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レトロでおしゃれな街並みが素敵すぎた【ポルトガル】ポルトでエッグタルト「ナタ」食べ歩き旅

  • 2026.6.14

訪れた国は約40カ国。サウナと旅をこよなく愛するタレント・モデル・俳優の清水みさとさんの連載エッセイ。今回は、大好物の「ナタ」(エッグタルト)を食べに飛んだ【ポルトガル】でのお話。

【連載】清水みさと「旅をせずにはいられない」vol.9 見えても見えなくてもぜんぶ美味しくて、愛おしい

ポルトガルの朝は、靄に包まれてまだ夢のつづきみたいだった。

ポルトガルの第二の都市「ポルト」は、ドロウ川沿いの丘の街だから、朝夕に靄が出やすいらしい。わたしは先が見通せないまま眠気まなこで、坂道の多いポルトの街を歩いた。なんだか、ぼんやりとして、やわらかくて、はっきり見えすぎないのもいいもんだな、と思う。

小学生のころから劇的に視力が悪いわたしは、最近ICLの手術を受けて視力2.0の視界を手に入れた。おかげで、はるか彼方から空車のタクシーがやってくるのもわかるし、信号の先で誰かが不機嫌そうな顔をしていることまで認識できるようになった。
 
見えることは本当に素晴らしくて、間違いなく便利だけど、見えすぎるのもいかがなものかとこのごろ思う。
 
誰かの不機嫌も、早朝の渋谷のゴミも、見えすぎなくてもいい気がしていたばかりだったから、ちょうどよく見えないポルトの朝靄が途端に好きになった。2.0も朝靄には敵わない。わたしはぼやけた景色をうれしく眺めながら、てくてく歩いた。

初めて訪れたポルトガルは、念願だった。行ってみたいと思っていた理由は、大好物のエッグタルト(ナタ)が本場で、ごはんがおいしい(ざっくり)らしいから。

世界には「どうしてもこの景色が見たい」とか(前回のモロッコ旅がそれ)、「ここでしかできない体験がある」とか、強い理由で向かう場所もあるけれど、わたしの場合は食べものだけを理由にして、そのうえ、目当ての店があるわけでもないのに、世界のまあまあ裏まで来れるらしい。
 
散歩の途中、香りも店構えもいいパン屋さんを見つけた。今日は昼も夜も、食べたいものがわんさかあって、胃袋に余裕を持たせなくちゃいけなかったのに、店の奥から次々に運ばれてくるクロワッサンを見ていたら、入らないわけにはいかないという使命感に駆られてしまった。

ベーカリーカフェ「MiBa Artisanal Bakery」

わたしはすかさず、できたてのピスタチオクロワッサンとコーヒーを注文して、窓際に座った。コーヒーもクロワッサンも驚くほどおいしい。グーグルマップにチェックをつけようと開くと、「世界一好きなクロワッサン!」という口コミを見つけた。自分の嗅覚に、思わずほらねと誇らしくなった。

ポルトに来てから入ったどのお店も、すみずみまでセンスがいいのに全然気取っていなかった。おしゃれなのに、肩の力が抜けていて、暮らしの延長線上の美しさがある。それは、街全体もそうだった。
 
古い建物の中や隣に気の利いたカフェがあり、向かいには創業100年越えの食堂があって、古い街並みの中に新しい感性が自然に溶け込み、そのバランスがカッコよくて、心地よかった。

食べ歩いたナタ(エッグタルト)は想像以上にずっと甘くて、何軒も食べ比べたけど、正直、代々木公園の「ナタデクリスチアノ」のほうが好きだった。本場で出会う本物が、必ずしも自分にとっての一番じゃなくちゃいけないわけじゃない。遠くまできても自分の好みにブレがないことが、妙にうれしかった。

港町であるポルトには、海の恵みがずらっと並ぶ。市場にいけば、もうここで一日食べ歩いて終われそうだし、レストランにいけば、何を頼んでもおいしくて、サンセバスチャンでバル巡りをしたときみたいに、何軒もはしごした。

ワインバー「Genuíno - Vinho Natural e Boa Comida」

ポルトガルでしたことといえば、コーヒーを飲み、散歩をして、おいしいものを食べて、美術館に行って、洋服を買ったくらいで、日常みたいなことばかりしていたら帰国する日になっていた。

たぶんわたしは、ポルトガルってどんな国? と聞かれても、坂道が多くて、おいしくて、スペインの隣みたいなことしかきっと答えられなくて、こういう国だと言い切れるほど、ポルトガルという国を説明できない。
 
だけど、人々はおおらかで、国全体が明るくて、見えるものから見えないものまでどれもこれもが愛おしかった。朝靄がきれいで、ナタが甘くて、ポルトガル料理はほんとうにおいしい。思ったより曖昧で、思った以上にすきな国。特別な体験というよりも、暮らしの想像ができるヨーロッパだった。
 
ポルトガルは、わたしの視力2.0に敵ってしまう。
 
また変な褒め言葉を思いついてしまったよ、だいすきポルトガル。

photograph & text:MISATO SHIMIZU

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