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27年前、僕らは街じゅうで流れたあの旋律を覚えている 70万枚を超えて遠くまで届いた"深呼吸の一曲"

  • 2026.6.27

1999年のこのバンドは、文字どおり走り続けていた。春にシングルを放ち、夏にはアルバムを2枚同時に出す。1年がまるごと祭りのような、そんな勢いの真っ只中にいた。その騒がしさのちょうど真ん中に、彼らはすっと静かな一曲を置いた。

L'Arc〜en〜Ciel『Pieces』(作詞:hyde/作曲:tetsu)ーー1999年6月2日発売

豊かなストリングスをまとった、聴き込むほど沁みてくるバラードだ。当時を知る世代なら、街のあちこちで流れていたあの旋律を、すぐに思い出せるはずだ。累計で70万枚を超えるヒットになった。派手な攻めの曲ではなく、いちばん静かな一曲が、この年いちばん遠くまで届いた。

走り続けた1年の、ふっと立ち止まる場所

この年のラルクの動きを並べると、その密度に驚く。4月に攻めたロックナンバー『HEAVEN'S DRIVE』を出し、7月にはアルバム『ark』『ray』を2枚同時にリリースする。疾走するシングルと、大作のアルバム群。その合間に、まるで深呼吸のように置かれたのが『Pieces』だった。

アルバムを2枚同時に出すというのは、それだけで尋常ではない。曲が足りないどころか、あふれて止まらない。そんなバンドの絶頂期の真っ只中である。激しい曲とにぎやかな話題が続くなかで、あえてテンポを落とした一曲を挟む。この緩急の付け方が、当時のラルクの勢いを物語っている。

飛ばし続けるだけでなく、ふっと立ち止まって聴かせる引き出しを持っていた。そして多くのファンにとって、その立ち止まりの一曲こそが、この年いちばん記憶に残る歌になった。にぎやかさの真ん中に置かれたからこそ、この静けさは際立った。

当時、この旋律はテレビでもラジオでも繰り返し耳に飛び込んできた。激しいロックバンドという入り口から入った人も、そこをくぐらなかった人も、この一曲だけは知っている。そういう広がり方をした歌だ。累計70万枚を超えるという数字は、その光景の裏づけにすぎない。

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hyde。1998年2月、東京・NHKホールで行われたL'Arc〜en〜Cielライブより(C)SANKEI

感情の頂点を、歌ではなく演奏に預ける

この曲でぜひ聴いてほしいのが間奏だ。曲の中盤、ストリングスがぐっと厚みを増し、音の風景がどこまでも広がっていく。オーケストラが空を満たすような、壮大な高まり。その頂点で、ふいにギターソロが切り込んでくる。広がりきった空間を、一本のギターがまっすぐ貫いていく。その瞬間に、多くの人が胸を掴まれる。

hydeの歌声も、この曲では力みがない。やわらかく、包み込むように旋律をなぞっていく。ただ声を張って感情を押し出すのではなく、静かに差し出す歌い方が、ストリングスの広がりとぴたりと溶け合う。激しい曲で見せる鋭さとはまた別の、やさしい横顔がここにある。

この歌が見つめているのは、燃えるような恋でも、派手な別れでもない。もっと静かで、もっと大きな、時間の流れそのもののようなものに映る。だからこの曲は、何度聴いても聴き飽きない。聴くたびに、その時々の自分の心の景色が、小さなかけらのように映り込んでくる。

表題曲を量産する指が、最も手こずった一曲

この旋律を書いたのは、tetsu(現・tetsuya)だ。ラルクは、メンバーそれぞれが曲を書く珍しいバンドで、tetsuyaはそのなかでも、キャッチーで強い表題曲を数多く手がけてきた書き手である。

聴き逃せないのが、tetsuya自身が弾くベースだ。この曲のベースは、ただ低音で土台を支えるだけではない。歌のうしろで、もう一つの旋律のように動いていく。ラルクの曲のなかでも指折りの難しさで、1番、2番、終盤と、同じ曲のなかで少しずつ表情を変えていく。

音を詰め込むのではなく、鳴らさない間を巧みに使い、必要なところでだけすっと顔を出す。低音でどっしり支える役と、歌に寄り添うもう一つの旋律を歌う役。その二役を、一本のベースが行き来している。作曲もベースも、同じ一人の指から生まれている。だからこの曲は、骨格から細部まで、一人の作り手の美意識でひと続きにつながっている。

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tetsu(現・tetsuya)。1998年2月、東京・NHKホールで行われたL'Arc〜en〜Cielライブより(C)SANKEI

飛ばした夜を、そっと地上へ降ろす歌

20年以上が過ぎても、この曲はライブの大切な場所で鳴り続けている。公演の最後を締めくくる定番の一曲だ。長い夜の果てに、この旋律が流れ出すと、その日の景色がまるごと一つにまとまる。激しい曲で観客を沸かせてきたバンドが、最後の最後に選ぶのが、この静かな一曲だというのが面白い。飛ばすだけ飛ばした夜を、そっと地上へ着地させる役目を、このバラードが引き受けている。

走り続けた1年の真ん中で、ふっと差し出された静かな歌。それが四半世紀をこえて、いまも誰かの夜の終わりに寄り添っている。にぎやかな祭りの記憶ではなく、その合間にあった静けさのほうが、こんなにも長く胸に残る。いちばん飛ばしていた年に置かれた、いちばん静かな一曲。それが結局、いちばん遠くまで歌い継がれている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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