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カップの手触りで「コーヒーの味が変わる」と判明

  • 2026.6.19
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

コーヒーの味は主に、豆の種類や焙煎、抽出方法で決まるものです。

しかし、私たちが感じている「味」は、舌だけで作られているわけではありませんでした。

中央大学の研究チームは今回、コーヒーを飲むときの「手触り」が味覚評価に影響することを明らかにしました。

研究によると、ざらざらしたスリーブのカップで飲む場合よりも、さらさらしたスリーブのカップで飲む場合の方が、コーヒーの酸味が弱く感じられたのです。

しかもこの効果は、カップそのものではなく、反対の手で触っている別の物体でも起こることが示されました。

研究成果は2026年6月3日付で学術誌『Multisensory Research』に掲載されています。

目次

  • コーヒーの味は「舌」だけで決まらない
  • 机やスマホの手触りも味に関係する?

コーヒーの味は「舌」だけで決まらない

私たちは普段、飲み物の味を「舌で感じている」と考えています。

しかし実際の飲食体験は、味覚だけでなく、香り、温度、見た目、容器の重さ、手触りなど、さまざまな感覚が組み合わさって生まれています。

たとえば、同じ飲み物でも、薄い紙コップで飲むのと、重みのある陶器のカップで飲むのでは、少し印象が変わることがあります。

これまでにも、カップの色や形、材質が飲み物の味の評価に影響することは報告されてきました。

ただし、従来の研究には課題もありました。

カップの材質が違うと、手で触れる感覚だけでなく、見た目や、唇に当たる感覚も変わってしまいます。

そのため、味の変化が「手触り」だけによるものなのか、それとも視覚や口元の触覚の影響なのかを切り分けることが難しかったのです。

そこで今回の研究では、手で感じる触覚そのものに注目しました。

実験では、紙やすりで作ったざらざらしたスリーブと、クラフト紙で作ったさらさらしたスリーブを用意しました。

実験に使われたスリーブ。左:ざらざら、右:さらさら/ Credit: 中央大学(2026)

カップ自体は同じものを使い、参加者には目隠しをしてもらいました。

これにより、見た目の違いやカップそのものの材質の違いをできるだけ排除し、「手で感じるスリーブの質感」がコーヒーの味にどう影響するかを調べたのです。

参加者92名は、約68℃のブラックコーヒーを約115mlずつ、ざらざらしたスリーブのカップと、さらさらしたスリーブのカップから順に飲みました。

その結果、ざらざらしたカップの後にさらさらしたカップで飲んだ場合、コーヒーの酸味が弱く感じられることがわかりました。

一方で、逆の順番では同じ効果は確認されませんでした。

また、甘味や後味については、手触りによる明確な影響は見られませんでした。

つまり、この研究で示されたのは、「カップの手触りでコーヒーの味すべてが変わる」という単純な話ではありません。

より正確には、さらさらした手触りが、特にコーヒーの酸味の感じ方を弱める可能性がある、という結果です。

机やスマホの手触りも味に関係する?

さらに興味深いのは、この効果がカップに限らなかったことです。

チームはその後の実験で、参加者がカップを持つ手とは反対の手で、机の上に置かれた紙やすりやクラフト紙に触れながらコーヒーを飲む条件も調べました。

すると、カップやスリーブとは無関係の物体に触れている場合でも、さらさらした手触りはコーヒーの酸味を弱める方向に働くことが示されました。

これは、私たちがコーヒーを飲むとき、カップだけでなく、周囲にある物体の手触りにも影響を受けている可能性を示しています。

たとえば、カフェのテーブル、メニュー表、スマートフォン、ノート、PCのキーボードなどです。

もちろん、今回の研究は「スマホを触れば必ずコーヒーの味が変わる」と断定するものではありません。

しかし、飲んでいる瞬間に同時に触れているものの質感が、味覚体験に関わる可能性を示した点で重要です。

実際、別の実験では、手触りを感じるタイミングとコーヒーを口に含むタイミングがずれると、この効果は消失しました。

つまり、触覚と味覚は、同時に体験されているときに結びつきやすいと考えられます。

チームは、この現象について、「ざらざらした感覚」と「強い酸味」、「さらさらした感覚」と「弱い酸味」が、心の中で結びついている可能性を指摘しています。

このような感覚同士の結びつきが、実際の知覚に影響したと考えられるのです。

この発見は、カフェや飲料メーカーにとっても興味深いものです。

近年では、リユースカップや環境配慮型スリーブなど、飲料容器の素材にも注目が集まっています。

しかしそれらは、単に見た目やブランドイメージを作るだけでなく、飲み物の味わい方そのものに関わるかもしれません。

今後は、カップやスリーブだけでなく、テーブル、包装、持ち歩くマイカップなども含めて、「飲む体験」を感覚全体からデザインする発想が広がっていく可能性があります。

コーヒーの味は、豆や抽出だけでなく、手のひらの上でも静かに変わっているのかもしれません。

参考文献

手触りで変わるコーヒーの味 ―世界初・さらさらした触感が酸味を弱めることを発見―
https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2026/06/86512/

元論文

The Contextually Tolerant but Temporally Intolerant Sensation Transference from Tactile to Taste in Drinking Coffee
https://brill.com/view/journals/msr/aop/article-10.1163-22134808-bja10198/article-10.1163-22134808-bja10198.xml

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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