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「35歳に見えない」が当たり前になった時代へ。セレブとSNSが加速させる“年齢の混乱”とプレッシャー

  • 2026.6.1
Yulia Reznikov / Getty Images

映画『プラダを着た悪魔 2』の公開に沸く中、インターネット上ではミレニアル世代のクイーン、アン・ハサウェイの姿に驚きと称賛の声が上がっている。映画のあらすじはさておき、多くの人が注目しているのは、アンが20年前に『プラダを着た悪魔』が公開されてから1日も年をとっていないように見えること。

しかも、それはアンだけじゃない。もはや若返っているように見える、あるいは全く年をとっていないように見えるセレブが増えているのだ。毛穴レスな肌を持つ35歳のマーゴット・ロビーは、最近映画『嵐が丘』で10代のキャシー役を演じたばかり。そして70歳のクリス・ジェンナーも、日によっては娘キムの姉と言っても通用しそうなルックスをキープしている。

「年齢盲」が生む“新しい年齢相応”

Berk Ucak / Getty Images

この“錯覚”は、加齢に対する文化的な変化の一部であり、TikTokerたちの間では「年齢盲(age blindness)」とポップに名付けられている。このキャッチーな言葉は、実年齢を見分けるのがどんどん難しくなっている現象を指すもの。フィルターやスキンケア、美容医療が身近になった今のカルチャーでは、かつて30代、40代、あるいはそれ以上であることを示していた見た目のサインが、ほぼ消え去ってしまった。その結果として起きているのが、自分自身も含めて、誰も「その年齢にふさわしい見た目」がどんなものか分からなくなってしまう、集団的な“年齢の身体醜形障害”のような状態なのだ。

ハリウッドは、整形手術や美容医療をノーマルなものにしつつ、最高に盛れるアングルや照明、加工技術を駆使することで、この現象を後押しする大きな役割を果たしている。実年齢より若く見えるセレブの画像と、完璧にキュレーションされたSNSのフィードが相まって、美容医療への欲求はますます高まり、その需要は年々右肩上がり。

「『年齢盲』はポジティブな連鎖になっています」と語るのは、ニューヨークを拠点とするダブルボード認定の形成外科医、ドクター・マイケル・J・スタイン。「加齢を受け入れられない人が増えることで、美容整形を受ける人が増加します。そして、若く見える人が増えれば増えるほど、周囲の人は『これが新しい“年齢相応”の姿なんだ』とプレッシャーを感じるようになるのです」と彼は説明する。

年齢の混乱に拍車をかけているのが、美容メンテナンスを取り入れるタイミングが人によってバラバラになってきていること。シワやたるみのサインが目に見えて現れる前に、「ベビーボトックス」やミニリフトのような施術を選ぶ人が多くなっている。さらに、SNSのフィードに流れてくるインフルエンサーたちの洗練されたパーソナルブランディングも影響大。GRWM(Get Ready With Me)動画や美容医療のレポ、ピラティス、爆買い動画などのコンテンツは、常にメンテナンスすることが当たり前であるかのように美の基準を格上げし、ついていくのがしんどいと感じさせる要因にもなっている。施術や治療を受けるたびに、私たちは若返るだけでなく、同じような「美の理想形」へと向かっているのだ。

スキンケア知識の向上が生む、「やらなきゃ」という圧力

Tanja Ivanova / Getty Images

そして見逃せないのが、私たちのスキンケアへの情熱。何ステップも重ねるセルフケアから、外見を最大限に磨く“ルックスマキシング(looksmaxxing)”やその派生トレンドまで、今の私たちが肌やボディをケアする方法は、ニューヨークの認定皮膚科医であるドクター・シェリーン・テイムールが呼ぶところの「スキン・リテラシー(肌の知識力)」を反映している。これこそが、みんなの「年齢盲」を引き起こしている大きな要因であることは間違いない。今や多くの人が、コラーゲンの減少、紫外線ダメージ、色素沈着、炎症といった概念を、上の世代にはなかったレベルで深く理解しているのだから。

