1. トップ
  2. エピソード
  3. 彼女と選んだオリーブが枯れかけていた。理由も言えずに隅へ移した僕が、本当に伝えたかったこと

彼女と選んだオリーブが枯れかけていた。理由も言えずに隅へ移した僕が、本当に伝えたかったこと

  • 2026.6.16
ハウコレ

ベランダの鉢に近づくと、オリーブの葉が何枚も茶色く変わり、ふちから乾いて落ちかけていました。手すり際のその場所は、強い西日がまともに差し込む一角だったのです。彼女と二人で選んだ、大切な鉢でした。なんとかして元気にしてやりたいと、その時の僕は思っていました。

うまくいかない毎日

このところ仕事の山が続き、僕は家にいる時間がほとんどありませんでした。任された案件はうまく進まず、職場では頭を下げてばかり。帰ってもパソコンに向かう日が続き、彼女と顔を合わせて話す時間も、気づけば減っていました。自分は何ひとつうまくやれていない。そんな焦りばかりが膨らんでいくなかで、ベランダのオリーブが弱っていることに気づいたのです。世話を彼女に任せきりにしていたのは、僕も同じでした。

枯らしたくなかった鉢

同棲を始めるとき、二人で時間をかけて選んだ鉢でした。仕事も家のこともうまく回せない僕にとって、その鉢だけは、自分の手で守れる「二人のもの」のように思えたのです。調べてみると、オリーブは陽を好む一方で、強い照り返しや風には弱いとありました。手すり際はちょうど陽がきつく当たる場所でした。僕は鉢を、やわらかい光だけが届く壁際の隅へ移し、毎日水のやり方を確かめながら世話を続けました。弱った葉が増えないことを、ただ祈るような思いでした。

言えなかった一言

そんなある日、彼女に聞かれました。「あのオリーブ、どうして隅に動かしたの?」。本当は、枯れかけていたこと、なんとか守りたかったことを話すべきでした。けれど、鉢にそこまで思い入れている自分を打ち明けるのが照れくさくて、口から出たのは「ああ、あっちのほうがいいと思って」という、そっけない一言だけでした。画面に向かったまま、彼女が小さく息をのんだ気配だけが伝わってきました。違うんだと言いたくて、けれど僕は顔を上げられませんでした。一人で抱えて黙ってしまうのは、僕の悪いところです。

そして...

僕は彼女をベランダに呼び、枝の先に出た小さな芽を指さして言いました。「前の場所だと、葉っぱが焼けてたんだ。こっちのほうが元気になると思って」。たったそれだけのことを、どうして最初に言えなかったのだろうと思います。鉢を守るより先に、その気持ちを彼女に話すべきだったのです。黙って抱え込むより、これからは下手でも言葉にしていきたい。新しい芽を二人で見つめながら、僕はそう心に決めました。

(30代男性・システムエンジニア)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる