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「俺の痛覚はおかしくなってたんやな」後輩の指摘にゾッとし…又吉直樹が度重なる失恋で学んだ「モテる」ことの“残酷”な本質とは

  • 2026.6.16

又吉直樹さんが書き下ろした詠み句に、たなかみさきさんが絵を描き下ろした書籍『失恋カルタ』が話題となっています。

失恋の喪失感や孤独感を掬い取った繊細な句と、かわいらしくて優しくもどこかちょっぴり切ない絵が魅力的なこのカルタは、当初、又吉さんの朗読会のグッズとして制作。そこから話題となって、新装した『失恋カルタ 藤色版』、そして書籍が発売されることになりました。

今回は又吉さんとたなかさんに、カルタと書籍の制作について、さらにご自身の失恋談やモテについて語っていただきました。

芸人で作家の又吉直樹さん。

付き合えたならそれは「失恋」と呼ばない?

現在好評発売中の『失恋カルタ』(Gakken刊)。

――失恋は悲しいことですし、人によってはかっこ悪い、一刻も忘れたいことでもありますけど、句とイラスト、そしてこれまでのお話からも、お二人は失恋に愛おしさを持っているように感じました。

又吉 今のところ、恋愛して失恋に至るまでがセットという人生を繰り返しているんです。だから僕にとって失恋は、日常っちゃあ日常で、スペシャルなことではないというか。むしろ創作や仕事の養分になってしまっています。「好きになった、けれどダメだった」ということから出た感情や出来事だから、作品にしたくなるのかもしれないですね。

たなか 私は恋愛が終わることを失恋だと思っていなくて、又吉さんの言う「日常」という感覚に近いです。一番近い距離にいた恋人から影響を受けて、今の自分の人格がある。そういう「地続きな感覚」を大事にしています。(その経験が)栄養になっているし、辛い思いをした質感は物作りには大事だと思います。

又吉 たなかさんのお知り合いが言っていたと聞いて、たしかにと思ったのは、「付き合えたのなら、別れても失恋じゃない。付き合えないことこそが失恋なんじゃないか」という言葉です。若い頃はそもそも「付き合えるわけがない」というのが前提にあったなと思い出しました。

――好きな人が自分を好きでいる。それだけで、実は相当な奇跡ですよね。

たなか そうですね。なのに、付き合えた当初の喜びより、失恋の悲しみのほうが質量的に大きくなるというか。大人になればなるほど別れが辛いし、そもそも「付き合い始める」ということ自体がわからなくなったりしますよね。

「一度の失敗が致命傷になる人もいっぱいいますからね」

右からたなかみさきさん、又吉直樹さん。

――今、傷つくぐらいなら人と深く関わらないようにしようと思う方も増えている印象がある中で、たなかさんが「失恋が怖くても私は他者と深く関わりたいと思う」と書かれていたのも印象的でした。お二人は恋愛すべき、もしくはしたほうがいいと思われますか?

たなか 恋愛はすべきとまで強くは思わないんですけど、人とは関わりたいというか。私はいろんな人といろんな種類の関係性を築きたいと思っていて、その中の一種が恋人関係だと思っているんです。今までもいろんな関係を築いて、さまざまなものを得てきた中で、もちろん失敗することもありましたが、失恋という失敗も大事なんじゃないかと感じるんですよね。又吉さんはどうですか?

又吉 そうですね。人によっては必要ないかもしれないですけど、恋愛……していい気がします。恋愛じゃなくても、例えば芸人を目指すべきか目指さないべきかという相談をされたら、僕は絶対に目指したほうがいいですよって言っちゃうんです。あかんかったらあかんかったで、受け入れて次に行けばいい。「あの時やっていれば」と思いながら生きていくのはしんどくないですか?って。ただ、ずっとこれが正論だと思ってたんですけど、ある時、後輩に「又吉さんはそう言いますけど、一度の失敗が致命傷になる人っていっぱいいますからね」って言われて、ゾッとして。

――(笑)。

又吉 そうか、俺の痛覚がおかしくなってたんやなと。恋愛でも失敗を繰り返してますし、その他いろんな失敗も「そういうもんや」と受け入れていますけど、一回の失敗で仕事が手につかなくなる人もいっぱいいるんやろうなと思うと、本当に人によるんやろうなと。僕自身は自分の傷口をめっちゃ観察して「だいぶえぐられるなぁ」とか思いながら、どういうふうに回復していくのかをじっくり見たいタイプではありますけどね。

――自分を大切にしながら、人と関わっていくのは大切なことなのかもしれないですね。

又吉 傷つきすぎないほうがいいですよね。

たなか ベタですけど、「ちゃんと幸せを目指す」というのは大事だと思います。

モテる力より、関係を保ち続ける力のほうが重要

人気イラストレーターのたなかみさきさん。

――それぞれの幸福の中に、失恋という通過点があるのかもしれないですね。恋愛においてはモテるモテないということが議論されることも多々ありますが、お二人の思う“モテ”とはどういうものですか。

又吉 それでいうと、モテることがそこまで重要なのかという問題もあるんじゃないですかね。モテよりも、ちゃんと好きになった人と関係性の強度をどんどん上げながら、その関係を保ち続ける力のほうが重要じゃないですか。俺のことがなんとなく魅力的に見えても、付き合ってみたらめちゃくちゃで、「この人はもう無理や」って愛想を尽かされ続けているわけですから、それはモテてるかもしれないけれど、本質的には何回も採用試験に落ちているわけで。

――過度な期待をされすぎて、本来の自分自身を見てもらえない面もありますかね。

又吉 そうですね。自分がそんな絶望的な状況とも思ってないですけど(笑)、恋愛によって、自分の未熟なところに毎回気づかされる感じです。相手がどうというより、「結局、俺のこの部分が永遠に解消されてないんやな」と突きつけられる。

また、問題点はわかってるから、「ここだけケアできれば」と自分なりに注意して振る舞うんですけど、結局そこがダメで崩れてしまう。次の恋愛では最初からさらけ出そうと思って「自分はこういう爆弾を抱えているから、申し訳ないけどお互い気をつけましょう」と共有して交際を始めたのに、結局その爆弾によって全てが終わる。そういうことはよくあります。

たなか 私も「モテる/モテない」はあまり意識したことがないですね。たくさんの縁が訪れる時期が人それぞれにある中で、そういう時の自分って、自分自身ではあんまり魅力的に思えないんです。それより、1人の時とか、自立したしっかりとしたパートナーがいる時の自分のほうが好きですね。「モテる」と形容していいかはわからないですけど、人がいっぱい近づいてくる時は勝手に何かを投影されているだけなのかなと。だから、私もモテるかどうかは重要じゃないと思っています。

又吉直樹(またよし・なおき)

1980年、⼤阪府寝屋川市⽣まれ。2003年に綾部祐⼆と『ピース』を結成。2015年に⼩説デビュー作『⽕花』で第153回芥川賞を受賞。著書に『劇場』『⼈間』『⽣きとるわ』などがある。

たなかみさき

1992年⽣まれ。⽣活や⼈物を⾵通し良く描くイラストレーター。著書に、作品集『ずっと⼀緒にいられない』『あ~ん スケベスケベスケベ!!』(ともにPARCO出版)、コミック『⼤なり⼩なり』(⽂藝春秋)がある。

文=高本亜紀
写真=深野未希

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