから好き」というセリフがある。様々な捉え方ができる映画もまた、マルチエンディングを持つ芸術とも言える。もしかすると、ク・ギョファンが映画を愛し続けているのも同じ理由なのだろうか。

余白を残したからこそ深いキャラクターとなったウノ [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
余白を残したからこそ深いキャラクターとなったウノ [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「おっしゃる通り、映画もまたマルチエンディングなのだと思います。でも、私が演技を続けているのはそれだけではありません。私は撮影現場という場所がとにかく好きなんです。俳優という職業をとても愛しています。私にとって現場は楽しい遊び場であり、大切な仲間たちと時間を共有できる場所でもあります。それぞれが自分の持ち場で力を尽くし、1つの作品を生み出していく。その創作の過程そのものを心から愛しているんです。物語を愛し、物語を表現するプロセスに私が俳優として参加できること自体が本当に幸せなんです」

ソウル芸術⼤学映画学科卒業後、インディペンデント映画を中⼼に演技だけでなく脚本、演出、編集などにも携わりながらキャリアを積んできたク・ギョファン。今年5月に開催された第22回ミジャンセン短編映画祭の公式トレーラー『最高の観客(原題:최고의 관객)』はク・ギョファンが監督を務め、宣伝映像でありながらも彼特有の味わいが詰まった短編映画のような作品だった。本人に今後出演したい作品を尋ねた際、「私が監督を務め、主演も演じる作品に挑戦したいです」と嬉しそうに語ったところを見ると、やはり映画作りに対して強い思いがあるようだ。

「ジャンルにこだわりはなく、自分が惹かれる物語や、興味を持てる人物であることが大切ですね。まだ具体的には決まっていませんが、そんな作品で皆さんにお会いできればうれしいです」

取材・文/荒井 南

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