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25年前、僕らはあの夏に“二つの声が溶け合う瞬間”を聴いた サビの解放がいっそう鮮やかに映った2作目

  • 2026.6.27

2001年の初夏。ある二人組の歌声が、街のあちこちから流れていた。その春に放ったデビュー曲が大きな話題をさらい、その熱気がまだ冷めやらないなかで届けられた、次の一曲。タイアップに頼らない、純粋な歌の力だけで勝負した2作目だった。

二人は、テレビのオーディション番組から生まれた。数えきれないほどの応募者のなかから選ばれた、澄んだ声と、力強い声。対照的な二つの歌声が一つに溶け合う瞬間こそが、この曲のいちばんの聴きどころだ。

CHEMISTRY『Point of No Return』(作詞:麻生哲朗/作曲:藤本和則)ーー2001年6月6日発売

デビュー曲の勢いが、決してまぐれではなかったこと。それを、声高にではなく、静かに、しかし確かに示した一曲だった。

後ろ盾を借りず、歌だけで正面突破した

デビュー曲で大きな成功を収めた直後というのは、実はいちばん難しい場面なのかもしれない。世間の期待がふくらみきったところで、次に何を出すか。そこで、その勢いが本物だったのか、それとも一度きりの打ち上げ花火だったのかが問われてしまうからだ。

CHEMISTRYが選んだのは、ドラマやCMといった後ろ盾を借りない、ノンタイアップの一曲だった。映像の力も、話題の追い風もない。歌だけで勝負する、いわば正面突破だ。それでもこの曲は累計で60万枚を超えるセールスを記録し、二人の実力が一度きりのものではないことを、数字の面からもはっきりと証明してみせた。

話題が先に立つのではなく、歌そのもので次の扉を開けてみせる。その身軽な選び方にこそ、デビューを成功させたばかりの二人の、静かな自信がにじんでいる。守りに入らず、いちばん難しい正面の道をあえて選ぶ。その潔さは、曲を聴く前から胸を熱くさせる。

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2006年8月、「J-WAVE LIVE 2000+6」に出演したCHEMISTRY(C)SANKEI

抑えて重ねるから、サビの解放が際立つ

澄んで伸びやかな堂珍嘉邦の声と、芯のある力強い川畑要の声。この対照的な二つが重なる瞬間にこそ、このデュオの本質がある。

片方が空へ抜けていくような高さを持ち、もう片方が地を踏みしめるような太さを持つ。普通なら混ざりにくいはずの二つの声質が、サビでファルセットの境を行き来する高い音域で出会う。二つの声は互いをそっとなぞり、追いかけ、せめぎ合い、最後には一つの響きへとほどけていく。その重なりの瞬間に、聴いている側の胸が、ふっと熱くなる。

面白いのは、二人がいつも全力でぶつかり合うわけではないことだ。Aメロでは互いに一歩引き、相手のために余白を残すように歌う。そうして声を抑えて重ねておくからこそ、サビでの解放がいっそう鮮やかに映る。歌のうまさを競うのではなく、二人で一つの感情をかたちにしていく。その呼吸の良さは、結成からまだ間もないデュオのものとは、とても思えないほど自然だった。

グループの名前が示すとおり、別々の成分が出会って、思いもよらない反応を起こす。その化学反応そのものが、ここでは音になっている。どちらか一人が主役なのではない。二人がそろわなければ決して鳴らない響きが、この曲の真ん中にある。

片方の声だけを取り出してしまえば、この曲はまるで違う表情に変わってしまう。重なって初めて完成する、その不可分さこそが、何度でも聴き返したくなる核になっている。聴き込むほどに、二つの声がどこで交差し、どこで離れるのかを耳が追いはじめる。

打ち込みと生音のさじ加減が生む心地よさ

作曲と編曲を手がけたのは藤本和則。デビュー曲と同じ作り手が、引き続き音を組み立てている。同じ座組が2曲続けて手綱を握ったことが、サウンドにぶれない芯を与えた。

打ち込みのビートをしっかりと土台に置きながら、その上へ、ハープやギターといった生の音色がそっと寄り添う。無機質になりすぎず、かといって甘くなりすぎない。初夏の風のような、爽やかなミドルテンポがゆっくりと立ち上がっていく。

イントロからして、ことさら身構えさせない。すっと耳に入ってきて、気づけば二人の声に包まれている。派手に幕を開けるのではなく、自然に物語の入口へと連れていく。その始め方の上品さも、この曲の美点のひとつだ。打ち込みの正確さと生楽器のぬくもりを、どちらにも偏らせず溶かし込む。そのさじ加減が、聴き疲れのしない心地よさを生んでいる。

聴きどころは、やはり終盤だ。それまで抑えられていたアレンジが、最後の山場で一気に大きく開き、二つの声が伸びやかに重なり合っていく。その解放感が、一曲のなかに、まるで短い物語のような起伏を与えている。淡々と流れていくだけの曲ではない。きちんと高まり、きちんと余韻を残して終わる。その作りの確かさが、何度聴いても飽きさせない理由のひとつだ。

ちなみにこのシングルには、カップリング曲に、ケツメイシの手によるリミックスが収められていた。表題曲の落ち着いた佇まいとは違う遊び心が、同じ一枚のなかにそっと同居していた。

もう引き返せない場所で鳴った響き

『Point of No Return』とは、もう後戻りできない地点を指す言葉だ。デビューでの大きな成功によって、二人はもう引き返せない場所に立っていた。その覚悟が、曲名と静かに響き合う。

あの初夏、二つの声が一つに溶け合っていくのを聴いたとき、私たちはきっと、何かが本格的に始まる予感を、どこかで感じ取っていた。流行は移り変わり、ヒットの形も大きく変わった。それでも、誰かの声と誰かの声が出会って一つになる、その瞬間の手応えだけは、時代がどれだけ進んでも古びることがない。

華やかな記録の大きさだけで語られる曲ではない。長く歌い継がれていくのは、いつだって、あの響きそのものだ。二つの声が出会って生まれた熱は、25年を経たいまも、最初の温度のまま胸に届く。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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