「ミレニアル世代は、予防美容を当たり前のものにした最初の世代です。毎日の日焼け止め、20代からの処方レチノイド、深いシワが定着する前のボトックス注射、コラーゲンをサポートするエネルギーデバイスなどですね。だから『35歳には見えないね』と誰かが言うとき、それは『かつての35歳のイメージとは違うね』という意味であることが多いんです」とドクター・テイムールは語る。例えば、肌質が向上することで、実年齢より「何歳も若く見える」効果が生まれ、それが「年齢盲」の概念を加速させていると彼女は付け加える。

ただし、ミレニアル世代の美容への執着には、文字通りにも比喩的にも“代償”が伴う。彼らはどの年齢層よりも美容製品や施術にお金をつぎ込んでおり、なんと40%がコスメにお金を使いすぎたことを後悔しているというデータも。私が友人たちと話していても、ほぼ全員が「エイジングケア製品を使ったり、ヒアルロン酸やボトックスのような施術を受けなきゃいけない」という社会的なプレッシャーを少なからず感じていると口にする。

若く見えるのが当たり前? “若見え”ブームのメリットと危うさ

Sally Anscombe / Getty Images

さらに、私たちが長年「年をとること」と結びつけて考えてきた“人生の節目”も関係している。昔なら、20代後半から30代といえば、キャリアの安定、結婚、出産、マイホーム購入といった「落ち着く」ためのマイルストーンがあるのが一般的だった。でも、環境のせいであれ自分の選択であれ、そうしたイベントが期待通りのタイミングで起きないと、私たちの心はかつて加齢と結びついていたサインを受け取れず、それがまた新たな「年齢盲」のレイヤーを生み出すことになる。

「問題なのは、人生の節目が訪れなくても、体とカレンダーは進み続けるということです。そして、自分が『若い・老けている』と感じる感覚と、実際の年齢との間のギャップにこそ、年齢盲や身体醜形障害が存在するのです」と語るのは、ニューヨークを拠点とする神経心理学者で、「Comprehend the Mind」のディレクターを務めるドクター・サナム・ハフィーズ。「これは単なる思い込みではなく、脳が辻褄を合わせようとしている、客観的にも混乱を招くズレなのです」

誰の言葉かは諸説あるものの、「若さは若者にはもったいない」という古いことわざがある。その精神にのっとれば、自分自身を実年齢よりも若く見え、若く感じていると認識することは、本当に悪いことなのだろうか? ドクター・スタインによると、外見を変えることは自信を高め、不安や気分の落ち込みを減らし、人との関わりを促し、さらには運動へのモチベーションアップにも繋がるという。そうしたライフスタイルの変化は、健康と外見の両方にポジティブな影響を与え、ある意味で「時計の針を巻き戻す」ことができると彼は言う。

「時計の針を巻き戻す」という考え方は、本質的にはエイジズム(年齢差別)を含んでいる。しかし専門家たちによれば、目標にすべきは年齢を消し去ることではなく、年齢の重ね方を最適化することだという。「40歳の健康な肌と25歳の健康な肌は違って見えますが、それでいいんです」とドクター・テイムールは語る。「本人がエネルギッシュだと感じ、自分の見た目に納得しているなら、その自信には大きな意味があります」。大切なのは、客観的な視点を持ち、美容の目標と同じくらい心の健康を最優先すること!

年齢は消すものじゃない! 加齢の捉え方はアップデートできる

Steve Prezant / Getty Images

「最もヘルシーな考え方の転換は『年齢なんて関係ない』と思い込むことではありません。なぜなら、年齢はあなたを形作る大切な要素だからです」とドクター・ハフィーズ。「本当にヘルシーなのは、『年齢に私のあり方を決めつける権利はない』と考えること。この2つには大きな違いがあります。その違いを理解して生きること、つまり数字に縛られることなく自分の経験を尊重することこそが、人ができる最も重要な心理的ワークのひとつなのです」。

年を重ねることは避けられないけれど、私たちがそれをどう経験し、どう捉えるかは進化し続けている。「その進化は決してネガティブなものではありません」とドクター・テイムールは言う。「ただ、科学的根拠やバランス、そして自分自身を正しく知ることに根ざしている必要があるだけなのです」。

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